表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰to陽  作者: 黒川一
ー黄昏編ー
13/82

第11夜 目的






PM3:46 市立病院地下駐車場



「ふぅ〜」

ブラウンの背広にオールバック、恰幅の良い中年男性が助手席で溜息を吐く。


逆井(さかさい)、お前どう思った?」

運転席に座るスラッとした体格の若い男に問いかける。


「可愛らしい女の子でしたね〜。

まだ16歳でしたっけ?」

逆井は車のエンジンをかける。


「バカ。そうだけど違うわ!証言についてだよ!」


「あっ、そっちですか!事件なのか事故なのか…どっちにしても、気を失ってたんじゃ何が起きたのかなんてわからず仕舞いですよね。」

車を走らせる逆井。


「天体観測の帰りに自分は気絶し、目が覚めたら血塗れで友人達は行方不明…。都合の良い話だな。」


「どうゆうことですか?」

信号が青に変わる。


「白石明里が嘘を吐いてるってことだよ。」


「嘘!?なぜですか?」

逆井は横流しの前髪を勢いよく振る。


「わからん…が何かを隠してるのは違いねぇ。

状況も証言も全てがおかしすぎる。とりあえず鑑識から血痕についての結果が出りゃ進展があるはずだ。

天海ヶ丘のトンネルとその下の海中もくまなく捜索してるしな。

それまでは地道に行方不明者の足取りを追っていくしかないな。」

中年の男は流れていく景色を眺めながら電子タバコを吹かす。


「あの子が嘘をねぇ〜。

まだ子供なのにそんな事が…」

逆井は大通りへと続く交差点を右折しながら呟く。


「んなこたぁ関係無い。

高校生だろうが小学生だろうが、殺意と凶器を持ちゃぁ殺人なんて簡単にできんだ。

捜査に子供だ大人だなんてのは考えねぇようにしな。

そんな常識はノイズにしかならねぇ。」


逆井は感動したのか助手席の男を見つめる。

反町(そりまち)さん…一生着いてくっす!!」


進行方向の信号は赤。


キキーッ!!


「すいませんっ!!」

余程驚いたのか、逆井は持ち前の端正な顔をグシャグシャに崩して反町に詫びる。


「バカ!着いてこんでいいから前見ろ前!」


2人の乗る車は街の喧騒より騒がしく、ドタバタしながら所属する警察署へと帰っていった。






PM8:59 陽神神社



「明里、疲れたろう?

退院早々で悪いが明日は早速祓いの儀式じゃ。

今日のところは休みなさい。」

心配そうに祖父が促がす。


「その前に聞きたいことがあるんだけど…。

病院でお祖父ちゃん"自分のせいだ"って言ってたよね?

あれは一体どうゆうこと?」

明里が真剣な顔で祖父に迫る。


祖父は作務衣の袖に隠していた右手を差し出した。

肘と二の腕の境目がわかるほどドス黒く変色している。


「実はのう…お前が天体観測へ行った日、一件祓いがあったじゃろう?

あの日、小学生の男の子がご両親に連れられて来たんじゃ。

電話で事前に話は聞いていたんじゃが、実際に見て驚いたわい。

男の子は強力な呪いにかかっていてのう、右腕が黒く変色していたんじゃ。」


右腕が黒く…


明里の脳裏に"あの少女"がちらつく。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



2日前 陽神神社



「色んな病院を連れ回ったのですが、どこに行っても原因不明としか言われなく…最後の希みでこちらに伺いました。」

やつれきった母親が説明する。


「もちろん他の霊媒師さんの所にも行きましたが、いざこの子に会うと、どなたも門前払いにされました。白石さん、この子を助けてくださいっ…」

父親が悲痛な声をあげる。


フードを目深に被り、怯える様子の男の子。

だらんとした右手は動かせないようだ。


「わかりました、やってみましょう。

それでは着替えが済んだら早速こちらの方へ。」


真っ白の着物を渡した後、太陽の依代の前にある太い縄をぐるっと回した円の中に座るよう促がす。

「お名前は何て言うんじゃ?」

優しい声で語りかける。


拓磨(たくま)…」


「拓磨くんか…良い名前じゃ。

それでは右腕が黒くなった原因を話してもらえるかな?」


縄の円の周りに点々と配置している蝋燭に火を付けながら、事の経緯を聞いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「何でも同級生と空き地で野球をして遊んでいた時に、ボールが隣の廃団地(・・・)のフェンスを越えていってしまったそうじゃ。

ボールを取りにフェンスを乗り越えると、ランドセルを背負った女の子が居たんじゃと。

拓磨君はその子がうずくまっていたから心配になって声をかけたらしい。

〝大丈夫?こんな所で何してるの?〟とな。

そしたらその女の子の肌が見る見る内に黒ずんできた。

拓磨君は急に怖くなり、急いでフェンスを乗り越えようとした時、その女の子に右腕を掴まれたそうじゃ。

必死にその手を振り払い、フェンスを越えて事なきを得たんじゃが、帰宅後に掴まれた右腕が猛烈に熱くなって動かなくなった。

袖をまくって見てみると…そには黒い手の痕が残ってたそうじゃ。」


明里は息を飲みながら聞く。


「その黒い手形は日を追うごとに広がっていってのう。ここに来る頃には右腕全体が黒くなっていた。」


そう言いながら祖父は自分の右腕をさする。


「して、祓いの儀式を始めたんじゃが、タクマ君が事の経緯を話してる途中からその背後に黒い少女が見え始めてのう…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






黒い少女が拓磨の背後からこちらを見ている。

肌がドス黒く、その表情はわかりづらいが、こちらを睨んでいる事だけはハッキリとわかる。


「これは…」

祖父が黒い少女の力を感じ、驚愕する。


「うぅっ、うう…」

タクマが苦しそうに唸る。


「白石さん!」

タクマの両親が心配そうに見つめる。


「事の経緯はわかりました。早速始めます。

この先は決して口を開かないでください。

呪いがご両親にも移ってしまいます。」


祖父が読経を始める。

いわゆる一般的な経文とは異質のものだ。


陽神神社は太陽を神と信仰しており、経文もその仕様になっている。

とはいえ経文の内容が違うだけで、口調や流れは一般的な読経と大差はないのだが。


「〜陽の御神の光来にて陰破る》

拓磨の中から出て行け!!」


祖父が右手を拓磨にかざしながら命令すると、黒い少女は振り子運動の如く首を左右交互に傾け始めた。


大きな髪を振り乱し、左、右、左、右…。


次の瞬間


突風が吹いたかのように、突然蝋燭の炎が全て消え去り、祖父は太陽の依代まで吹き飛ばされた。


ドンッ!!


「ぐあっ!!」


バタン!!

拓磨が気を失った。


叫び出したいのを必死に堪えて見守る両親。


本殿が静寂に包まれる…


「っ………(祓えたのか…?)」

祖父が立ち上がる。


「拓磨君!しっかりしなさい!」

祖父が拓磨を抱えると、憑物が落ちたような柔らかい表情で眠っている。

先程の怯えた様子からは信じられないほどの変化だ。


「何とか祓えた様じゃ…」


祖父は拓磨の表情を見て安堵する。

右手の痕もいつの間にか消えていた。


!?


祖父は自分の右手首の異変に気付くが、平静を装い拓磨の両親に声をかけた。


「ご両親、もう喋っても大丈夫ですぞ。

無事に霊障は取り除きました。」


両親はせききれたように涙を流しながら息子の元へ駆け寄る。

「拓磨っ!拓磨っ!」

連日に渡る極度の緊張状態から解放された為か、母親が泣き崩れる。


「ありごとうございますっ…ありがとうございますっ!」

父親が大粒の涙を流しながら感謝を伝える。


朗らかな笑顔を浮かべる祖父

「無事に終わって何よりです。今日は息子さんをゆっくりと休ませてあげてください。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「そしてわしは右手を隠し、祓いが完了したように見せかけたんじゃ。」


明里の頭の中で2日前の記憶が逆再生されていく。


「しかしその実、少年の呪いは祓われたのではなく、わしに移っただけじゃった。

老い先短いわしの身1つであの少年が助かるならそれで良いと思ってたんじゃが…甘かった。

おそらくわしに呪いが侵食し切る前に、少年一家と入れ替わりでここに来た彩香ちゃんに"ヤツ"は目を付けた。」


なるほど…しかし腑に落ちない点がある。

明里はあの日学校から帰ってから彩香が来るまでずっと家に居た。

なぜ明里には手を出さず、彩香の方へ?


「そしてあの夜は血月(ちづき)

赤い月の夜は陰力…つまり闇の力が増すのじゃ。

団地…つまり自分の陣地き入り込まれない限り手を出すことができない"ヤツ"は、少年を利用して外に出た。

そしてさらには彩香ちゃんを利用し、血月によって強まった力でお前達3人を廃団地へと呼び寄せた。」


彩香を利用した?どうゆう事?

明里が頭の中に浮かんだ質問を投げかける前に祖父が言った。


「そう、"ヤツ"の目的はお前じゃ明里。」


目的は自分…?

祖父は何を言っているんだ?



混乱している明里の心臓の鼓動は早鐘を打ち、頭の中ではぐるぐると2日前の記憶が巡っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ