第63話うさぎとキラキラ王国
乙女ゲーム王国。
外縁都市。
白亜の巨大な城壁が空を覆うようにそびえ立っていた。
磨き上げられた白い石材。 金の装飾。 花の紋章。
まるで舞台装置だ。
門前には騎士達が整列している。
鎧は傷ひとつなく、 髪型すら乱れていない。
姿勢。 視線。 呼吸。
全てが完璧だった。
うさぎ「うわ……なんか息苦しい国だな」
マシロ「乙女ゲーム王国だからねぇ」
マオ「むしろこれが正常なのよ……この国では」
白黒のスポーツカー型パトカーが門前で止まる。
直後。
兵士「止まれ!」
槍が向けられた。
うさぎ「あ」
兵士「その車はどこで手に入れた!?」
うさぎ「やべ」
普通に職質された。
兵士達の目が完全に不審者を見る目だった。
マオ「……普通に忘れてたわね」
マシロ「そりゃ目立つでしょそれ」
兵士「降りろ!」
うさぎ「はい……」
その時だった。
ゴォォォォォ……
空に巨大な影が差す。
兵士達「!?」
上空。
白い巨大飛空艇。
船体には巨大なうさぎの紋章。
そして、 無駄に神々しい後光。
うさぎ「来たよ……」
マオ「最悪のタイミングね」
飛空艇・偉大なるうさぎ様号。
音もなく着陸する。
シュウウウ……
蒸気が噴き出し、 白い花弁まで舞い始めた。
兵士「聖女様だと!?」
兵士達が一斉に跪く。
ハッチが開き、 そこから現れたのは――
ロチュス「うさぎ様ー!」
聖女とは思えぬフォームで全力疾走してくるロチュスだった。
速い。
とにかく速い。
側近「聖女様ぁぁぁ!お足元が!」
側近2「転ばれます!」
ロチュス「問題ありません!」
うさぎ「元気だなぁおい」
その姿を見て、 うさぎはふと思った。
……なんか既視感あるな。
全力で駆け寄ってくる感じ。
褒められると喜ぶ感じ。
懐き方。
昔飼っていた犬――
佐伯権左衛門。
うさぎ「……ごんざえもんに似てんな」
ロチュス「!?」
ロチュスの目がキラキラし始めた。
ロチュス「つまり私はうさぎ様の家族……!?」
うさぎ「違う違う」
兵士達がざわつく。
兵士A「なんだこの尊い空気は……」
兵士B「応援したくなる……!」
うさぎ「怖ぇよこの国!」
気付けば、 どこからともなく花弁が舞っていた。
風向きは完全に無視している。
しかも背景が妙に発光している。
マシロ「始まったわね」
マオ「……だから嫌なのよここ」
ロチュスはうさぎをぎゅっと抱きしめる。
ロチュス「この方は怪しい者ではありません!」
兵士達「はっ!」
一瞬で拘束解除。
うさぎ「おぉ……」
マシロ「なんか姫みたいになってない?」
うさぎ「全然違うだろ……ん?」
その時。
うさぎはロチュスを二度見した。
一瞬だけ。
髪色が違って見えた。
白銀のような髪が、 淡い桃色に変わった気がしたのだ。
うさぎ「……見間違えか?」
ロチュス「どうかなさいましたか?」
うさぎ「いや……なんでもねぇ」
だが。
ロチュスの周囲には、 明らかに異常なキラキラ空間が形成されていた。
瞳もいつも以上に輝いている。
うさぎ「ってか眩しいな!」
比喩ではなかった。
本当に眩しい。
まるで懐中電灯だった。
マシロ「やっぱこの国ヤバいわ……」
マオ「その場の空気そのものを書き換えてる……」
マオは何故か、 少し不機嫌そうにうさぎを見ていた。
うさぎ「?」
門がゆっくりと開く。
ゴゴゴゴゴ……
その先に広がっていたのは、 絵本のような都市だった。
花。
噴水。
白い建物。
優雅に歩く人々。
そして。
妙に顔の良い人間しか居ない。
うさぎ「圧がすげぇ……」
マシロ「乙女ゲームだからね」
入ってすぐ。
うさぎは見つけてしまった。
いや、 見つかってしまう。
大通りの一角。
異様なほど白い建物。
うさぎを象った旗。
『うさぎ様饅頭・大人気発売中!』
『うさぎ様抱き枕・新作入荷!』
『祝・聖女様ご婚約記念セール!』
うさぎ「最後なんだよ」
真顔になるうさぎ。
隣を見る。
いつの間にか、 ロチュスは側近達に引かせた人力車へ乗っていた。
ロチュス「現在進行形で順調に勢力を拡大しております!」
側近達「流石です聖女様!」
うさぎ「怖ぇよ!」
脳が理解を拒否した。
うさぎ「……もういい、宿行こう宿」
ロチュス「うさぎ様!本日も是非教会へ――」
うさぎ「あーわりい!普通の宿泊まってみたい!」
そのまま車を発進。
置いていかれる聖女。
ロチュス「あっ……」
側近「聖女様ぁぁ!」
◇
宿屋。
木造の落ち着いた建物だった。
店主「1泊3000ヤンスね」
うさぎ「……」
沈黙。
うさぎ「ちょっと考えるわ」
一旦外へ出る。
うさぎ(小声)「そういやこの世界の通貨って何?」
マシロ(小声)「なんで知らないのよ」
うさぎ「今まで使わなかったし……」
マオ「廃墟のコンビニ強盗してたもんね」
うさぎ「言い方!」
うさぎはリュックを漁る。
ジャラジャラ。
大量の金貨銀貨。
形も大きさもバラバラ。
マシロ「多すぎるわよ……」
マオはその中から、 四角い銀貨を数枚抜き取った。
マオ「多分これで足りるはずよ」
うさぎ「おぉ!あんがとな!」
素直な笑顔。
マオ「べ、別に大した事じゃないわよ!」
何故か赤くなるマオ。
その瞬間。
キラァァ……
背景が発光した。
花弁が舞う。
兵士A「なんだこの青春感……!」
兵士B「眩しい……!」
マオ「だからこれやめなさいって言ってんのよ!」
マシロはニヤニヤしながら、 飛び回るキラキラを手で払っていた。
マオ「何してんのよマシロ」
マシロ「なんでもないわよ〜?」
うさぎとマオは気付いていない。
この国そのものが、 二人を“恋愛イベント”扱いしている事に。
―――続く




