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陰to陽  作者: 黒川一
ー黄昏編ー
38/82

第32夜 錯綜






AM5:33 陽神神社






明里はベッドで眠る無有を起こさないよう、そっと部屋を出た。


階段を降り、居間に入るとそこに漆原の姿は無い。


「漆原くん昨日は帰らなかったんだ。」


明里が心配そうな表情を浮かべていると、無有が起きてきた。


「あっ、無有ちゃん起こしちゃった?

ごめんね?」


「明里よ、安心せい。

染一に何かあれば、余にわかるようになっている。

それに例え何かがあったとしてもあいつは簡単にくたばるほどやわではない。」


無有が所定の席に着く。


「無有ちゃんありがとう…

そうだね、漆原くん強いもんねっ!

朝ご飯作るから少し待っててね。」


そう言った明里の顔には相変わらず心配そうな表情が浮かんでいた。






天海高校






教室内には生徒達の挨拶が飛び交っている。


「あっ、漆原くん!」

旧佐野の席に座っている漆原。

左腕には包帯が巻かれている。


「おはよう白石さん。

昨日は帰れなくてごめんね。

あの後、道を歩いていたら車に轢かれそうになっているお婆さんが居たんだ。

とっさに助けたらこのザマさ…

母上、父上、白石さん…先立つ不幸をお許しください…ガクッ!」


漆原がうなだれている。


「もう漆原くん何言ってるの!

ちょっと左腕見せっ」


明里が左腕を持つと、何と言葉で表せば良いか…

とてつもなく邪悪な感覚に襲われた。


「何これ…?

すごく嫌な感じ…

漆原くん本当はどうしたの?」

明里が心配そうに漆原に詰め寄る。


「白石さん、分かる(・・・)の?」

漆原が目を丸くして驚く。


明里は見た事もない漆原の表情に吹き出した。


「あははっ漆原くんすごい顔!

そんな表情もするんだねっ。」


「イケメンはどんな顔してもサマになるでしょ?」


漆原と明里がふざけていると担任が教室へと入ってきた。



「おーい席に着けー!出欠取るぞー!」

担任の声は相変わらず舞台役者のような大きさだった。






毎日があっという間に過ぎていく。






救出作戦前夜






「外の事は頼むぞ。」

明里が寝たのを確認し、無有と密談を始める漆原。


「わかっておる。

牛鬼なぞ余の足元にも及ばん。

そもそも鬼ではないしな。」

無有はあまり気に留めていないようだ。


「死ぬなよ染一…」

無有が呟く。


「ああ、今回は(たす)ける"だけ"だ。

無茶はしない。」

染一がマグカップの中身を飲み干した。


「よし、これで完了。

俺達は修了式の後、そのまま団地へと向かう。

どのぐらいの時間がかかるかわからないが必ず無事に戻る。」


漆原と無有が手を重ねた。



陰陽縛解(いんようばっかい)



詠唱と共に2人を深い闇とまばゆい光が包んでいく…






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






そして物語はプロローグへと続く…






前に、時は数日遡る。






天海図書館



「そう言えば無有は何してるの?」


「今日私を学校まで送り届けてくれてから、この後は散歩するって言ってたよ。

もうそろそろ帰ってくるんじゃないかな?」


明里と無有が図書館から出てきた。



「ターゲット確認。図書館を出ました。」

逆井が無線で連絡する。


「了解。調査に移る。」

無線の相手は反町だ。


三者を伴った反町が司書に詰め寄る。


「あの、業務中にすみません。こうゆう者です。」

2人は素早くかつ慎重に警察手帳を見せる。


「警察の方!?

何のご用ですか?」

司書が小声で尋ねる。


「いや何、ちょっと捜査に協力してもらいたくてね。

今高校生のアベックが来てたと思うんだが、彼ら何を見てたかわかるかな?」


三者は死語と思いつつも反町の背後から黙って様子を伺っている。


「あ、ああ。

何かの記事をコピーしてましたのでコピー機の履歴を見ればわかると思います。」


司書も死語だと思いつつ返答する。


「ちょっと確認させてもらうよ。良いね?」

反町は了承を得る前に三者をコピー機へ行くよう促した。


「新聞記事…200X年10月28日…」

三者はマサイ族並みの視力を駆使し、履歴に残された新聞記事の日付を確認。

新聞コーナーへ向かう。


「…あった。これだ。」


新聞記事には都内で起こった通り魔殺人事件、200X年問題、オリンピックの金メダル獲得者、団地の火災等が載っていた。


「うーん…彼らは何を調べていたんだ?

まだ生まれていない年の事だろう。」

反町が頭を掻く。


「これだ…天海団地の火災…」

三者が呟く。


「ん?この火災がどうかしたのか?」


「この天海団地はここいらじゃ有名な幽霊団地なんです。

団地に入ったら最後、その者には呪いが降りかかり死んでしまう…という噂があります。

以前白石明里は祖父と共に青森県の有名な霊能者の所へ行きました。

そして大量殺人事件が起こった。

白石明里はそこで祖父も亡くしています。



もし、もしですよ?今回の事件、人知を超えた"何か"が関わっていたら…?」

突拍子も無い事を言う三者の顔は真剣そのものだ。


「何を言っているんだ?

なぜこの団地にこだわる?」

コピーした新聞記事を見ながら図書館の外へ出た反町が問いかける。


「今回の事件、不可解な事が多くないですか?

まるで人間の仕業じゃないような…

それに、実は自分…昔この団地に住んでいた事があります。

火災が起きた夜…僕は近くに住んでいる親戚の家に泊まりに行っていました。

親戚の家には最新のゲーム機があって、よく遊ばせてもらってたんです。

その日も深夜にゲームを終えて、いつものように親戚のお兄さんと眠りに就いていました。」


次第に三者の表情が曇っていく。


「外のサイレンの音で飛び起きた自分は部屋の窓から様子を窺いました。

すると、自宅の方から煙が上がっているのが見えたんです。

妙な胸騒ぎを覚え、こっそりと親戚の家を抜け出し、自宅へと向かいました。

急いで駆け付けたのですが、時すでに遅し…

自宅は燃え盛る炎に包まれていました。

その後の事はよく覚えていません。

ただ…両親の遺体は見付かりませんでした。

身寄りの無くなった僕は、九州の祖父母の家に世話になり、その後自分なりにこの事件を調べたくて警察官になりました。

そしてこの街への配属が決まり、20年振りに帰ってきた。

しかし、ネットや雑誌、あらゆるメディアを調べても、団地の火災についての情報は全く出てきません。

そして今、初めて火災の件に触れている情報を見ました。

20年間調べても出てこなかった情報がこのタイミングで出てきた…

白石明里…天海団地…呪い…坂元玄海…

これらの点が繋がっている気がしてならないんです。」


いつも無口な三者が途切れない説明を反町にぶつける。


「捜査に私情を挟むな…と言いたいところだが、お前の話には何か妙なものを感じる。

俺の刑事の勘も"天海団地を調べろ"と言っている気がしてならない。

元より手がかりが少ない事件だ。

調べてみる価値はありそうだな。」


三者が目に涙を溜めながら反町に敬礼する。


反町は無言で三者の右肩を2度軽く叩き、歩き出す。


その後を付いていく三者。



そして2人は車に乗り込み、天海署へと戻っていった。






静岡県 某所






「はあっ、はあっ、はあっ…ぐぅぅぅぅぅ。」

人間の身体に鬼の角、肌は茶色く尻尾の生えた臀部。

胸の包帯からは血が滲み、とても苦しそうな表情で息を切らす。

人間の部分をよく見ると、鈴木の面影がある。



「ヘマしたな如月。」



暗闇から真っ白なフードを被った男が声を掛けた。

声質は若く、10代とも20代とも思える。



「うっ…あの陰陽師、ただのガキじゃない。

尾行の為、気配を絶っていた半魔の法の邪気を感じ取りやがった。はあっ、はあっ…

それにあの術…」


胸を抑える鈴木。


「あれほど直接的に関わるなと言っただろう。

何と愚かな真似を…。」


同じく真っ白なフードを被った女性が暗闇からヌッと現れた。

その声は以前、円卓の場を仕切っていた人物のようだ。


「申し訳ございません。

次こそは必ずヤツを殺します。

どうかご慈悲を…」

よほど偉い相手なのか、鈴木は跪いている。


「直接手を下さんでも勝手に死ぬ。

これから奴等は繭子の元へ赴くのだ。

気にかけるべき点はお前が繭子の呪いに伝染されていないか…

組織を危機に陥れるような真似をしたお前の罪は重い。

いかにして、この罪を償う?」


厳しい口調で詰め寄る女性。


「奴らが天海団地へ入っている間に山本のUSBを回収致します。

チャンスをいただきたい。

その後の処罰は甘んじて受け入れる覚悟です。」


「ふんっ。

月光開花したらどの道もう普通の人間としては生きれねえ。

そんな誰が信じるかもわからないUSBの情報なんて何の役にも立たねえだろ。

残されたお前の道は1つだけ。

繭子の糧となれ。」


若い男が残酷に言い放つ。



「………よかろう。私の元にUSBを持ってこい。

お前の処罰はその後に決める。

ただ、組織の者とは接触せず、誰にも気付かれないようにやれ。

それが条件だ。」


「はっ!感謝します。

必ずやUSBを回収し、汚名を晴らして見せます!」

鈴木はそう言うと闇の中へと消えていった。



「…いいんすか?行かせて。」

若い男が問いかける。


「ああ、如月はもう長くない。

月光開花の影響もそうだが、あの胸の傷には呪陰(じゅいん)がかけられている。

やがては全身に拡がり、この世から消えて無くなる?

残り少ない命、組織の糧にする事ができればヤツも本望であろう。

"血月"が完了した今、次段階へ進む為に懸念は1つでも無くしておきたい。

USBは念の為…だ。」


「しかし、陰陽師か…奴等はいつの世も厄介よのう…」



意味深な言葉を残し、女性は暗闇へと消えていった。

そしてそれに続くように若い男もその場を去っていった。

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