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陰to陽  作者: 黒川一
ー黄昏編ー
35/82

第29夜 USB






漆原家





漆原が山本から受け取ったUSBをパソコンに接続する。


「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか…。」


しばらく黙っていた明里が口を開いた。


「漆原くん、山本さんの話なんだけど…

娘さんを連れ去ったのは本当に政府の人達だったのかな?

政府の人達が子供を連れてっちゃったり、警察の人が相手にしなかったりって…

そんな事が本当にあるのかな?」


漆原がマウスを操作しながら答える。

「そりゃあね。

もし山本さんの話が事実だとしても、一般人に分かるようにはやらないよ。

確かにこの国は平和で、普通の日常を過ごしてきた君には信じられないかもしれないけれど、お隣の国なんかでは当たり前のように頻繁に起きてるし、どんな事でも人間が関わっている限り、純粋な善行なんて存在しないよ。」


漆原はパソコンを見ながら淡々と語る。


「おっと…これはっ…」

漆原が驚きの声をあげ、明里を見た。


「白石さん…君、大変な事に巻き込まれたようだね。

これは単純に悪霊云々の問題じゃなさそうだな…。」


明里が漆原の背後からパソコンを覗き込む。


画面には日記のような文章が綴られていた。






✳︎

【天海団地火災事件調査内容】


・200X年10月27日天海団地一棟が全焼する火災が発生。

警察は101号室の火元の不始末が原因としてこの件を事故と断定する。

政府から全国のメディアに報道禁止の一斉通達。


・200X年10月28日

政府の者達が私への口封じとして美砂(みさ)を連れ去る。

警察に相談したが、何故か全く相手にされなかった。

妻は精神錯乱状態に陥り、生活が困難な状態になる。


・200X年11月7日

妻と長女を妻の故郷に帰し、療養してもらう事にした。

私は美砂奪還の為、天海市に残る事にした。


・200X年11月15日

公安警察の友人に調査を依頼。

美砂を取り戻すべく、行動を開始する。


・200X年12月1日

公安警察の友人の訃報の後、無記名の封書が自宅ポストに投函されていた。

筆跡、内容から亡くなった彼の物だと断定。

通夜で聞いた友人の死因は趣味の川釣りでの溺死だと言うが、私の見解は違う。

私の知る彼にアウトドアの趣味は無く、休日は自宅で映画鑑賞をするようなインドアな性格だった。

おそらく消されたのだろう。

彼の意志を継ぎ、私は引き続き調査を行う。




↓以下友人から得た手記。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






【国家㊙︎特定案件 天海団地火災事件】


現場状況:建物全焼、損壊無し。


遺体数1:天海小学校3年生 蓼原繭子(たではらまゆこ)(8)


遺体状況:頭部切断、身体(しんたい)全焼


他住民安否:不明(遺体無し。)


現場状況2:放火痕有り、建物エントランス、エントランス付近、ポスト部に蓼原繭子(8)、他小動物と見られる血痕多数(DNA鑑定済み)

蓼原繭子を殺害したと思われる犯人の痕跡無し。


上層部のみ通達:本件国家最高機密案件扱い。

情報漏洩無き事。


全組織一斉通達:本件㊙︎特定案件

公安預かりとし、捜査の一切を禁ずる。



ーメモ

月美学会絡みの案件の為情報漏洩の防止、現場処理は慎重かつ迅速に行う。

本件は現場状況、物証から放火殺人事件と断定する。

本件に対する公安作業範囲は情報操作、放火、殺人に繋がる証拠の隠滅。



ー考察

捜査線に月美学会が浮上。

従来通り外交的側面から月美学会への捜査は不可能と思われる。

従って公安としては月美学会教祖玉井愛美(たまいまなみ)及び、組織全体の監視のみ継続して行なっていく事とするようだ。

こういった民主主義の根幹を揺るがす事件を断絶すべく、私は引き続き本案件の調査を秘密裏に進めて行く。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

蓼原繭子という手掛かりを元に調査を継続。

これから周辺への聞き込みを行おうと思う。






P1






『………。』

静まり返る部屋。


「蓼原繭子…月美学会…」

漆原がパソコンの画面を見つめながら呟く。


「ねえ、あの黒い少女もこのぐらいの年齢に見えなかった?」

明里が記憶を辿る。


「ああ、おそらくこの繭子ってのが黒い少女だ。

おおよその年齢と遺体の状態が一致している。

陰力が強いからってわけではなく、全身が焼け焦げたせいで肌が黒かったのか…。」

漆原は2ページ目を開く





✳︎

周辺への聞き込み調査の結果


蓼原繭子は母親と、双子の妹との3人暮らしだった。

母親からは繭子のみ日常的に虐待を受けていたよう。

学校に来ない事も珍しくなく、その周期を踏まえると、怪我による虐待の発覚を恐れた母親の都合だったのではないか?と担任は考えていた。



ここからは突拍子もない話だが、周辺への聞き込み調査による証言をそのまま綴る。



↓以下クラスメイト達の証言


繭子には不可解な点がいくつかあった。

繭子は常に1人で行動しており、見えない誰かと会話しているような様子があった。

ある日そんな繭子をクラスの男子生徒が執拗に口撃した事があり、繭子は黙って男子生徒の罵詈雑言(ばりぞうごん)に耐えていた。

しかしその翌日から突然男子生徒は学校へ来なくなった。

その数日後、男子生徒の両親が交通事故で亡くなり、同乗していた男子生徒は一命を取り留めたが、事故の後遺症で植物状態となった事が発覚した。

朝のホームルームで担任がその事を説明している時、繭子は終始笑いを堪えている様子だったのを隣の席のクラスメイトが目撃している。

その事から、クラスでは男子生徒の事故は繭子の仕業ではないかと噂が立ち、休みがちな事も相まってますます孤立していったという。



繭子には超常的な力が備わっていた?


・触れずに消しゴムを動かした。

・隠された上履きの場所と犯人を発覚から数分で特定。犯人はその後図工の授業中に、なぜか木工ナイフ2本を自らの両足に刺し、大怪我を負う。

・同級生の親の死を予言する。(死因までピタリと当てた。)


など、にわかには信じ難い数々の証言。



天海団地の火災事件の隠蔽には蓼原繭子の超常的な力が関係しているのだろうか?

引き続き周辺の聞き込み調査を行なっていく。






P2






超能力霊(サイキックゴースト)だ。」

明里が居るのを認識しているのか、いないのか、漆原が独り言を呟くように言い放った。


「サイキックゴースト…?」

明里が疑問符を付けて繰り返す。


「んー…

簡単に言うと、生前にいわゆる"超能力"を持った人間は、死後にその力が強まる事がある。

それが成仏するまでの間、ふらふらと浮遊しているだけならまだ良いんだけど、悪霊になってしまうとタチが悪い。

霊体ってのは陰素の割合が高いから、正界に留まっている間は絶えず周囲に影響を与えるんだけど、これが悪意を持っている霊、つまり悪霊だと陽素の割合がほぼ無い。

しかも超能力霊(サイキックゴースト)はとてつもない力を持っているから普通の霊と違ってそう簡単には祓えない。

前にも少し話したかと思うんだけど、陽素と陰素の割合を均等にしようとする陰陽(いんよう)(ことわり)ってのがあって、生者も死者も関係無くそれは働く。

特に悪霊の場合は陽素を取り込もうとする意識が強く、その意識が生者に影響している状態を"呪い"って言うんだ。

特に超能力霊(サイキックゴースト)は力が強い分、呪われた人間だけでなく、その周囲に呪いを伝染させたりする事もある。

今回のケースがまさにそれだ。」


漆原は明里が理解しているか様子を窺いながら話を続ける。


「更に超能力霊(サイキックゴースト)は経文や真言等、神仏の力を糧にした除霊では一切歯が立たない。

以上を踏まえて白石さんの体験と山本さんの情報を併せると…黒い少女…いや蓼原繭子は、生前に超能力を持っていた、超能力霊(サイキックゴースト)だって事が分かる。」


明里は息を呑み、話を聞き続ける。


「だけど腑に落ちない点もある。

繭子が超能力霊(サイキックゴースト)なのはわかった。

が、だとしても俺の陰法(いんのほう)を防ぐならまだしも避けるなんてのは有り得ない。

あいつは力が十分発揮できていないのにも関わらず2度も躱しやがった。」

漆原はブツブツと呟きながら3ページ目を開く。






✳︎

繭子の母親は月美学会の熱心な信者だった。

日頃から娘達を伴い、月美学会の施設への出入りが頻繁にあった。

今後は月美学会への調査を並行して行う。



200X年3月8日

月美学会信者の主婦、田中和代(たなかかずよ)の懐柔に成功。

田中は蓼原母同様、月美学会へ頻繁に出入りしている。

彼女から天海団地火災事件についての証言が取れた。

月美学会では天海団地での火災は"月神(げっしん)の儀式"と呼ばれている。

詳細はわからないらしいが、蓼原親子はその儀式で「月の神に仕える星となった」と、意味不明な事を言っている。

しかし学会内では共通認識らしく、平然とした様子で話していた。


以上を踏まえ、月美学会が火災の件に深く関わっているのは間違いなさそうだ。

何とか教祖の玉井愛美(たまいまなみ)あるいはその周辺幹部へ近付けないだろうか?

引き続き田中を利用し、学会内部を探っていく。






P3






山本の調査データはここまでで終わっていた。

USB内にはもう一つ動画ファイルが入っている。



「………」

考え込む漆原。


「漆原くん、これは私達の手に負えるのかな?

彩香と笑実は必ず(たす)け出すっ…

その決意は今も変わらないけど、何だか少し怖くなってきちゃった。」

明里は肩を小刻みに震わせる。


「最初から普通の高校生の手に負える問題じゃないよ。

"普通"ならね。

しかし、月美学会…きな臭い話はよく聞いているが、やはり普通の宗教団体ではなさそうだな。

総信者数約500万人。

しかもここまで政府に影響力を持っているとなると、まるで小さな国のようだ。

…これはビンゴかもしれないな。」

漆原の口元にうっすらと笑みが浮かんでいるのを明里は見逃さなかった。



「じゃあ、残りの動画ファイルも見てみよっか。」

漆原がマウスを操作する。



明里は彩香と笑美を思い浮かべる…



そして未だ震える肩を必死に抑え、漆原の背後から再度画面を覗き込んだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 国家権力も関わってくる事件となると 相当に闇が深いですよね。 黒い少女の正体が判明しましたが まだまだ手を出すには厳しい状況ですね。
2020/03/04 20:04 退会済み
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