番外編…クラウス家の婚姻パーティー
ヒナミとカナンの婚約が決まる前、クラウス家の敷地にてリヒター家の三男ノエルと、クラウス家の三女リリアーナの婚姻パーティーが行われた。
ノエルが婚姻パーティーの出席者、1人1人に挨拶をしていると、薄いピンクの薔薇柄のドレスを着た令嬢がにこにこしながらやって来た。
「こんにちはー!フェルナー男爵の五女、カナン・フェルナーです。今日は結婚おめでとーございまーす!」
「……、ありがとうございます……」
場にそぐわない声の調子。
間延びした挨拶。
ノエルの身長と比べ、頭1つ分低い。
髪は癖毛なのか、良く言えばふんわりとしている。
その小柄な体格に対して、胸がかなり大きい。
……何を詰め込んだらこんなに大きくなるんだ?
そして、シエルが言ってた、フェルナー男爵令嬢の末っ子という情報……。
ヒナミが好意を寄せている令嬢ってこの人、……だよな?
どうしよう!
俺より出来ない人、初めて見たかもしれない!
ノエルはリリアーナと知り合う前のことを思い出していた。
あの時は、自分が出来ないから相手も出来なければ気まずくならないと思っていた。
だから同じ3番目同士ならそんなに教育の差は無いだろうと思って、リリアーナとお茶をすることにしたけれど。
そうか、五女だったか。5人もいれば教育遅れるのか。
そっかー、五女だったか!
そう思ったが、ヒナミに連れられて挨拶をしたとき、初めてフェルナー男爵に出会った。
では、社交界の時?
いやそもそも、よそ様のお家事情に興味がないから会えない。
――リリアーナがいるのにそう思うことは失礼だな。
ノエルがいろいろ考えていると、カナンが笑顔を絶やさずに聞いてきた。
「ノエルは、どこまでカナンのこと聞いてるのー?」
「えっ、あ、ヒナミ兄さんからは、その、……可愛らしい方だと」
「えー!そうなんだ!」
正確には『猫みたいで可愛い』だったけど、猫が嫌いかもしれない。
それに、ヒナミからダンスを教えてもらったときに聞いた話だと、かなり難しいタイプの令嬢だ。
どこで地雷を踏むか分からない。
そう地雷を探っていくと、聞き覚えのある嬉しそうな声が近づいてきた。
「カナン様、ここにいらしたんですね」
「ヒナミ!あのね、ノエルと話したんだけど、カナンのこと可愛らしいって言ったって本当?」
待て待て待て。ここで聞くか?
こっそり、2人きりのときに聞かないのか?
ノエルは内心焦ってしまう。
カナンに訊ねられたヒナミは、恥ずかしげもなく言いきった。
「そうですよ。カナン様は初めてお会いした頃から可愛らしいです」
「えー……へへへ。そうかー。ふふふー」
「……!」
「……何?」
「……いえ。随分久しぶりにカナン様の笑顔見たなと思いまして。相変わらず可愛らしい」
「ハレの日くらい分かってるよー!」
「……」
カナンは、さっきからずっとにこにこ笑っている。
それなのにヒナミはどうして今更『久しぶりに笑顔を見ましたね』と言うんだ?
よく見ると、カナンの顔は先ほどよりほんのり赤くなっている。
いやそれよりも、ヒナミのこんなデレデレした顔は初めて見た……。
挨拶もくだけすぎだし、受け答えも少しズレてる気がする。
あと柄物のドレス……。
社交界で見る令嬢と、雰囲気がまるで違う。
俺よりひどく出来ない人を、何でこんなにヒナミは溺愛してるんだ?
そう思っていたら、雰囲気がピリッと変わったように感じた。
「……!?」
「ノエル?どうした?」
ヒナミやカナンを見ると、何事も無かったような反応をする。
「えっ、いや……、何でもない」
気のせい?気のせいか……。
でも確かに……。
ノエルは言葉に出来ない違和感を覚えながら、ヒナミとカナンに一言伝えて他の人の元へ挨拶に行った。




