第57夜 不良
「と、まあこんなところだ。
おk?」
諸々の説明を終えた漆原が不良達と逆井に尋ねる。
「なるほど…
信じられない話ばかりだが、あの大蛇の姿と、闘いを見てしまった後ではそうも言ってられないな…。」
佐野がそう呟くと鬼兵隊のメンバー達もうなずく。
「俺も天海団地の後だからねぇ…。
まさかこの世にあんな化け物や、超能力が実在してるとは思わなかったよ。
ん?電話だ…あっ、反町さん!
ええ、今明里ちゃん達と居ます。
ええ、ええ…」
逆井が電話しながら少し離れる。
「それで漆原さん…
俺達鬼兵隊は何をすればいい?」
佐野が問いかける。
「佐野、これからは俺の事はマスターと呼ぶんだ。
そうだな…お前達にはこれから天海市の不良を統一してもらう。
そしてその後は神奈川県、関東地方、最後には全国制覇だ!!!
できるか?」
「はっ!マスターの命とあらば!!
てめえら!全国制覇だ!!!」
「おぉぉぉぉ!!」
「では、まず手始めに夜な夜な天海駅で悪事を働くギャングチーム、G-heavenを潰せ。
行くのだ!!漆原鬼兵隊!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
雄叫びを上げる漆原鬼兵隊は、ゆっくりと行進しながら陽神神社を後にした。
「不良の人達を統一って…月美学会とは全然関係無いじゃない。」
明里が立ち去る鬼兵隊の背中を見つめながらポカンとした表情で呟く。
「でも月美学会との闘いに巻き込んだら全員殺されてしまうから。
かと言って放置していると巻き込まれる可能性がある。
目的を持たせておこう。」
漆原も同様に鬼兵隊の背中を見つめながら話す。
「どうゆう事?」
「ああいった不良は実際関わってみると性根が腐ってるわけではない事がわかる。
今回の佐野みたいにね。
しかし彼らの多くは家庭環境が悪く、居場所が無いケースがほとんどだ。
かと言って16歳やそこらで社会に出る勇気も無い。
そうなってくると、孤独な彼らは自分と似たような人物と繋がり、そこに居場所を見出す。
男は特に、群れると強くなったような気になりがちなもんだ。
そして鬱憤を晴らす為に悪事や暴力といったいわゆる非行に走ってしまう。
もちろんそんな事しなくてもちゃんと真面目にできる奴はできるんだけどね。
でも皆が皆そんなに強いわけじゃない。
だから俺が彼らの心の拠り所になる事で、間違った事をしそうになる時に恐怖と忠誠でブレーキをかけれるようにして管理下に置いたわけ。
鬼兵隊ってのはふざけたてるけど、急に彼らに真面目に勉強しろなんて言っても無理な話でしょ。
不良は不良らしく、拳で青春させてやらないとね!」
漆原がドヤ顔で暴力を助長する事に違和感を感じながらも、なぜか説得力のある彼の言葉に明里が問いかける。
「暴力を振るうのはいけないとして、不良の人達の事どうしてそんなに詳しいの?」
「ああ、うちの親父が教師だったんだ。
保護司もやっててさ、ガキの頃からあの手の奴をたくさん見てきたからだよ。
保護司ってのは非行少年少女の更生人みたいなやつね。」
「漆原くんのお父さん先生だったんだ…。
今は何してるの?」
一瞬、漆原の瞳の奥に深い闇がちらつく。
「ん、俺がガキの頃に死んだよ。
…まあそんな事よりそろそろ松永さんの様子を見に行こうか。」
明里は申し訳なさと気まずさを感じながらもこの件に関してはこれ以上触れてはならないと判断し、黙って漆原と共に笑実の下へと向かった。
キィー
「明里…」
明里達が部屋へ入ると、ベッドに横たわる笑実が上体を起こす。
それを支える彩香。
「無理しないで笑実。
具合いはどう?」
心配そうな表情を浮かべる明里。
「まだ頭がクラクラするけど…大分良くなったよ。ありがとう。」
笑実が力無くお礼を言っていると、勢いよくドアが開いた。
「染一くん!
…おおっ、これが明里ちゃんの部屋か!
良い匂いが…ってそうじゃない!
多摩川の件で警察がドタバタしているらしい。
反町さんからすぐに戻るように言われたから俺はここで失礼するよ。」
逆井が急ぎ足で明里の部屋を後にする。
「そういえば漆、そのわんちゃんとおばさん達は何者なんだ?」
彩香が、逆井とすれ違いに入ってきた無有達を見ながら問いかける。
「ああ、彼らは」
漆原が説明しようとすると無有が遮る。
「それは余から話そう…
我々は…地獄を追放された鬼だ。」
無有の突然の告白に、その場に居る漆原以外の全員が、脳が石のように固まり、思考停止していく感覚を覚えていた。




