第58夜 地獄の掟
「鬼ってあの妖怪的な鬼?」
彩香が考えるように視線を上に向けながら聞く。
「いかにも。
お前達人間のイメージしている鬼とほぼ同義だと考えてくれて良い。」
「鬼って本当に居たんだ…。
信じられない…けど、信じられないような光景を散々見てきたからなぁ…。」
彩香はさほど驚いた様子もなく話を聞いている。
「地獄では1万年に一度、閻魔大王様が代替わりするんだよ。
そして無有様はその正当後継者としてお産まれになった方なの。
人間界でいう…王子みたいなもんかな。」
妲鬼が説明し、楽鬼が続ける。
「そして僕達は無有様の側近。後1人刃鬼ってのがいるよ!」
楽鬼が紹介を終えると、無有は重苦しい口調で話し始めた。
「20年前、我々は何者かに謀られ地獄を追放された。
閻魔大王の怒りを買った余に対し、家臣達は皆敵となり、一族ですら余を信じてはくれなかった。
しかしこやつらだけは余の味方だった。
やがて我々は鬼の大軍に追い詰められ、いよいよ抹消されかけた時、突如現れた時空の裂け目に飛び込んで命からがら正界へと逃げ出したのだ。」
「そして逃げ出した先には血の海に佇む美少年が居た…。」
漆原が顎に手を当て、スカしている。
「うむ。美少年は居なかったが、そこにはまだ少年の染一が居た。
当時5つだったこやつはその才を発揮し、陰獄召喚により我々を呼び寄せたのだ。」
無有の説明に漆原が食ってかかる。
「俺が美少年だっつーの!
俺しか居なかったんだからわかるだろ!
そこは話合わせろよ!」
「あれ…でも今から20年前だと漆原くんはまだ産まれてないはずだよね?
どうゆう事?」
明里の指摘はもっとも。
「白石さん。
地獄はね、反界なんだよ。」
美少年漆原が補足する。
「あっ…反界では時間の流れが違う…」
「そゆこと。
20年前の無有達と11年前の俺の陰獄召喚が時間軸を超えてリンクした。
そして今に至るというわけだ。」
自称美少年漆原は相変わらずスカしている。
「もうすぐで今の閻魔大王様が誕生してから1万年…あたし達は次の儀式までに地獄に戻る方法を探している。
そうこうしてる中で月美学会に無有様を謀った者が居る可能性を見たの。
もしそいつを捕らえて閻魔大王様の前に突き出せば無有様の無実が証明され、晴れて地獄に戻れるってわけ。」
妲鬼が話しながら時折見せる怒りの表情は、まさに鬼と呼ぶにふさわしい。
「私達には遠い世界の話だな…」
彩香がその発言とリンクするかのように遠くを見つめる。
「そんな事はないぞ。
鬼とはお前達人間の魂が元となってできるものだ。
とりわけ怨みや怒りといった負の感情が蓄積し、陰素が強くなった魂を鬼と云うのだよ。」
「魂って鬼の字が入ってるね。
陰素が強くなった魂を鬼と云う…
鬼ってそうゆう事なんだ…。」
明里はすっきりとした表情を浮かべる。
「まあ霊魂なんて基本陰素の方が強いからね。
しかし繭子みたいなパターンもあるから一概には言えないけど。」
再び美少年漆原が補足する。
「ここからが重要なんだけど、月花が言っていたように鬼同士の私闘は禁止されてるの。
もし私闘を行えばそれに関わった鬼やありとあらゆる者が閻魔大王様に抹消されるわ。
死や成仏なんて生温いものではなく抹消。
つまり魂が輪廻から外れ、正界や反界に関わらず次元自体に存在できなくなる。
本当の意味での消滅よ。」
「そうゆうわけで僕らは鬼とは闘えない。
月花のあいつが夕鬼を召喚した理由はそこにあるってわけ。」
楽鬼はどんな話をしている時でも楽しそうだ。
「だが鬼を召喚するという事は死ぬまで鬼の陰素を吸い続け、逆に自らの陽素を与え続けるという事…
これは寿命を縮める行為である為、力のある法力者でも中々できる事ではないのだ。
だが逆に言えば、月花が我らの存在を脅威に感じたという事でもある。」
「つまり…?」
彩香が核心を聞く。
「お前達が文字通り鬼のように強くなれば、奴らと渡り合えるかもしれぬという事だ。
こちらの戦力は染一1人に対し、あちらは10人の半人半魔と500万人の信者。
勝てる可能性は限りなく0に近い。
しかし、明里とそちらの娘2人…貴様らを入れれば染一1人よりはもう少しマシになるだろう。
この先は奴らも本気で潰しに来る…。
闘う術を授けよう。」
突然の無有の宣言に明里と彩香と笑実の3人はあんぐりと口を開け、石化してしまったかのようにかっちりと固まっていた。




