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陰to陽  作者: 黒川一
ー黄昏編ー
21/82

第18夜 祈り






後何度絶望するのか


もう諦めるしか…



「まあ祓えないだけで救えないってわけではないんだけど。」

漆原が続ける。


揺らいでいた希望の光が強くなる。


「つまり?」

一喜一憂するのに疲れた明里は冷静に聞く。


「じゃあ1から説明するね。

その前に…ちょっとごめん。」

漆原は明里の額に人差し指と中指を当てた後、校門の前でやってみせたように宙に五芒星を描いた。



走馬回帰(そうまかいき)



五芒星が強く光り、プロジェクターのように明里の記憶が投影される。


明里はもう何が起きても驚きはしないが、漆原は"魔法使いの様なもの"として認識し、自分の中での落とし所をつけた。



「この夜君達3人は、黒い少女に団地へと招かれた。

その際、ヤツはこのトンネルを利用した。

古くからトンネルはあの世とこの世を繋ぐ道になっているんだ。


そして…この大男に襲われた。


…んー、やっぱ思った通りだ。

こいつ人間じゃないな。」


漆原に同意するように頷く無有。



「人間じゃないって…じゃあ何者なの?」

明里が目を逸らしたい気持ちを必死に堪えながら問いかける。


「あーさっきも言ったんだけど、こいつは"鬼"だよ"鬼“。

"鬼"はわかるでしょ?」


「あの節分とかの?」


「そう、その鬼。

んでこいつ厄介なことに黒い少女に取り込まれてる。

その証拠に…

ほら!黒い少女が出てきた時、大男が持ってた刃物持ってるでしょ?

取り込まれた鬼の特徴が出たんだ。」



鬼…確かにあの夜、明里が見た大男はとても人間とは思えない様相をしていた。



プロジェクターの画面は彩香と笑実が連れ去られたシーンを映し終えた。



「…白石さん何で貯水槽が出口になってると思った?」


「それは…声が聞こえたから…

女の人の声で「こっちよ」って…。」


「ふーむ…そっか。

まあ今はいいや。

で、次が青森での出来事だね。


………


おっ、坂元玄海懐かしいなぁ。

昔よくTVで観てたよっ。はははっ」


明里は俯いている。


「おお、これ神隠しの法使ってんのか!

お祖父さんの首が飛ばなかったのは、坂元玄海が死ぬ間際に仕掛けた神隠しの法のおかげだ。

最期の力を振り絞って君達を守ろうとしたんだな…

でも中途半端な力で使ったから霊障が起きていた右腕が持ってかれてる…。」



漆原は顎に手を当てている。



「おkおk。君の話を聞いていて腑に落ちない点がいくつかあったんだけどこれでほぼ解決した。

2度手間かけるような真似して悪かったね。

本当は人の記憶を覗くのはなるべく避けたかったんだ。

ましてや君女の子だしね。」


「だけど、これで安元さんと松永さんを救える可能性が出てきた。」


「ほんと…?」

明里の動きが止まる。


「うん。

少し説明すると…

この世にはいくつか世界があって、今関係してるのはこの世界といわゆる霊界。

これらの事を“正界"と"反界"って言うんだ。

正界はこの世界、そして君があの夜招かれた団地は反界だ。」


「じゃあ私達は霊界に居たってこと…?

そして彩香と笑実は今も霊界に居る…。」


「そう。そんでここからが肝心なんだけど、反界はこっちの常識とは色々とかけ離れていて、その中でも時間の流れが違うのが特徴的なんだ。

こっちで1年経っていても反界では1秒かもしれないし、10年かもしれない。

そもそも時間が流れていないか逆流している可能性もある。

これがもし正界での出来事だったら望みは無かった。

天体観測の日から1ヶ月近く経つからね。

運が良かったよ、白石さん。」



助け出せるかもしれない…。


漆原は突拍子も無い話をしているが明里の身に起こった突拍子も無い悲惨な出来事達が、皮肉にも彼の話に信憑性を持たせた。



「そしてもう一つ腑に落ちなかった点、なぜ君だけ今まで無事だったのか。」


そう、明里もそれが気になっていた。

自分のせいでこんな事態になったようなもの。

それなのに自分ではなく、大切な人達が次々と居なくる。


いっそ今すぐ死んでしまおうかとも考えた…


校門で漆原に出会うまでは。



「おそらく君は陽神の祝福を受けていた。

つまり、神様に守られていたんだよ。」


「何で私が….?

確かに陽神様は私にとって身近なものだけど…

でもそもそも神様が本当に居るだなんて思った事もないよ。」


無有はいつの間にかすやすやと寝ている。

その姿はただの子犬にしか見えない。


「これは推測でしかないんだけど、君のお祖父さんのおかげだと思う。

お祖父さん、天体観測の日お祈りしてたね。」


「うん。毎晩1時間ぐらいはやってた。

あの日もそれは変わらない。

でもそれは神主だから…」


「まさか!神主だって人間だよ。

朝8時から夕方5時まで働いたら仕事は終わりなんだ。

毎晩休まず1時間もお祈りを捧げるなんて方舟を造る前のノアか天皇陛下でもない限り、やりゃしないよ。

少なくとも俺は聞いた事がない。

多分その祈りは、単純に君を守ってほしいという願望だったはずだ。

しかし献身的に毎日祈りを捧げた結果、本当に陽神から祝福を受けるようになり、お祖父さんを媒介して君は守られていた。

そしてお祖父さんが亡くなり、陽神の祝福が媒介されず、君の陽素は剥き出しになってしまった。」


明里は涙を堪えていた。


ずっと仕事の一環だと思っていた。


しかし祖父は自分の為に祈っていた。


こんな自分の為に…。


もう泣くのはやめよう。

自分が泣いていたら祖父が浮かばれない。


明里は強く拳を握り、溢れそうな涙を無理矢理枯らした。

「私は2人を救いたい…これからどうすればいい?」


「まずは例の団地について調べてみよう。

どうするかはそっからだ。」


漆原は冷めたお茶を一気に飲み干した。


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