第9夜 夢
ザワザワと声が聞こえる。
(ここは…?
私…貯水槽に落ちて…)
「彩香!笑実!」
ドンッ!
「いったぁ!!」
明里は勢いよく立ち上がり、天井に頭を打ち付けた。
何度も何度も通った馴染みのある道。
ここは"あの場所"へのトンネルだ。
「早く戻らなきゃ!早く!!」
明里は狭いトンネルを下へと駆ける。
ザザーンッ
トンネルを出た先は波が打ち付ける天海ヶ丘の中腹。
「何で?何であの団地に行かないの!?」
トンネルの出入り口を行ったり来たりする。
「行けない…どうして…」
明里の目からは枯れかけの涙が流れる。
丘の上からは相変わらず人々の声が聞こえていた。
今は何時なのか…
おもむろにスマホを取りだし、時間を確認する。
画面は22:35を表示している。
「えっ!?」
最後に時間を確認してから10分も経過してないことになる。
あれは夢だったのか?
タチの悪い悪夢で自分が勝手に気を失っていただけ…
「何だ…あれは夢だったのね…」
大男の惨劇、燃え盛る炎の熱、禍々しい黒い少女の姿。
下唇に痛みを感じながら、とんでもない夢を見たと力無く笑う。
彩香と笑実は、きっと丘の上にでもいるのだろう。
自分はドジだから何かあってトンネルで気を失ったのだ。
そう自分に言い聞かせる。
「上に行こう…」
明里は疲れ果てた体でトンネルを抜け、道なき道を登っていく。
空には煌めく流星群。
もはや見慣れた光景に心を落ち着かせながら、丘の上に辿り着いた。
人が沢山いる。
彩香と笑実はどこにいるのか…
「キャーッ」
明里の正面に居る女性グループの1人が悲鳴をあげた。
明里に気付いたグループの仲間達も次々に悲鳴をあげる。
「何…?どうしたの?」
虚ろな目をして明里が呟く。
周囲のざわめきが大きくなっていく。
「君!どうしたんだ!?」
サラリーマン風の男が明里の元へ駆け寄る。
「え、何が…?」
疲弊した脳は正常な思考が働かない。
「こんなに血だらけになって!
大丈夫か!?
おい、警察を呼んでくれ!」
サラリーマン風の男が妻らしき女性に言う。
(血だらけ…?だってあれは夢…)
明里は自分の体に目を落とす。
まるで赤いドレスを着ているかのようだ。
そして一気に現実が押し寄せた。
「夢じゃなかったんだ。」
力無く呟いた明里は、サラリーマン風の男に抱えられながら意識を失った。




