第7話うさぎは料理をする
車を諦めた。
正確には。
足が届かなかった。
◇
「……足届かないの忘れてた」
うさぎ――佐伯優兎は荷車を押しながら呟いた。
夕暮れ。
赤い光が街を染めている。
石造りの建物。
アスファルト。
信号機。
ファンタジーと現代日本が雑に混ざった世界。
何度見ても頭がおかしい。
「えーと……ここからだと」
優兎は案内看板を見る。
地図は日本のショッピングモールみたいだった。
だが周囲は廃墟。
「やっぱ欲張りすぎたなぁ……」
荷車には。
米。
野菜。
干し肉。
その他諸々。
パンパンだった。
「まだ来たことないエリアだな」
案内図を追う。
「お、コンビニある」
うさぎは方向転換した。
「……あっちか」
ギシギシ。
荷車を押しながら進む。
静かだった。
風の音だけ。
誰もいない。
なのに。
電気だけは生きている。
◇
数分後。
「おぉ……」
コンビニに到着した。
ガラス扉。
自動ドアは死んでいた。
優兎は手で押して入る。
「あるかな〜」
てくてく歩く。
「ないかな〜」
変なリズムで歌っていた。
棚を見る。
「……お?」
数秒後。
「あるやん」
カレールー発見。
「勝ったな」
棚には。
シチュー。
ハヤシライス。
カレー。
日本のスーパーみたいだった。
「これは棚ぼたってやつだな」
根こそぎ回収する。
さらに。
缶詰。
冷凍食品。
茶葉。
最後に。
タバコのカートン。
完全に略奪だった。
「これでしばらく出歩かなくて済みそうだな」
荷車へ積み込む。
その時。
「あ、そうだ」
優兎は店へ戻った。
レジへ飛び乗る。
「先立つものは必要だよな」
そして。
「ふん!」
バキャッ!!
レジが吹き飛んだ。
うさぎ強盗である。
「おぉ……」
硬貨が散らばる。
優兎は集め始めた。
「ん?」
一枚拾う。
見慣れない硬貨だった。
「……どれがどんな価値なんだ?」
数字も読めない。
文字化けしている。
「後で調べるか」
リュックのポケットへ突っ込む。
そして荷車へ戻った。
「……」
押す。
「……重」
さっきより重かった。
当然だった。
「やっぱ欲張りすぎたな……」
ズルズル進む。
「俺こんな筋力無かったよな……?」
荷車を引きながら考える。
「いや待て」
「筋力はあるんだよな」
大木爆散させてるし。
「……体が軽すぎるのか?」
うさぎサイズだからだった。
◇
その頃には。
日はほとんど落ちていた。
街灯がぽつぽつ光っている。
人のいない夜の街。
不気味だった。
「はぁ〜……疲れた」
学園へ戻った頃には優兎はヘトヘトだった。
食材を調理場へ運ぶ。
冷蔵庫へ詰め込む。
往復。
往復。
そして。
「終わったぁ……」
ぐったり。
テーブルへ腰掛ける。
茶葉を適当に使って淹れた紅茶を飲む。
ずずず。
「んー?」
一口。
「……なんか花っぽい風味だな」
もう一口。
「……味薄いな」
さらに。
「蜂蜜みたいな匂いする」
最後に。
「……後味甘ったる」
妙な紅茶だった。
「……異世界だなぁ」
今さらだった。
少し休憩。
そして。
「さて……作るか!」
うさぎが立ち上がる。
◇
米を取り出す。
軽量カップ。
金属ボウル。
「おぉ、普通に日本の米っぽいな」
水を入れる。
シャカシャカ。
「ん?」
優兎は止まる。
米のパッケージを見る。
「……これ無洗米か」
便利だった。
炊飯器らしき物へ米を入れる。
中を見る。
「目盛りあるじゃん」
完全に炊飯器だった。
水を追加。
蓋を閉じる。
「スイッチオン!」
ぽち。
「……」
無音。
「ん?」
「動いてるかこれ?」
その瞬間だった。
ダラララララララララ!!
「は?」
突然ドラムロールが鳴り響く。
炊飯器の蓋が勢いよく開いた。
パァァァン!!
ファンファーレ。
紙吹雪。
「え!?!?」
どこから!?
さらに。
ゴォォォォォ!!
異常な量の湯気。
真っ白。
「な、何これ!?」
視界ゼロ。
「わけわかんねぇ!!」
数秒後。
湯気が晴れる。
そこにあったのは。
光り輝く白米だった。
「……」
真顔。
「……光る食べ物初めて見た」
優兎はスプーンで少し取る。
恐る恐る口へ運ぶ。
「……」
もぐ。
数秒。
「……うまぁ」
目を見開く。
噛む度。
プチプチ弾ける。
麦みたいな香り。
少し甘い。
「……米っていうかパンだこれ」
でも美味い。
「これカレー合いそうだな」
うさぎは満足げに頷いた。
◇
じゃがいもとにんじんを切る。
玉ねぎを炒める。
干し肉をちぎって鍋へ。
じゅう、と音が鳴る。
香りが広がる。
「……腹減った」
水を加える。
煮込む。
そして最後に。
カレールー投入。
ゆっくり溶けていく。
茶色い香り。
完全に日本のカレーだった。
「出来た」
皿へ盛る。
白く輝く米。
その上にカレー。
「異世界カレーだな」
どう見ても日本のカレーだった。
優兎は席へ座る。
スプーンを持つ。
「いただきまーす」
一口。
もぐもぐ。
「……」
「……あ、ちゃんとカレーだ」
安心した。
だが。
米の風味だけ妙にパン。
「……カレーパンじゃん」
―――続く




