第17夜 犬
「な、何で漆原くんが2人…?」
明里は大きく目を開いたまま瞬きができない。
漆黒の髪に真っ白な肌、そして今にも折れそうな細い身体。
この6畳程の部屋に漆原染一が2人居る。
「貴様はお節介な餓鬼ではないか。
染一、何か掴めたのか?」
後から来た漆原が先に居た漆原に聞く。
「いや、これから聞くところ!
丁度良い、無有も聞いてくれよ。」
「良いだろう。話せ餓鬼。」
漆原同士が会話している。
「ちょっと待って漆原くん!
これはどうゆう事!?」
明里はまだ2人を見比べている。
「説明しても理解できないと思うけど…とりあえず一旦飲み込めないかな?」
漆原が諭す。
「……………。」
明里は後から来た漆原を無言でまじまじと見ている。
「んー。じゃあ簡単に説明すると…
彼は無有っていって俺のビジネスパートナーみたいなもん。
ちなみに白石さんが今まで俺だと思っていたのは彼で、実は俺と白石さんは今日が初めましてなんだよ。」
「え…じゃあ、あなたが私が知ってる漆原くんで漆原くんが私の知らない漆原くんってこと…?」
いい加減耐性が付いてきた明里が混乱しつつ確認する。
「おー、理解早いねー!そうゆう事。
白石さん、前学校で無有とぶつかったでしょ?」
"「きゃっ、ごめんなさい!」
手を振るクラスメイト達を視界の端まで捉えていたせいで、正面から来る彼に気付かず体当たりしてしまった。"
「そういえば…」
天体観測の前、学校での記憶が蘇る。
「あの時に無有が白石さんの身体に触れ、普通の人より陽素が強いことに気付いたんだよ。そしてそこから君を観察対象にさせてもらってた。」
「そうだ。我等には"ある目的"があってな。
日常の特異点は何であろうと観察対象にしているのだ。」
漆原達が同じ顔で別々に話す。
「ちょ、ごめん!理解はしたけどやっぱりこの状況慣れないよ。視界に入る度に混乱して…付いていけない。」
明里の脳はオーバーヒート寸前だった。
「しょうがないねー。無有、頼む。」
「うるさい餓鬼だ。これだから人間は困る。」
2人目の漆原は人差し指と中指を立てた印を構えると別の生き物へと変化していった。
真っ白で、ふわふわした犬…
チワワ?いや…ポメラニアンだ。
「さて本題に入ろうか。」
ポメラニアンが喋っている。
か、可愛い…
明里は目の前の可愛い生き物への触りたい欲求を抑えながらも、一々反応したりツッコミを入れているとキリが無いと判断し、天体観測の夜からこれまでに起こった事を説明した。
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「ーそして今日団地に行こうとしていたら、漆原くんに声をかけられたの。
これがあの日から今日までに起こった事の全てよ。」
話し終えた明里は複雑な表情を浮かべる。
「鬼だな。」
漆原が無有を見る。
「うむ。おそらくな。」
無有はお座りの体制で漆原に同意する。
「白石さん大体わかったよ。これは思っていたより厄介だ…。」
漆原は眉間にしわを寄せている。
「余は今回参加できんぞ。
染一、準備だけは怠るなよ。」
無有が忠告する。
「ああ、わかってる。」
頭の上に疑問符が浮かんでいる明里に漆原が淡々とした口調で言い放つ。
「白石さん、結論から言うとあの黒い少女は祓えない。」
「え…?」
彩香と笑実を救えるかもしれない。
その事実だけが諦めかけていた明里を突き動かしていた。
しかし、明里に灯っていた希望の光には、またもや陰が闇を落とし始めていた。




