第40夜 達磨
ー漆原家ー
明里と漆原が天海団地で闘っている頃、漆原家には怪しい人影が蠢いていた。
いや、"人"影と呼んでいいものか…
その人物が大きなフードを脱ぐと、人間の身体に鬼の角、肌は茶色く、臀部からは尻尾が生えている異形の生物が露わになる。
しかしこの姿には覚えがある。
先日の漆原との闘いで半人半魔となった鈴木だ。
「ハアッ、ハアッ…うっ…。」
漆原に刺された胸がまだ痛むのか、息を切らしながら苦痛の表情を浮かべている。
鈴木は例のUSBを捜していた。
痕跡を消す気が無いのか、部屋は散らかり放題だ。
「ちっ…どこに隠したんだ。」
苛立つ鈴木。
ふと漆原の机に目をやる。
鈴木が漆原の机の引き出しを引っ掻き回す。
「…あった!」
小さなケースに入ったUSBを見付けた。
「これで…これで助かるっ…!」
鈴木が安堵していると
トコトコッ
薄暗い部屋の中、目の前を"何か"が横切った。
「誰だ!?」
鈴木が叫びながら目を凝らす。
「…犬?」
そこに居たのは真っ白なチワワ…否、ポメラニアンだ。
「ちっ、驚かせやがって!
犬なんて飼ってたのか。」
鈴木の苛立ちは募るばかり。
「ふっ…ついでだ。
あいつの愛犬をぶっ殺しておくか…」
鈴木が無有に蹴りを入れようとする。
スカッ
!?
無有が消えた。
いつの間にか反対側の壁際に移動し、前脚で顔をこすっている。
「すばしっこい犬め!死ね。」
鈴木の右手が筋骨隆々な腕に変化し、無有に掴みかかろうとする
「あら、お客さん?」
掴みかかるのを止め、鈴木が後ろを振り向くと、開きっ放しのドアの所にビニール袋を下げた中年女性と小学校低学年ぐらいの男の子が立っていた。
「家族か…?ふふふ…丁度良い。
全員ぶっ殺して、あいつに地獄を見してやる。」
漆原への憎悪が膨らみきった鈴木は2人の首を掴む。
ガッ
恐怖の為か、2人はピクリとも動かない。
ググググ…グキッ!!
男の子の首が折れまがり、動かなくなる。
「次はてめえだババア!」
鈴木が中年女性の首を折ろうとした時
ガッ
床に転がっていた男の子の死体が鈴木の腕を掴んだ。
「なっ…!?」
ガッ
続けて中年女性も鈴木の首を掴む。
「うっ…………」
凄まじい力で絞めあげられ、鈴木は身動きが取れない。
「地獄を見せてくれるのはいつかしら?
早くしてね。」
グググググギ
半人半魔の強靭な首に中年女性の指が食い込んでいる。
「(こいつ…何て握力だ…)」
その様子を見ていた無有が口を開く。
「おい、妲鬼。
そやつは地獄とは何の関わりもあらんよ。」
「えー、そうなの?
嘘付きは閻魔様に舌を抜かれちゃうわよ?」
妲鬼が鈴木を離した。
「っ………」
強烈な力で首を絞められていた鈴木は声が出せず、屈みこんでいる。
ボキッ
「ァァァアアアアッ!!」
首の骨が折れたままの男の子が掴んでいた鈴木の腕が折れる。
「何だ、声出るじゃん。」
男の子は更に力を込め、折れた腕を粉々に破壊していく。
「ギャアアアアアアアアッ!!」
鈴木は悲鳴をあげる。
「首は折るし、嘘は吐くし、演技もする。
人間ってのは卑しい生き物だねぇ…」
にやにやと嗤う男の子。
「ククククク…
楽鬼よ、その辺にしてやれ。
おいお前、どこの手の者だ?」
無有が笑いながら鈴木に質問する。
「くっ…ハァッ、ハァッ…
何なんだお前らは…?」
鈴木の顔に恐怖の色が滲む。
ドゴォッ!!
「うっ…!!!」
ドカァン!
妲鬼の蹴りで鈴木が吹っ飛ぶ。
「ククククク…
妲鬼、殺すなよ?」
「あらごめんなさい。
あまりにも遅いからイライラして…
こうすれば話しやすいかしら?」
ブチッ!
「アアアアアアアアアアアッ!」
妲鬼は素早く鈴木に近付くと、右腕をちぎり取った。
「早く話しましょうね〜…うげっ…まずっ」
妲鬼はちぎった腕を食べている。
「ぐぅぅぅぅ…ハァッ、ハァッ、ハァッ…」
鈴木は激しい痛みで言葉を発せない。
「おい、もう一度聞く。
お前は何者だ?」
無有が再度尋ねる。
「………」
鈴木は意識を失な
ブチィッ!
「アギャアアアアアアアアアアアアアアア!」
妲鬼が残っている腕をちぎった。
「起・き・て!起・き・て!」
妲鬼は楽しそうに鈴木に声をかけている。
「アアアアアアアアッ!
………
わ、わかった…言うから!
言うから命だけは助けてください!」
両手を失くした鈴木が許しを請う。
「ははははははははははっ!
手の平返しとはまさにこの事だねぇ。
人間おもしれー!」
楽鬼が折れた首を直しながら鈴木を嘲笑う。
「では話せ。
ただし嘘を吐いたら起き上がらない達磨になる事だけは覚悟しておけ。」
無有が冷たく言い放つ。
抵抗する気が無くなった鈴木は、力無く自身の事を話し始めた。




