6話…早朝からの訪問
「おはよう、ヒナミ。だいぶ夜寝れるようになってきたね?」
「……おはよう、カナン」
まだ眠たい。
カナンと同じ部屋に寝るようになってどのくらい経っただろう。
カナンはヒナミの言葉に満足そうに言う。
「うんうん、まだ慣れてないかもしれないけど、タメ口と呼び捨ても出来てるね。えらいえらい」
カナンの笑顔にヒナミも釣られて微笑んだ。
やっぱりカナンは笑った顔が1番可愛い。
もちろん怒った顔も不機嫌そうな顔も可愛いけど、不機嫌にさせたいわけじゃないし、怒らせたいわけでもない。
最初カナンから、敬語と様付け禁止、じゃないと返事しないからと言われた時はどうなるかと思ったけど、今思えば大正解な気がする。
切羽詰まらないと何も出来ないのは、ヒナミ自身呆れてしまうけど。
ヒナミはベッドから起き上がると、カナンに聞いた。
「仕事も手伝ってくれてありがとう。でも、どこで勉強したの?」
「えっ?男爵の仕事なんて見たら分かるでしょ?」
「……」
カナンも父上と同じで天才タイプだったか……。
しかも他人にもそれが出来て当然だと思う、たちが悪いタイプの……。
ヒナミには到底真似出来そうにないが、世の中には説明されなくても分かる種類の人間がいるらしい。
そうと知れば、カナンがずっと前に言っていた「社交界の時にしか会いにこないくせに」とか「約束を守れず、何が勉強よ」という言葉を言わせてしまうまで、カナンに寂しい思いをさせてしまったことになる。
ヒナミは隣りを歩くカナンの手をぎゅっと握る。
「えっ、ヒナミ……?」
カナンの顔は少し赤くなっていた。可愛い。
「今日はこのまま朝食まで散歩でもする?その、……カナンが嫌じゃなければだけど」
「えっ、えっ、する……、する!」
カナンは笑顔で、握った手を強く握り返してくれた。
家を出ようと扉を開けると、そこにはクラウス家に婿入りしたノエルが扉を叩こうとしていた。
「ノエル?」
「ヒナミ兄さん。えーと……」
「おはよーございまーす!カナン・フェルナーです。婚姻パーティ、呼んでくれてありがとうございましたー!」
ノエルに対して、にこやかな笑顔を見せるカナンが可愛い。
その笑顔を真正面から見れるノエルが少し羨ましくなる。
「そういえば婚約されたんですよね、おめでとうございます。ヒナミ兄さんも、おめでとう」
「ありがとう」
「ありがとうございまーす!ところでどうしてここに?クラウス家は馬車で3日ほどかかるよね?」
「あっ、えっと、ヒナミ兄さんに……、ちょっと、相談、があって」
「俺に?」
「一応手紙を出したんだけど……」
「手紙!?」
ヒナミの言葉に、カナンは慌てて言葉を添える。
「あー……ごめんなさい!ちょっとヒナミが寝れないときがあって、そのときにカナンが見落としちゃったのかも!」
「えっ、大丈夫だったの?!」
「……まあ」
「……何で顔赤くしてるの?」
「何でもない!ノエルは気にしなくていいから!」
「……?大丈夫ならいいや。えっとね、手紙には」
「あの!」
カナンが言葉を遮る。
急にどうしたんだ?
「立ち話もなんだし、仕事部屋に行く?あと、カナンは聞かない方がいい感じかな?」
「あっ、えーと……」
「人払いも出来るよ。なんなら今なら朝食も付けれるんじゃないかな」
ノエルは少し遠慮がちで言う。
「……正直、朝食は欲しい、かな」
「そっか!じゃあ、仕事部屋に朝食2人分持ってくるようにお願いするね」
ヒナミと繋いでいた手を解き、カナンは使用人の所へ向かおうとする。
「……あっ、ちょっと待って」
「何?」
「……ノエル?」
ノエルがなかなか言い出さない。しんと静まる。
ノエルは言いづらそうに、カナンをチラッと見て言葉を紡ぐ。
「……ごめん、カナン嬢。やっぱりカナン嬢も話を聞いてくれないかな?」
「カナンも聞いちゃっていいの?まだ結婚してないし、フェルナー家の人間なんだけど」
「……えっと」
ノエルのはっきりしない態度に、カナンは「分かった」と答えた。
「じゃあ、3人分の朝食を用意したら行くから、2人は先に行っててね!」
そう言ってカナンは先に家の中に入っていった。
ノエルの暗い顔を見て、深刻だと知る。
でもヒナミはそれが何か想像が出来なかった。




