泣き声聞こえてんぞ
すぐさま手に持っていた【蒼の短剣】をミントに向かって振る。
「お兄ちゃんは卑怯なことしないね」
ミントは僕の肩に片足で乗っていた。もう一方の足で僕の頭をサッカーボールのように蹴り飛ばす。
一瞬頭と胴体が離れたような気がした。
「でも、弱くてつまんない」
いつの間にか僕の前に立っていて、左足を軸にして右足で僕の頭を横から蹴りを入れようとしてくる。
僕は頭を下げて、四つん這いの状態でミントの蹴りを避ける。
「武器【鉄火鳳凰銃】避けてみろよ」
紗綾が僕の後ろから何丁もの銃をミントに向ける。
「死刑【鉄の処女】」
紗綾の周りを鉄でできた針がついた人形で囲まれる。キィという音と共に鉄が閉まっていく。
僕はすぐさま紗綾の手を引き、【鉄の処女】から紗綾を助け出す。
「もう、邪魔しないでよ!」
ミントは僕たちに背を向けながらぴょんぴょん飛んでいる。無防備である背を向けているのは余裕の現れだろう。
「ぷー、つまんないつまんない!」
なにも返答しない釛に駄々をこねているようだ。
「おい、残り体力を確認しろ」
横から静かな声で紗綾がそう言ってきた。
奏太
【残体力:9000/10000】
戦いが始まって食らったダメージと言えば、ミントの蹴りぐらいのはずだ。なのになぜこんなに減っている?普通の蹴りだったら高くて百ぐらいなのに。
「エンチャンター…」
「あ、そういやお前いたんだったな」
ポッケからカンナの声が聞こえる。
「ひどいですね」
「それより、エチャター?ってなんだ?」
「エンチャンターですよ、奏太様。エンチャンターは別名強化術士とも呼ばれ、パッシブ特化ジョブのことです」
つまり、今ここには全ての三大ジョブが揃ったというわけか。
僕だけなにも持ってないような気がする。凄く悲しい、仲間はずれにされているような気分だ。
「説明ありがとよ。説明キャラ」
「違いますよ!そんなキャラじゃありません!私は……どんなポジションなんでしょうか?」
「知るか」
僕はこの事を紗綾に伝えようとするが「聞こえてた」と言われた。
「お話終わったね。二ラウンド目二ラウンド目!」
ミントはさっきと同じくこっちに向かって走ってきた。
僕は先手を取るために、一歩踏み出して【蒼の短剣】をミントの頭に向けて突き刺す。
ミントは首を捻り、避けたあとそのまま体全体を回転させて蹴りを入れてくる。
避けるためにさっきと同じように首を下げて、蹴りを避ける。
ミントは空中で回転を止めず、もう一回蹴りを入れようとしてくる。
その前に僕は【蒼の短剣】をミントに向けて投げた。
「卑怯な攻撃は嫌いって言ったよね」
すでにミントの姿はなく、ミントは僕のふところに入っていた。
そのままミントは僕の腹に一発の拳を放つ。
メキメキという音と共に「ガハッ」と言いながら吐血をして、一気に後ろの塀にぶつかった。【蒼の短剣】が壊れてしまった。
そこに紗綾が近距離武器である大剣をミントに向かって降り下ろすのだが、ミントは片手で抑え紗綾の腹に蹴りを放つ。
身体中が痛い。よく分からないが肺の骨が折れてるような気がする。
おかしい。痛みは絶対にないはずなのに。いや、前に釛と戦ったときには痛みがあった。いったい何故だ?
そこでまたもや世界が歪みだし、頭に痛みが走る。
「少しの間痛みが伝わるように細工をした。とても痛いだろう。と、ここで私と取引をしないか?」
いきなり、先生の声が聞こえてきた。
「お前らはすでに私の僕と圧倒的な戦力の差がある。戦って分かったはずだ。そこで取引の内容は単純明快、カンナを殺してほしい」
「お前…何言ってるんだ…」
僕は顔を歪ませながら途切れ途切れ言った。
「そいつは異電子なのだ。私が作り、研究してきた電子とはまるで違う。構造も性能も何もかもが分からない、それゆえそいつと関係の深い奴は記憶を所持していたり、理解ができない能力も使う。そいつは私の実験には不用であり、迷惑な存在でしかない。もしも殺してくれたら、君達を生かしてここから出させてやろう。記憶は無くすがな」
「妹はどうなる」
「妹?あぁそうか君の妹も参加していたのか。もちろん生き返らせてやろう」
妹の笑顔を思い出す。
「君達の記憶は消してやる。つまり、いつも通りの平凡な日常に戻れるんだぞ?」
僕は不本意だが、このゲームに感謝している。前と少し変われたような気がしているからだ。
和也と出会って他人と接することの楽しさを思い出した。
紗綾と出会って今までの苦しくて辛い思いが緩んで、人の暖かさに触れた。
妹、花梨と出会って自分を頼ってくれている存在に気付いて、ここまで強くなれた。
そして、全ての始まりとも言うべきカンナとの出会い。どんなときも一緒にいてくれて楽しかったし嬉しかった。
この出会いが無くなるなんて絶対に嫌だ。
「嫌に決まってんだろ。僕が命を懸けてでもカンナを守り通す!」
先生は一回舌打ちをしたあと「好きにやれ」とだけ言った。
「ひぐっ…うっ…うう…」
「泣き声聞こえてんぞ」
「ち、違います。うっ…。なんでですか?私なんてほっといてしまえばいいじゃないですか」
「お前のためなんかじゃない、僕のためだ。僕はこのゲームのことを忘れたくない。忘れてしまったら、前と同じような日々を暮らすだけだからな。それに、僕はお前との出会いを絶対に忘れたくない」
泣き声が盛大に大きくなった。
「てめぇに質問がある。お前の言っているカンナの本名を教えろ」
紗綾がゆっくり立ち上がりながら言った。
「本名?確か…伊織栞奈と言ったか」
「あっははは!本当かよ!ぶははは…」
急に紗綾が大声で笑う。
「お前の話を聞いてると、オペレーターの言うこともあり得るかもなと思ってたら、本当だったのかよ。あたしもこの男と同じ意見だ。今度こそお前から栞奈を守ってやるよ」
先生はため息をして、通信を切った。
「三ラウンド目の開始開始!」
ミントが地面を蹴り飛ばし、向かってくる。
「パッシブ【オーバーヒートライフ】」
奏太
【残容量:9200MB】-【オーバーヒートライフ:500MB/分】=【残容量:8700MB】
さっきまで、まるで消えているように見えていたミントの動きが分かる。
ミントは僕の顔に向かって拳を放つ。僕はそれに合わせて、僕も拳を放つ。
腕の長さが僕の方があったため、僕の拳がミントの顔に向かってあたる。
ミントは勢いよく吹っ飛ぶが、すぐに体勢を立て直して、両足両手でブレーキをする。
しかし、その時には僕はミントの目の前でミントの頭をサッカーボールのように蹴りを放つ。
ミントは首を反り、紙一重で避ける。
ミントは両足に力を込めて、僕の顔面へと殴る体勢で跳んでくる。
ミントが目の前から消える。
「フェイントだよ」と後ろから聞こえてくる。すぐに振り替えるがどこにもいない。
「残念前でした」
ミントはいつの間にか前に来ていたのだ。
パンッ
ミントが横に吹っ飛ぶ。
「残念、横も気を付けろよ」
紗綾が銃口から煙が出ている拳銃を持っていた。
紗綾
【残容量:9700MB】-【ブラッドガン:100MB】=【残容量:9600MB】
ミント
【残体力:9500/10000】




