第51夜 謀反
「ごめんね白石さん。乱暴な真似して。」
前原が爽やかな笑顔を見せながら猿ぐつわを外す。
「んっ…ハアッ、ハアッ…
前原くん、何でこんな事…
それに笑実に何をしたの!?」
明里が息を切らしながら問い詰める。
「それは君が我々月美学会に必要な存在だからだよ。
それに鈴木に深手を負わせた漆原を潰しておこうと思ってね。」
先ほどとは違い、邪悪な笑顔を浮かべる前原。
「月美学会!?
…あなたはまさか?」
「あ、そうそう。
君のお友達の笑実ちゃんは俺の操り人形にしておいたよ。
俺の指示以外では動かないし、もう人格も戻らないよ。ククク」
「どうゆう事!?
私が目的なら笑実は関係無いでしょう?
笑実を元に戻して!」
珍しく明里が怒りを露わにする。
「いや関係大有りでしょ。
この子を操ったおかげでこのバカ共でもここまでスムーズに君を拉致する事ができたんだ。
それに、彼女は俺に惚れている。
これからはずっと俺の人形として傍に置いてやる。
彼女も本望なんじゃないかな?」
時折舌を出しながら笑う前原に寒気を感じる明里。
しかし怒りの炎がそれを打ち消す。
「ふざけないで!!
私が必要なんでしょう!?
笑実を元に戻さないなら舌を噛み切ってー」
明里はすかさず猿ぐつわをハメられる。
「意外と怒るんだねえ君…
今死なれると困るんだよ、わかるだろ?
…あ、そうそう知ってる?
君、実はこのバカ共から人気があるって。
不良って君みたいな女の子に憧れちゃうんだよねぇ。
うるさいし、ちょっと精神的にダメージ与えちゃおっかな。」
前原が視線を送ると不良達が明里の方へ近寄ってくる。
「へへっ白石、前から良い女だと思ってたんだよ。」
不良の1人が明里の髪の匂いを嗅ぐ。
「んー!んー!」
猿ぐつわのせいで明里は言葉を発せない、
「やれ。」
前原が冷たく言い放つと不良達が明里の身体に触れようとする。
バキッ!
「ぐあっ!」
「やめろてめえら!!」
佐野が不良の1人を殴り飛ばした。
「くっ…佐野…お前、前原さんに逆らうのか…?」
ドカッ、バキッ!
すかさず追い討ちをかけるように拳と蹴りを叩き込む佐野。
「ハアッ、ハアッ…
てめえら…転入生1人にシメられ、下僕に成り下がり挙げ句の果てには女を攫う…
男として恥ずかしいと思わねえか?」
佐野は怒りに打ち震えている。
「前原…てめえの言う事を聞くのはここまでだ!
俺はもう我慢できねえ!
白石、助けるのが遅くなって悪かった。」
明里の猿ぐつわを取る前原。
「おい、お前ら。
こいつ殺していいよ。
その後の尻拭いはしてやるから。」
佐野の顔に表情は無い。
「え、こ、殺すって…」
動揺する不良達、
「はぁ…そうか。
こいつらまだガキだったな。
おい、とどめは俺が刺してやるからとりあえず動けなくなるまでボコボコにしとけ。」
『はい』
2人へと近付いていく不良達。
「白石、5分ぐらいは時間を稼げると思う。
その間に逃げろ。」
そっと耳打ちする佐野。
「で、でも佐野くんが…!」
「こうなっちまったのも元はといえば俺のせいだ。
逃げ切れた後に余裕があったら助けを呼んでくれ。」
佐野が冗談っぽくこの後のプランを言うと、勢いよく不良達に向かっていった。
明里が後ろ手に縛られたまま走り出す。
倉庫出口まで後少し…
ドッ!
突然背後から押さえつけられた明里が地面に倒れる。
「どこ行くんだよ白石。
お楽しみはこれからだろ〜?」
先ほど明里の髪の匂いを嗅いでいた不良が馬乗りになる。
「離してっ!!」
「うぉぉおおおあああああ!!」
佐野が不良達を振り切り、血塗れになりながらこちらへ走ってくる。
「ちっ、何度も邪魔しやがっー」
ドカッ!
ドタッ!
佐野が馬乗りになったいた不良を蹴り飛ばした。
「ハアッ、ハアッ…
白石、逃げろ。」
「佐野てめえ逃げてんじゃねえよ!!」
数秒遅れて追ってきた不良達の1人が金属製のパイプで佐野の頭を殴る。
「がぁぁぁぁああああああ!」
悲鳴を上げながら倒れ込む佐野。
倒れた佐野に殴る蹴るの暴行を加える不良達。
「やめて!!」
明里が割って入ろうとするが、凄まじい勢いに弾かれてしまう。
奥の方からは前原の高笑い。
明里はただ涙を流す事しかできない。
「てめー佐野、生意気な口利きやがって!
鬼まんじゅうにしてやるからな!」
涙を流す明里の耳に、佐野へ暴行を加えている集団から聞き覚えのある声が聞こえる。
「おい、ちょっと待てお前ら!!」
異変に気付いた前原が不良達を制止する。
ポカッポカッ
「佐野てめー!バカこのヤロー!」
ポカッポカッ
静まり返る倉庫内
不良達が暴行を止めると、そこには佐野に蹴りを入れている漆原が居た。
「あれ…?皆何で止めてんの…?
あっ、白石さん!チャオ〜。
………。
お、おい佐野!
こんなに血だらけになって…
て、てめーら許さねえからな!!」
わざとらしく佐野に駆け寄る漆原。
「う、漆原…」
佐野が力無い声で呟く。
「電話で生意気な口を利いたのは許さないが、よくやった佐野。
後は任せておけ。」
漆原が不良達の先に居る前原を見据える。
「おい、前原。
ゲームの始まりだ。ククク」
漆原と前原は視線を合わせると、不敵に笑い合う。
倉庫内はわずかな息遣いすら聞き取れるほど、静寂に包まれていた。




