無理だ…
「卑怯だよ~」
頬を膨らませながらミントは紗綾の方を見る。
ミントはすぐさま紗綾の前に走っていくと、紗綾はミントに【ブラッドガン】を向けるがミントの早さに反応できず、紗綾が気づいたときにはミントはすでに腕の上で拳を振り上げていた。
僕は後ろから横にミントを【蒼の短剣】で斬ろうとするが、後ろを見ずにミントは【蒼の短剣】を下から上へと蹴り上げ、あまりの威力に僕の手から【蒼の短剣】が消える。
ことは分かっていた。
僕は【蒼の短剣】が蹴られる前にすでに手を離して、もう片方の手でミント横っ腹を殴りにいく。
ミントは驚きからかこちらを振り向き、冷静に僕の拳と腹の間を腰を曲げて紙一重で避けようとする。
その瞬間ミントが「三ラウンド目の開始開始!」と言って向かってくるときに選択しといた【致死の短剣】がダウンロードが完了される。
奏太
【残容量:8700MB】-【致死の短剣:2500MB】=【残容量:6200MB】
さすがにミントでも避けきれず、腹に深々と【致死の短剣】で切り裂かれた。
ミント
【残り体力:7000/10000】
しかし、僕も無理矢理な体勢で攻撃したので少しだけ身動きがとれなくなってしまう。
ミントはそれを見逃さず、すぐに反撃するために足に力を入れて僕の方に跳ぼうとするが、紗綾がうまい具合に腕の力を緩ませてミントの足場を崩す。ミントは頭に血が上っているのか、反応が出来ずに体勢を崩す。
僕は足に力を入れて体勢を整えて、勢いよくもう一度【致死の短剣】でミントの腹を切り裂く。
ミント
【残体力:5000/10000】
ミントは一瞬にして僕たちとの距離をとった。
ミントはゆっくり目を閉じる。
「お前ら殺す殺す」
一気にミントは目を開き、前屈みになる。
明らかに今までとは全く違う雰囲気を醸し出していた。まるでベットリとした液体が体の皮膚を這っているような気持ち悪さだ。
ミントが僕に向かって走ってくる。
走るスピードはあまり変わってないような気がする。ミントは迷いもなく僕の顔面へと拳を放つ。僕は顔の前で両手を使って×印を作り、ミントの拳を受け止める。
ミントの拳が僕の腕に当たった瞬間、僕は物凄い衝撃を受けながら後ろに飛んだ。
今までの力とは思えないほど強くなっていた。
地面に落ちて、何度か転がったあと手を地面にあてブレーキをかける。
ミントは僕が殴られた場所にニタニタ不気味に笑いながら立って、こっちを見ていた。
「奏太様…あの」
急にカンナがどこか心配をしているような声で、話しかけてきた。
「なんだよ」
僕はミントから目を離さないようにしながら、カンナにこの状況で話しかけてることにすこし苛立ちさを持ちながら聞き返した。
「奏太様…あの、その……やっぱり大丈夫です」
今の状況を考えた結果なのか、カンナは黙った。
僕はミントに向かって走り出した。
なぜかは分からないが、確かにミントの力は強くなっている。普通の蹴りでダメージが1000だから、約三倍のダメージになりそうな拳だった。
ならば、できるだけ手数を出してミントに攻撃させないようにし、紗綾が少しずつダメージを与えるのを待つ。
「武器【蒼の短剣】」
奏太
【残容量:6200MB】-(【蒼の短剣:800MB】+【オーバーヒートライフ:500MB(1分)】)=【残容量:4900MB】
奏太
【残り体力:6500/10000】
ミントも同じように向かって走ってくる。
【致死の短剣】と【蒼の短剣】があることを、手を握って確認をする。
僕はまず、右手に持っている【致死の短剣】でミントの首の部分を横に切る。ミントは地面に両手をつけて避けると、手だけの力で体を地面から離し、僕の顔面に蹴りを入れようとするが、首を横に動かし紙一重で避ける。
空中に浮いたミントの腕を掴むと、地面に叩き落とした。
ミントは地面にぶつかると一回バウンドする。
僕は腕から手を離して、両手を高く上げてミントの頭めがけて【致死の短剣】と【蒼の短剣】をクロスさせて斬ろうとするが、ミントは体を捻り斬撃を避ける。
ミントは地面に着地をすると「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」と念仏のように唱えながら今までとは比べられないほどの素早さで僕のみぞおちに拳を放つ。
痛みを感じる設定にはなっていないが、直感的に死ぬかもしれないと思った。
奏太【残り体力:6000/10000】
僕の体が一気に後ろへと飛ばされる。と思ったがミントはすぐに胸ぐらを掴み、僕を地面に叩きつける。
「殺す殺す殺す殺す…」
両手を重ねて天高く上げ、僕の頭に叩きつける。
「殺す殺す殺す殺す…」
その勢いで僕の頭は地面から跳ね上がる。そのままミントは体を回転させて勢いをつけた蹴りを僕の顔面に横から当てる。
「殺す殺す殺す殺す…」
飛ばないようにミントはまた僕の腕を掴もうとするが、紗綾がミントの手を【ブラッドガン】の残りの弾で撃つ。ミントの手の軌道を反らしたあと、ミントに掴まらなかった僕はそのまま塀一枚を壊し二枚目の塀に当たり、地面に倒れこむ。
奏太
【残体力:1500/10000】
僕はふらつく足を叩いて、立ち上がる。近くにある壁に手を添えながら走っていく。
何故なんだ。なぜ僕はこんなにふらついている。最初の戦いの時、和也は腹に深々と刺さったはずなのにすこしの間動けなくなったあといつものように行動してたはずなのに。
何故僕は―――
急に視界が暗くなる。
飛んできた紗綾だった。
僕は地面に倒れるが、紗綾の下には入れたようだ。
「ちくしょう」
そう紗綾が言った。今にも泣きそうな声で。
紗綾の体力は残りわずかしかなかった。
紗綾
【残り体力:800/10000】
いつからだっけ、僕がなにもせずに他人の体力が見えるようになったのは。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」
そう何度も言いながらミントはニタニタ笑いながら近づいてくる。いや、もしかしたらもうミントではなく化物かもしれない。
僕はすぐさま紗綾を抱えてミントを背に走り出した。
単純に怖かった。
力の差があまりにも大きい。
紗綾も力の差が分かり、負けるかもしれないと悟ってしまったのだろう。涙が溢れ、大声で泣いている。
親友である釛を失って僕はずっと悔やんでいた。あのときもっともっと釛のことを考えて行動をしていたら、助けられたかもしれない、と。
今だってせっかく釛を助けられると思っていたのに、逃げだしている。物凄く悔しい。
きっと紗綾も同じなんだろう。栞奈という親友を殺され、せっかく助けられるのに、できないんだから。
僕は壁らしきものにぶつかり、思わず尻餅をついてしまう。
「…透明の壁?」
僕がそう言った瞬間、自分でなんなのかを理解した。
そう、ここがエリア指定の範囲の端だ。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…」
後ろから死神のような暗くて寒気が襲う声が聞こえた。
後ろを振り向くと、死神でもなく、ミントでもなく、ミントの形をした化物がいた。
「離せ」
僕の胸を押しながら紗綾が僕の手から離れる。
紗綾が立ち上がり、ミントの形をした化物と相対する。
「無理だ…」
ミントの形をした化物を倒すことは無理だと思う。僕のスキルのなかで一番強力なパッシブである【オーバーヒートライフ】でもミントの形をした化物の早さに追いつけなかった。
パッシブもスキルもない職業のアルケミストではかなうはずがない。
「やってみなきゃ分からねぇよ。武器【勇者の剣】」
紗綾が不意にこちらを振り向く。
「知ってるか?勇者の剣ってのは元々呪いがかかってるんだ。しかもその呪いは広がっていく。選ばれた人が勇者の剣を手に取れば、運命に呪いがかかっちまう。その仲間たちにも呪いがかかる。死と隣り合わせの戦いをしなければいけないからな。でもなぜ呪いの剣を手に取ると思う?」
紗綾がミントの方を向く。手には光輝く金色のシンプルな装飾をした銀色の剣を持っていた。あまりにも美しかった。その光は淡く紗綾の顔を照らしていた。
紗綾
【残容量:9600MB】-【勇者の剣:全部】=【残容量:0MB】
紗綾
【残り体力:1/10000】
「助けたい人がいるからだ」
僕が手を伸ばして紗綾の腕を掴もうとするが、手が届かなかった。
【勇者の剣】―――
全てを捨てて守りたい人のために最後まで戦う剣。
紗綾はすごいな。さっきまで目の前で泣いてたのに、もう遠くにいる。
ポッケからは紗綾の名前を何度も言っているカンナの声が聞こえる。泣いている。
僕って泣かせてばっかりじゃないか。
皆を助けたい一心でここまできたのにもうだめだ。
せっかく釛に会えたのにな。
あぁ、いっそのこと潔く死んでやろうか。
もう無理なんだから。
―――危険察知、オートモードに変換します。




