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微力ながら協力させてもらうよ

この章でペンギンに関してのストーリーは終わりです。「得るべし飼うべし愛すべし」の最後にモケ山動物園を訪れる場面を入れたいと思っています。

キリンコーナーから真っ直ぐ門へ向かった。


門の近くの管理事務所から、長靴に作業着姿の職員が慌てた様子で出てきた。

スマホに向かって「そんなはずないって。生まれてないって」と告げていた。その職員はペンギンコーナーの方向へ走って行った。


ひょっとすると、スイカのことかもしれない。



門を出ると木の枝に何かをぶら下げた男の子が走り回っていた。


「捨てなさい」

「オレが釣ったからオレの」

「びしょびしょでしょ」

「オレのなの。ペンギンのプールで釣った」

「誰かが忘れてったんだよー。きっと困ってるよ」


男の子が木の枝にぶら下げていたものはボールネットだった。



きっとスイカは無事。

これからも。

大丈夫。



ももしおをねぎまに託した。


一晩中泣くのかもしれない。




ももしお×ねぎまを見送った後、ミナトとオレは、取りあえず寛ぎたかった。魚臭くない場所で。


桜木町のカフェ。


「昨夜とか、最悪のこと考えて眠れなくてさ」


ミナトは眠れなかったのか。


「最悪って、警察に捕まるとか?」

「いや。スイカが溺れるとか怪我するってこと」


そっか。そっちの方が最悪じゃん。


「明日、ヤフーニュースになったりすんのかな?」


オレは事件になることが怖かった。


「宗哲、バレたとしてもお咎めなしじゃね? そりゃ、怒られるかもしんないけど。

 例えばさ、ツバメの卵を拾って警察に届ける?」

「届けねー」

「雛が孵って育てたら捕まる?」

「まさか」

「じゃさ、ペンギンのプールにうっかり何か落としたとしたら犯罪?」

「ちげー」


「な、だろ? 犯罪行為をしてるとしたら、プールの更衣室への不法侵入と椅子からスポンジを抜いた器物破損ってとこ」


「んー。でも、Pがレッドリストの動物だって知っててそのままだったのは、アウトだよな」

「だなー」


ももしおは、どんどん可愛くなって、手放せなかったと言っていた。

分かる。すっげー可愛かった。

ずっと一緒にいて世話してたら、分かった時点で「フンボルトペンギンのようなので警察に」なんてできねーよな。


ミナトとオレはコーヒーの香りに包まれながら、カフェオレを飲んだ。

匂いって大切。


「ミナト、今なら男テニいないんじゃね?」

「だな」

「寝不足は?」

「大丈夫。早い方がいい」

「飲んだら行くか」


撤収だ。




ミナトと2人で学校へ行った。

途中、100均で雑巾を買った。


なるべく音を立てないようにプールの男子更衣室の掃除をした。


やっぱり1番臭うのはクーラーボックス。

ドッグサークルが置いてあった床の周辺も。ビニールや新聞を敷いていたって、スイカの臭いも糞の臭いもこびりついている。まな板と包丁も臭う。


つーかさ、アイツ、この荷物どーするつもりだろ。

ドッグサークルとか。

クーラーボックスだってでかい。よく家に内緒で持って来れたよな。感心する。


色々聞きたいことはあるけどさ、今夜はゆっくり泣かせてやろう。




夜、試合に勝ったタケちゃんが漂白用洗剤を持ってきてくれた。

LINEで掃除をしていることを伝えたとき『魚臭ぇ』って送ったから。


「ハイターやで」


とタケちゃんは包丁やまな板、ミキサーにシューシューした。


暗幕にも魚の臭いが染みついている。

暗幕は男子部室棟外にある、サッカー部の洗濯機で洗うことにした。




翌日、日曜日の朝、みんながプールの更衣室に揃ったときには、ももしお×ねぎまは既に来て換気をしていた。

全ての窓が開け放たれて気持ちいい風が入ってくる。


ミキサー、包丁、まな板、シュラフは見当たらない。ラケットバッグに片付けたのだろう。

クーラーボックスは洗ってプールサイドに干してあった。

暗幕は全て外されていた。

更に、ドッグサークルは梱包されていた。

ゴミ袋もなし。


全部ももしお×ねぎまが終わらせていた。



「ももしお、ドッグサークル、どーすんの?」

「メルカリで売ってみた。売れたの」

「早っ」


「私、もうバド部の練習行くね。シオリン、遅れてもいいから来なよ」

「全部終わってから考える。顧問の先生んとこも行かなきゃいけないし」


ねぎまはバドミントン部へ行った。


今度はタケちゃんが聞いた。


「百田、クーラーボックスどーするんや」


クーラーボックスは大型サイズ。長い方が60センチくらい。キャスター付き。


「持ち出すときは家に人がいないときにできたんだけど。どーしよ」

「オレんとこ、置いとけば? 別にいつでも取りに来りゃえーし。

 なんやったら、卒業してから車で百田んとこ運んでもえーし」


ん? タケちゃんがなに気に提案してることって、卒業したら免許取って君の家に行くよって内容?


「西武君とこにこんなん置いたら邪魔だよー。バド部に置いておく」


ももしおはタケちゃんの申し出を深読みしなかった。気づいたげて。


「百田、オレ、運ぶで」

「大丈夫。持って来れたんだもん。運べるよー。ww」


ももしお、タケちゃんに運ばせてやれよ。まったく。


後は暗幕を洗うだけ。3箱のうち1箱は使っていなかったから、そのまま返すことにした。

ドッグサークルはコンビニから宅急便。男子部室棟のサッカー部の洗濯機で、数回に分けて暗幕を洗ってプールサイドに干した。


干し終えると、ももしおは「バド部の顧問のとこに行ってくる」と言い残して、男子更衣室を出て行った。オレは、後を追いかけるようにドアのところへ走った。


「ももしお、大丈夫か」


心の中、自分で自分に「大丈夫ってなにが?」と聞く。分かんねーし。

スイカがいなくなったけど大丈夫かってことなのか、部活サボってたこと顧問に怒られるだろうけど大丈夫かってことなのか。でも、そーゆーのひっくるめて、オレは何か声をかけたかっただけなのかもしれない。


「大丈夫」


ももしおは、作ったような笑顔を貼り付けて振り返り、ぶんぶんと手を振った。



跡形がなくなった男子更衣室の床に男3人で大の字になって寝転ぶ。


「ペンギンのニュースなかったな。よかった」


ミナトは安堵していた。


「可愛かったなー。スイカ。スイカの世話する百田も可愛かったで。

 なんや、両方見られへんようになったんが寂しいなー」


タケちゃんは残念そう。

オレ? オレは……


「なんか、楽しかったな」

 



その後、モケ山動物園もペンギンもニュースにはならなかった。

暗幕の洗濯は無事終了。暗幕が入った段ボールは幹事会室の横にこっそり戻した。結局、クーラーボックスは、ももしおの両親の承諾を得てバドミントン部に寄付したらしい。


バドミントン部の顧問は泣いたそうだ。20代後半。独身女性。

自分がももしおに期待し過ぎて練習をハードにし、部の雰囲気を変えてしまった。これを気にしたももしおが、退部を考えたのではと悩んでいたらしい。

何度もももしおに謝ったとか。

おいー、ももしお。お前は謝ったのかよ。部長なのに部活サボりまくって。


そしてバド部は、我が校の体育会系らしく、ゆるゆるの部活に戻った。

瓢箪から駒。



つまり、ねぎまとのクルージングデートどころか、2人での旅行なんかも行けちゃったりするわけで。



劣情は情熱の一種だと思う。


米国債のデフォルトが偽であろうと、これは真。


もう充分に努力もしたし精進もした。




すでにプールの男子更衣室とは無縁の生活。

部活に行こうと、小田とフラれ男と一緒にぶらぶら歩いているときだった。


ももしおが1人で歩いているところにばったり。

まだ、寂しくてどうしようもないって顔してるじゃん。


「ももしお! うぃぃぃ」


そんなしょんぼりするなって。そう思って声をかけると、ももしおは立ち止まった。


「あ、宗哲君。

 私、赤ちゃん欲しい」


ぽつりとももしおの口から零れた心中。

だよな。ふわふわのスイカはホントに可愛かった。


「元気出せって」


というオレの声をかき消したのは、フラれ男。


「百田さん! 微力ながら協力させてもらうよ」


フラれ男はももしおの手を両手で握っている。


「「「え」」」

「すぐ作りに行こう」


小田が手刀をフラれ男に振り下ろすのと、オレがフラれ男のケツに蹴りを入れたのは同時だった。





待ちに待った水曜日。

放課後クルージングデートの日。


日が落ちるのが早い。星だけが知っていた作戦はきっと成功する。

現在夕暮れ時。


ねぎまと2人、手を繋いでマリーナへ。

祖父の釣り船はちょっと魚臭くてスイカを思い出すが、それもまた一興。


乗船。



「ちょっと風があるね」


と君は言った。

もうすぐ広がる満点の星空を君に見せたかったんだ。そんな風に心の中で思っても、照れて口に出せない僕に、君は「分かってる」とでも言いたげに微笑むんだね。夕陽を映す海よりも、君の方が100万倍綺麗だと思うなんて、ああ僕は、船じゃなく君に酔ったみたいだ。


んーっと、この感じだと、オレの望む星だけが知っていた作戦に到達しねーよな。


白磁の肌は薄暗い中で男を誘う。はだけたブラウスから覗く鎖骨に、月明かりが雫のような影を作る。秩序も理性も常識もがらがらと瓦解していく。何も纏わない美しい双丘に男は身を委ねた。耳にかかる吐息。その熱さに、二人はもう戻れないことを予感するのだった。


これこれ。この感じで。



「あ、ライフジャケット着て」


オレはねぎまにライフジャケットを羽織らせた。ねぎまはライフジャケットのジッパーを上まで上げた。


ジ――――


安全OK。


……。

服、はだけねーじゃん。

双丘どころか鎖骨も見れねーじゃん。




この先は、少しエキセントリックになる予定です。

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