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陰to陽  作者: 黒川一
ー黄昏編ー
17/82

第14夜 敗北






明里が混乱している中、スーツ姿の男が病室に入ってきた。


「こんにちは、白石明里さん。

具合はいかがですか?」


頭を下げる明里。

「青森県警捜査一課の池田と申します。」


警察…

そうだ!!私は昨日あの館でっ…!!


夢じゃなかったんだ…


「あ、あの、祖父は!?祖父はどこですか!?」


「残念ながら…

お悔やみ申し上げます…。」

池田は下を向く。


上体だけ起き上がっていた明里は、糸の切れた操り人形のようにガクッと崩れ落ちた。


「お祖父ちゃん…」

急に突きつけられた現実に押し潰されそうになる。


「昨夜…我々が通報を受け、坂元玄海氏の館に駆け付けた時、館内の様子は白石さんもご存知の通りの惨状でした。

息があった白石さんとお祖父さんは救急搬送されましたが、お祖父さんの方は出血多量によるショックで深夜に息を引き取られました。」


明里は俯いたままだ。


「唯一白石さんだけが無傷の状態でしたが、医者曰く、連日に渡る精神的負担の積み重ねで倒れてしまったのだろうという事でした。

…こちらの方で白石さんの事は調べさせていただきました。

この5日間、大変でしたね。

…白石さんの行く所、行く所で事件が発生しています。

私の知る限り過去に例がありません。」


明里は黙ったままだが、続ける。


「こんなお話をさせてもらうのは心苦しいのですが、警察としては昨夜の件を大量殺人事件と断定しました。

そして5日前の行方不明事件、そして昨夜の大量死事件の現場の状況だけを見ていくと白石さんが1番疑わしいといのうが本当のところです。

しかし、1晩で20名弱の人間をあなた1人が殺害したなどというのはまるで現実味の無い推理です。

ですのでお祖父さんが亡くなられたばかりで大変申し訳ないのですが、昨夜何があったのかの詳細を出来る限りお聞かせ願えませんか?」


…………………………


昨夜起きた事?


あの出来事を話したとして一体誰が信じるというのか自分でさえ、夢だったのではと思うぐらいだ。

話しても事態がややこしくなるだけだ。


…それにもう疲れた。


彩香も笑実もいない、最強の霊能者も殺されていた。

そして何より大切な祖父を亡くした。


もう自分はこれ以上前に進めそうにない。


あの黒い少女には勝てないんだ。



「すみません、何も覚えていません。」

明里は淡々と答えた。



「………そうですか。

わかりました!

県警としては昨夜の大量殺人事件を引き続き捜査しますが、あなたが神奈川に戻った後は神奈川県警にあなたの担当管轄が移りますので、何か思い出すことがありましたらそちらにお伝えください。

では、失礼致します。」


池田はそう言うと、病室を後にした。



明里は俯いたまま、真っ白なシーツを見つめていた。






ー数日後






祖父の弔いが終わり、あっという間に数日が経過した。

葬儀にはたくさんの弔問客が訪れ、祖父の偉大さ、人柄を改めて実感した。


こんなに胸が苦しいのは父の時以来だ。


最初に父を亡くし、次に母が失踪、そして今回祖父を亡くした。


明里にもう身寄りはなかった。


遺されたのは陽神神社だけ。


この先どうするかを考える力も無い。


それに黒い少女を見る機会が日に日に増えている。


最近は家に居ても、外に居ても、何をしている時も現れる。


死を覚悟した今、もう恐怖は無い。


……………


もういい、殺してくれ。



明里は久しぶりに学校へ向かう。

その学生鞄に退学届を入れて。



学校に着いた明里に気付いた生徒がザワザワしながら彼女を見ている。



〈天海ヶ丘でクラスメイトを崖から突き飛ばしたんだって。〉


〈隣町の不良グループと繋がってるらしいよ。〉


〈殺人事件に巻き込まれたらしい。〉



明里を見て様々な事を言っている生徒達。


しかし今の明里にとってはどうでもいい。


職員室に着くと担任の先生が明里に気付いた。



「来たか!白石!」


「先生、先日はありがとうございました。」

担任が祖父の葬儀に参列したことへのお礼を言う。


「いや…大変だったな白石。

何か先生に力になれることがあったら言ってくれ!」


「お気遣いありがとうございます。ところで先生、電話でもお話しした通り私学校を辞め…」


「まあまあその話は後にして、とりあえず今日は授業受けてけ!!

皆もお前のこと心配してるから。顔だけでも出してくれよ。な!」


明里の言葉を遮り、声を張り上げる。


「いえ、私は…」

「まあまあまあまあ!行くぞ!!」

半ば強引…というよりほぼ強制的に明里は教室に連れてかれた。



ガラガラッ



「皆おはよう!今日は白石が出てきたぞー!

皆色々聞いて心配してるかもしれないが普通に接してやってくれ!」

またもや声を張り上げ、明里にウィンクする。


ザワザワとする教室。


すると学級委員長が声をかける。


「白石さん、これ…」


彼女が渡したのは、明里が居なかった間の全授業の内容をまとめたノートだ。


「白石さん、こんな事しかできなかったけど…何か私達にできることがあったら言ってね!」


こんな事だって…?


今の明里には十分過ぎるぐらいだ。


久しぶりに日常に戻れた気がする。


明里は静かに涙を流し、お礼を言った。






ー昼休み






「おい、漆原!お前何ニヤニヤしてんだよ!

気持ちわりーな!」


「お前どうせ変な想像してんだろ。エロゲーばっかやってそうな顔しやがって!」


クラスの男子生徒達が漆原に絡む。


「ククク…」

漆原は笑みを浮かべている。


「うわっ、本当に気持ちわりー。こいつに話しかけんのやめよーぜ!」


「そうだな…とりあえずこんな奴はいいから飯行こう飯!」


男子生徒達は教室の外へと出ていった。


「ククク…愚かな餓鬼共め。」

1人になった漆原は陰キャ特有の独り言を呟いた。


「漆原くん、相変わらずいじられてる。

嫌じゃないのかな?」

明里は何度か漆原をからかう男子生徒達に注意をしたことがあったが、漆原に「お節介な餓鬼め」と言われてからは迷惑をかけてはいけないと思い、あまり関わらないように努めてきた。


しかし今の明里にとっては漆原がいじられてる光景でさえ心が温まる。



少し前までは彩香が居て、笑実が居て…



死を覚悟した明里にとっては学校での何気ない日常が痛い程身に染みる。


明里がそんな事を考えながら急遽学食で買ったパンを食べていると、隣で机を囲んでお弁当を食べている女子グループの話し声が聞こてきた。



「ねえねえ、街の外れにある幽霊団地の話知ってる?」


「えっ何それ?」


「私の知り合いの知り合いが仲の良いグループでその団地に肝試しに行ったんだけど、その中の1人がそこでランドセルを背負った女の子に腕を掴まれたんだって!」


「よくある話じゃん!」


「いや、ここからが本題よ。

その腕を掴まれた1人…翌日腕に強烈な熱を感じて見てみると、黒い手の痕が残ってたんだって。

丁度小学生ぐらいの女の子のね。

そして日を追うごとにその黒い痕が大きくなっていって最後には全身が黒くなって亡くなったみたい。」



「………」



「なーんてねっ!本当は私の知り合いじゃなくてch7(チャンネルセブン)のまとめサイトに載ってた話!たまたま知ってる団地だったから面白かったよ!」


「なんだよービビったぁ…」


「ほーんと!で昼休みにする話じゃないね!

やめてよねー!」



「ねえ、その話の団地ってどこにあるの?」

明里が食べていたパンを机に残し、彼女達に話しかける。



「あっ、明里!何何、明里もオカルト好き〜?」


「ちょっとあんた!!」

団地の話をしていた女生徒を隣のクラスメイトを窘める。

ここ最近起きた不幸を知って、明里に気を遣っているのだろう。



「ありがとう。でも大丈夫よ。

で、どこにあるの?」

明里は表情1つ崩さずに続ける。


「ああそれはね、産業道路の向こう側の田んぼ地帯の先だよ。そこだけポツンと団地があるからすぐわかると思う!」



この街にあったのか…



そこは天海ヶ丘の真逆の方角。

人がほとんど行かない、田んぼと空き地しかないような場所だ。


確かに祖父から例の少年が、どこの(・・・)団地で霊障にあったかは聞かなかった。



「こんなに近くに…」

明里が呟く。


「ん?どしたの?」


「ううん、何でもないよ!ありがとう。」

明里は食べかけのパンをそのままにして教室を出

た。






ー職員室






「あの…先生、食事中にすいません。

体調が悪くて…

やっぱり今日は早退させていただきます。」


「おう、そうか白石!大丈夫か?無理するなよー?

じゃあ、あの話はまた後日でいいか?」

愛妻弁当を咀嚼しながら担任が返事する。


「いや…はい、お願いします。」

明里は自分が生きては帰らないことを知っているが、担任にそれを言いかけ、やめた。


校門を出る明里。


振り返り、思いを馳せる。


もう自分はこの日常に戻ることはない。

が、居なくなった人達の為にも、そして明里に関わる全ての人達の為にも、自分がここで決着をつける。


そう決意し、踵を返した。



!?



「ククク、団地に行くの?白石さん。」


「漆原くん!?」


「ククク」



明里が声の方に振り向くと、門の陰に漆原が立っていた。

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