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陰to陽  作者: 黒川一
ー黄昏編ー
33/82

第27夜 諸説






月曜日 6:15 陽神神社






台所からは小気味の良い包丁の音と、味噌汁の良い香りが流れてくる。


「おおおおおおおはよう白石さん!」

完璧に支度をしたいつもの漆原が台所に姿を現した。


「おはよう漆原くん!もうご飯できるから座ってて。」

明里は台所から振り返り、座るよう促す。


「染一、早起きじゃないか。

いつもは昼まで寝てるのになぁ。」

スッと台所に入ってきた無有が茶化すように言う。


「余計な事を言うなお前は。」

漆原はバツが悪そうだ。



「はい。お待たせー、食べましょう。」

綺麗な色の卵焼きと、その横に添えられたベーコンは良い具合に焦げ目が付いている。

カツオ出汁の香りが立ち込める味噌汁にツヤのある切り干し大根。

そして粒立ったご飯は、早朝でも激しく食欲をそそる。



「す、すげえ…

無有お前こんなの食ってたのかよ。」

漆原は開いた口が塞がらない。


「明里の料理の腕前は天下一品だ。

心して食え。」

無有が尊大な態度で返す。


「何でお前が偉そうなんだよ。」

舌打ちを交える漆原。


「2人ともすごい褒めてくれて嬉しいけど、普通の朝ご飯だよ?」

明里は笑いながら合唱する。


「それでは、いただきます。」


『いただきます』



「ところで白石さん、今日の段取りなんだけど…

この後新聞社に電話してアポを取り付けてみるから学校が終わったら一旦連絡をしてくれるかな?

先方次第ではあるんだけど、こちらとしては今日インタビューに行けるよう交渉してみるよ。

上手くいかなければ明日以降になるけど、どちらにも対応できるようにしておいて。」

段取りを話しながら箸を運ぶ漆原の作法はとても美しく成っており、明里はその所作に目を奪われていた。


「漆原くんその事なんだけど、私だけ学校に行ってて良いのかな?

今は授業なんか受けてる場合じゃないのに…。」

明里が申し訳なさそうに言う。


「気付いてないようだったし、不安感を与えたくなかったから言わなかったんだけど、君に2組の尾行が付いている。

1組は警察、そしてもう1組は一般人のようだけど目的はわからない。

目的がわからない以上、下手に日常とかけ離れた行為をしない方がいい。

この件は最初からきな臭い。

あまりにも、起こる確率の低い偶然が重なり過ぎているし、団地の情報も少な過ぎる

これじゃあ何者かの意図が絡んでいると考えた方が自然だ。

だから逆に泳がせて目的を探っている段階の今、君の仕事は普通の日常を過ごす事。」

説明を終えた漆原は味噌汁に舌鼓を打つ。


「尾行…

全然気が付かなかった。

無有ちゃんは知ってたの?」

明里は箸を止め、無有に問いかける。


「当たり前だろう。余を誰と心得る?

染一には手を出さないよう言われていたゆえ、其奴らには何もしていないがな。」


警察は想像が付く。


しかしもう一方は…


一体誰が自分を尾行しているというのか?


黒い少女の時とは違う言い知れぬ恐怖が明里を襲う。


「犬の身だと、人の心に敏感でな。

明里大丈夫だ、余と染一が付いている。」

無有はそう言うと学生服を纏った漆原の姿に変化した。


「明里、美味かったぞ。

馳走になった。」

朝食を終えた無有が空の皿に一礼した。


「ご馳走様でした。」

漆原も朝食を終えて合掌している。


「お粗末様でした。

洗い物だけさっと済ませちゃうからお茶飲んでゆっくりしてて。」

明里はそう言うと、食器を片付けて洗い物を始めた。



明里の居なくなった居間では漆原と無有が向かい合っている。



「染一、今回の件はお前の目的に関係してそうか?」

無有が唐突に切り出した。


「ああ、裏で大きな力が動いているのは間違い無い。

そこに金色の糸への手掛かりがありそうだ。

それに…"あの時"と同じ感じがする。」


「ふっ、そうか。

長く手掛かりが掴めなかったのは金色の糸が狡猾で力のある者だったからには(たが)わない。

しかし今回は大きく動いたようだ。

まさか尻尾を出すとはな。」


「ああ…。

あの時の俺には力が無かった。

だけど今は…

必ず皆殺しにしてやる。」

漆原の瞳の奥には深い深い闇が拡がっていた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






天海高校





終礼のチャイムが鳴り響く。



「終わった。

無有ちゃ…漆原くん帰ろっか。」

明里が学生鞄を肩にかけ、無有に話しかける。


「うむ、行こうぞ。

しかし先程の授業、人間は間違った知識を学んだままで良いのか?」

無有が教室を出たところで明里に問いかける。」


「間違ってるって…?」

明里はポカンとしている。


「本能寺の変だ。

あれは明智の裏切りというよりは、豊臣の裏切りだ。

明智に謀反を起こさせたのは豊臣。

そしてその後、敵討ちという大義名分を掲げて明智を裏切った。

あの時代、今のような通信技術は無かった為報せが届くのに時間がかかる。

それゆえ、豊臣は辻褄を合わせるべく戦をしているフリをしながら頃合いを見計らっていた。

そして信長討伐の報せが届いた瞬間、事前に用意していた和睦を申し入れ、本能寺へと引き返したのだ。

まさか自分が悪者になっているとは知らない明智は意気揚々と豊臣を迎えようとしていたろうに。

その後はまあ…大筋合っているがな。

勝てば官軍、負ければ賊軍。

いつの世も権力者が歴史を作るのだな。」

無有が衝撃的な事をさらっと口にしている。


校門を出たところで明里が動揺しながら返した。

「む、無有ちゃんは想像力が豊かね。

とりあえず漆原くんに電話をかけないとっ。」


明里は無有が500年以上生きていると話していたのを思い出しながら何となく真偽を確かめてはいけないと感じ、スマホを取り出した。


「もしもし漆原くん?今学校を出たよ。」


[新聞社のアポが取れた。

そのまま無有と天海新聞社の向かいの喫茶店へ来れるかな?]


「うん、わかった。じゃあ今から向かうね!

無有ちゃん、今日インタビューできる事になったみたい。

このまま新聞社の方へ行こう。」


「うむ、参ろうか。」

無有は日本史に考えを巡らせているのか、少し目線を上にしたまま返事をした。



天海新聞社へと2人は向かう。



そしてその後方の校門からは、鬼まんじゅう事件の被害者佐野とその取り巻き達が2人の背中を見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかポメラニアンが自分と同じ 歴史解釈をしているなんて偶然ですけど 面白かったです。 [一言] 彼等には追うべき敵がいるのですね。 話が進んでいないように見えても 毎回ちゃんと伏線を出し…
2020/03/01 09:04 退会済み
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