番外編…ヒナミの初恋
猫柄のドレス。こんなのもあるんだ。
辺りを見渡すと、他の令嬢は無地のドレスを着ている。
無地の方が、一目見ると高級なように感じられる。
しかしその小さな令嬢は、髪を2つに結び、猫柄のドレスを着て、まるで借りられた猫のようにきょろきょろおどおどしていた。
随分可愛らしい。
最初は興味本位だった。
「お嬢様。初めまして。リヒター男爵の長男、ヒナミ・リヒターと申します。少し私とお話しませんか?」
話しかけた少女はビクッと震えた後、近くにいたお姉様らしき人の後ろへと隠れてしまった。
「あらあら。この子ったら……。申し訳ございません。社交界は今日が初めてでして……」
「そうなんですね。実は私も初めてなので……。どうでしょう?初めて同士、お話しませんか?お嬢様」
ちょこっと顔を見せた少女は、じいっとヒナミを見つめる。
そして――。
「……おじょーさまじゃない。カナン。カナン・フェルナー。ちゃんとなまえでよべ!」
「……っ!」
「こら、カナン!重ね重ね申し訳ございません……。……え?大丈夫ですか?お顔、真っ赤ですよ……?」
「だ、大丈夫です……?」
今までに無いくらい、顔全体が熱い。
心臓はバクバク鳴りっぱなし。
……これは何だ?
ヒナミ・リヒター もうすぐ10歳。
5歳年下のカナン・フェルナーに恋をした春だった。
*
「嘘でしょ……」
趣味悪すぎ。
思わず出かかった言葉をノエルは必死に飲み込んだ。
ヒナミと1つしか違わないキャロルなら「趣味が悪い」とはっきり言うはずなのに、一緒に聞いていたキャロルは何も反応をしない。
……もしかして、聞き飽きた話なのか。
「まあ、20年前だったからな。一目惚れというか、一瞬で恋に落とされたと後から理解した、というのが正しいけど」
「へ、へえー……」
……どこに好きになる要素があったんだ?
全然分からない。考えても考えても分からない。
ノエルは必死に考えるけど、答えが出なかった。
ノエルが黙っていると、ヒナミは続けて熱弁する。
「お前は成長したリリアーナの容姿を見て、綺麗だ、美人だ、好きだと思っただろう。俺は違う。俺はカナン様の性格を見て好きだーって思ったんだよ」
「……どこを?」
「えっ」
「具体的にどこを見て……?」
「どこって……、正直に自分の意見を言うところ」
「……それだけ?」
「言ってくれないと分からないだろ?」
「本当にそれだけ?」
「うん」
「……それだけで……20年?」
「そう」
「……それにしても」
「……何だよ」
「……何でもない」
これ以上ヒナミと話していたら、思わず「趣味悪すぎ」と言ってしまいそうだった。




