第33夜 修了式
天海高校
「皆夏休みだからってハメを外し過ぎるなよー!」
修了式が終わった教室は、生徒達の待ちに待った夏休みへの期待感で飽和している。
「じゃあ白石さん、行こうか。」
漆原が声をかける。
「うん…行こっか。」
楽しそうに教室を出て行く生徒達とは裏腹に2人の表情にはほんの少しの笑みも無い。
2人が学校を出て天海団地へと向かう道中、明里が思い立ったように質問する。
「ねえ、漆原くん。
漆原くんの魔法って私にも使えないのかな?」
「魔法って…
うーん、基本的には無理だね。
でも君にそういった類の才能がある事は間違いない。
この間も俺の左腕の邪気に気付いたでしょ?
普通の人じゃあ、感じる事はできないからね。」
顎に手を当てる漆原。
「あっ、やっぱり左腕に何かあったんだ!」
明里は少し怒っているような表情をする。
「まあまあ、それは置いといて…
繭子との接触で君の力が覚醒し始めてるんだろう。
よくある事なんだ。
強い力に触れると、それに呼応するように潜在的な力が表に出てくる。
まあ大抵は透視や予知みたいなちょっとした超能力者的な感じで本来の力には気付かないままなんだけどね。」
漆原が続ける。
「とりわけ君は普通の人より陽素が強いから余計にそうなんだろうね。」
「そうなんだ…。私にも力が…。」
明里は拳を握りしめる。
「とりあえず最初は意志に言葉を乗せる練習をする事だね。
陽力が強い君は、陽神の加護があったように神様に好かれやすいから真言なんかいいんじゃないかな?
んーそうだな、例えば…
《オン コロコロ センダリマトウギ ソワカ》
この真言に意志を乗せて繰り返し発するんだ。」
「おん ころころ せんだりまとうぎ そわか…
これはどうゆう魔法?」
「魔法じゃないけど、これは薬師如来って言って病気や怪我を直してくれる神様の真言だよ。
他にも色々な神様や言い方があるけど…とりあえず入り口としてはこれで充分かな。」
「言葉の変化でそんなにたくさんの魔法があるんだね。
《おん ころころ せんだりまとうぎ そわか》
か……………。」
「言葉には言霊が宿るってよく言うでしょ?
でも実際は"これをしたい"っていう人間の意志に言霊が宿るんだ。
言霊が宿れば自然と言葉を発する。
変な話本気で誰かに殺意を持つと、その意思に力が宿る。
例えばそれが"死ね"っていう言葉になって、その言霊が無意識に相手を攻撃してしまう事があるんだ。
だから滅多な事は言うもんじゃないんだよ。
沈黙は金ってやつだね。」
2人は田んぼ地帯に差し掛かる。
「そうなんだ…
今はSNSが普及して簡単に他人と接せるようになったもんね。
私もたまに暴言を見ると嫌な気持ちになる。」
明里が哀しみの表情を浮かべる。
「そう、その嫌な気持ちは言霊によって引き起こされてる。
SNSが原因で死を選んでしまう人が居るけど、正しくは言霊の影響で選ばされてる、だ。
例えば誹謗中傷による影響で誰かが亡くなった時、人はテクノロジーのせいにしてしまいがちだけど、そうじゃない。
どんなテクノロジーがあろうとも、本当はそれを使う人間のマナーやモラル…つまり人格が重要なんだよ。」
漆原が話し合える頃、辺りが徐々に闇に包まれてきた。
「さて、と…着いたね。」
「うん…。」
2人の目の前には建物に絡むように木々が生い茂り、光のほとんどを遮断する天海団地が佇んでいた。
ーそして物語はプロローグへと続く。




