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ここからはPARTⅡ

夕暮れはあっという間。

燃えるような赤は空も海も、それから、眩しそうに目を細めるねぎまも覆う。



「ももしおって、ダブルス誰と組んでんの?」


オレは波の音や船のエンジン音に負けない声を出した。

キャビンの扉を開けてあっても、コックピットからは外で景色を見ているねぎままでが少し遠い。


「私」

「え」


まさか、ねぎまって、バドミントン部で巧い方? ももしおと組むってことはそうだよな?


「あ、意外って顔してるー」


おっと、顔に出てた。ねぎまはキャビンの中まで来て、オレの顔を覗き込む。


「そんなことねーし」

「シオリンほどじゃないけど、私だって頑張ってるの。バックハンドとか結構ビシッと決まるんだからね」


向きになるねぎま、かわいー。

ねぎまが運転するオレの傍らで、物珍しそうにハンドル周りの計器やらレバーを眺める。


「ダブルスのペアだったんかー。ももしおが戻ってよかったな」

「うん。シオリンね、脚に筋肉がついてて、顧問が感動してた」

「は? 筋肉?」

「ほら、西武君とこのアパートって、結構急な坂でしょ? それを1日に何回も走って往復してて。だから筋肉付いたんだって。それに、スイカのご飯のお魚を買ったり、クーラーボックスの氷用意したりして重い物運んだからなのか、腕もちょっとかっこいいの。シャトルのスピードがパワーアップしちゃって」


へー。そんな効果が。


「で、なんでそれに顧問が感動するわけ?」

「部活休んでても筋トレしたり自主練してたんですねって。シオリン、もともと不死身のスタミナだったんだけど。ハードな練習しても息一つ上がらなくなってて凄いの」

「はは」


ももしおらしい。今度、すぺーんとしていない筋肉質の脚を拝んでおこう。


そういえば、何年か前に水族館から脱走したペンギンは、2か月半シャバで暮らしてマッチョになって捕獲されたんだったっけ。なんとなく、ペンギン&筋肉で思い出してしまった。


座って運転している状態でふと隣のねぎまに目をやれば、胸部。


ごくっ


思わず唾を飲み込む。

落ち着け。悟られるな。下心。



「なー、ゼットンの方はどーなった?」


アリよりのナシっていわれてからの告白とか、砕けて当たる漢気の行く末が気になる。


「投資部の子を紹介してもらって、グループLINEで株や経済の話してるみたい」


すげー。ゼットンの漢気よりも、ももしおの厚かましさが。



点々と星が光り始める。


星の下には色とりどりのみなとみらい。海からの赤レンガ倉庫、観覧車、インターコンチ。自分達の遊び場は人工的なドリームランドのように見える。


「パピコ横浜の方が明るいよ。なんかやってるのかなー」


ねぎまがパピコ横浜の方を指差した。インターコンチの隣にある大きな建物。コンサート会場や展示会場として使われる。インターコンチがヨットの帆ならば、パピコ横浜のぎざぎざとした屋根は波のよう。


「行ってみる?」


道路のない海の上は自由自在。船をゆっくりと陸に近づけていく。はしゃぐねぎまが可愛くて、パピコ横浜の屋外スペース横を横切り、臨海パークの方まで進んだ。



エンジンを止めて、ねぎまと2人でキャビンを出た。



臨海パークでは、スポーツウエアに身を包んだ人達が30名ほど、アキレス腱を伸ばしたり、ストレッチをしたりしていた。


「わー、人の上に乗ったりしてるー」


ぱちぱちぱちぱちとねぎまが手を叩いて喜ぶ。

人の上にもう一人が立ち、更にもう一人。3人のタワー。


「なんかの練習みたいだよな」

「だね。なんかイベントあるのかな?」


ねぎまはスマホでパピコ横浜のイベントをググった。


「なんかあんの?」

「うーんとね、中国の商品を紹介するイベントがあるみたい。今週の土曜日から。

 パフォーマンスショーありって書いてある」

「へー。じゃ、あれ、雑技団的なヤツかも」

「ね」


エンジンを止めた船は、波にゆらゆらと揺れていた。オレの理性もゆらゆら揺れる。

ねぎまと会話しながらも、頭の中には、男テニの部室で聞いた言葉が浮かんでいた。


『女って、後ろからとかいきなりとか好きだよなー』


シチュエーションはばっちり。海、宵の口、二人きり。

船べりに手を掛け、髪を風に戯れさせながら沖を見つめるねぎまの背後にそっと近寄る。


ざざー

  ざざー

     ざざー


穏やかな波の音。二人だけの世界。

今だ。


オレはねぎまを後ろから抱きしめようと手を、


ぶんっ!


「痛って」


オレは強烈なバックハンドを顔面に喰らった。凶器レベル。


「きゃ、宗哲クン、いきなりだったから、体が勝手に」

「うわっっと」


ゴンっ


どさっ


不安定な船の上でバックハンドを喰らったオレは、後ろによろけて船体で後頭部を強打。

めまいと共に仰向けに倒れたのだった。くらくらする。


「ごめんなさい。宗哲クン、大丈夫? 宗哲クン」


ねぎまがオレの顔を覗き込んでくる。


あー、もう、波が穏やかだから、いっか。


がばっ


寝転んだまま、ねぎまをハグ。

ホントは、ライフジャケットなしで抱きしめたかったなー。



今一つ予定とは違うけど。

ぜんぜんこんなんじゃ足りないけど。


ねぎまの美しさに星が霞んだ。疲れ目じゃなくて。




全クリ、コンプリート。



のはずだった。



ねぎまがあんなことを言い出す前までは。



横浜駅、カモメ橋を渡ったパン屋横。

屋外席のイートインで秋風に吹かれる。4人。ももしお×ねぎま、ミナト、オレ。


スイカロスから立ち直りつつあるももしおだったが、まだ元気がない。


「ももしおちゃん、食欲ない?」


ミナトが風に舞うゆるふわウエーブの髪をかき上げながら、ももしおを心配した。

ももしおの前にあるトレイの上には、パンが4個。いつもは5個以上。落ち込んだ時は3個。つまり、ちょっと凹んでるってこと。


「んー。なんかね。楽しくなくって」

「スイカ、可愛かったもんね。元気出して、シオリン」


ねぎまが両手をぐーにして、ももしおを鼓舞する。


「それもだけど。トレードができなくって」

「トレードって株かよ」


オレが聞くと、また怒涛のようにももしおの口から言葉がたらたらと垂れ流された。


「もー、どーして米国債なんかに手ぇ出しちゃったんだろ。すっごく反省。資産運用としてはOKなの。だって、4%とかって日本じゃ考えられないくらいの利率なんだもん。日本の国債なんて30年ものだって1%切ってるんだよ。それと比べたら、ジャンク債レベルにいいわけ。だって、20年で倍以上になるんだもん。でもね、ずーっと動かせないの。資金が拘束されちゃうの。あー、なんでガッツいて30年物のゼロクーポン債なんて買っちゃったんだろ。26年後なんて43歳、アラフォーだよぉぉぉ」


言い終わると、ももしおはだれーんとテーブルに体を預けた。


「シオリン、要するに、長いこと預けておかなきゃ儲からないってのを買って、株をするお金がなくなっちゃったってこと?」

「う"~~~~~。宗哲君の言うこと、聞かなきゃよかった」

「オレの所為かよ。投資は自己責任だろーが」


「ももしおちゃん、債券市場って株式よりもでかいってゆーの読んだことあるよ。少し、売れば?」

「未だ買ったばっかりで、イールドカーブ見たら、大損するって分かって。証券会社にごっそり手数料替わりのマイナス金利を持ってかれちゃう」


ももしおはテーブルに突っ伏した。それを横からゆさゆさとねぎまが揺すった。


「ねーねー、シオリン。私ね、ずっと聞きたかったことがあるの」

「なーにー」


ねぎまの問いかけに、ももしおは突っ伏したまま、くぐもった声で返事。


「スイカの卵、どこで拾ったの?」


出たー!


この話題は避けてきたんだよ。ミナトとさえ話さなかった。どう考えたってヤバいから。

スイカはレッドリストのフンボルトペンギンだった。海の近くですらない横浜駅周辺に卵が転がっていたなんて、犯罪でしかあり得ない。

可能性があるとすれば、闇の動物ブローカー。


なぜオレがあれほど警察を恐れていたか。それは、犯罪組織と繋がっていると疑われるとか、事件が明るみになって犯罪組織から狙われるとか、そういったことを懸念していたから。


「ももしお、言わなくていい」


オレは咄嗟に口にしたのに、ももしおは、腑抜けた声で突っ伏したまま答えた。


「**通りのぉ、自販機の角曲がったとこー」


あ~あ。


「シオリン、連れてって」

「やめろ」

「どーして? 宗哲クン」

「分かってるだろ?」

「宗哲クン、場所だけ。ちょっと、単」

「『単純な好奇心』って? ちげーから。身を亡ぼす好奇心だから」


オレが言い捨てると、ねぎまは開き直った。


「宗哲クンは塾の自習室でも行けば? 私は場所を知りたいだけなの。行こ、シオリン」


ねぎまは立ち上がった。が、


「マイマイ、私、まだパン食べてないのー」


ももしおが水を差した。仕方なく、ねぎまはすとんと再び腰を下ろした。


「ねぎまちゃん、場所確認するだけだからね。で、ちゃんと一緒に行くから。

 そんな危ないとこ、女の子だけで行っちゃダメだって」


ミナトは早々に阻止することを諦めた。

だよな。この2人はダメって言ったって、行きたかったら行く。


「ももしお×ねぎま」としてストーリーを思いついたのはPARTⅡの部分です。ペンギンのストーリーは、小学生が主人公の話として考えていたものでした。

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