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『バグったうさぎを修正できません』 ――ブラック企業の天使がヤケクソで転生させた結果――  作者: 島ながぁ
第2章白き聖女

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第57話うさぎと海の家

 白の街を出発して数日。


 うさぎ達は海沿いの街道を進んでいた。


 白と黒のスポーツカー型警備車両。  その隣を、ピンク色の近未来バイクが音も無く滑るように走っていく。


 潮風が吹く。


 鼻先が少ししょっぱい。


 森の緑も、どこか湿り気を帯びていた。


 うさぎは窓から顔を出す。


「おお……海だ!」


 遠く。  青い水平線が見えた。


 キラキラと陽光を反射している。


 マシロは助手席で伸びをする。


「海ねぇー」


 マオの通信が入った。


『昨日の夜は聖女に変なことしてないでしょうね?』


 妙に刺々しい声だった。


 うさぎは眉をひそめる。


「子供相手になんもしねぇよ……何言ってんだおめぇは?」


『……押しに弱そうだと思ったけど…まあいいわ』


 それだけ言って通信が切れる。


 助手席のマシロがニヤニヤしていた。


「へぇ〜」


「なにその顔」


「別にぃ〜?」


 絶対面白がってる顔だった。


 うさぎは無視した。


 そのまま街道を進んでいく。


 海が近づくにつれて、空気が変わっていく。


 白い石畳は消え。  


普通の土の道になっていた。


 風に混じる潮の匂い。


 波の音。


 そして――。


「……ん?」


 うさぎは前方を見た。


 綺麗な砂浜。


 透き通る海。


 魚の姿が見えるほど澄んでいる。


 だが。


 人が居ない。


 静かすぎた。


 波の音だけが聞こえる。


 その浜辺にぽつんと建っている建物。


 木造。


 派手な旗。


『やきそば』


『かき氷』


『冷やしきゅうり』


海の家だった。


 うさぎは真顔になった。


「ファンタジー要素死んだんだが?」


車を停め降りるうさぎ。


「休憩ー!」


 いつの間にか水着姿になっていたマシロが、ふわふわ飛びながら海へ向かっていく。


「冷たぁーい!」


 バシャバシャはしゃいでいた。


 マオもバイクを停め、ヘルメットを外す。


 赤い髪が風に流れた。


「……綺麗な海ね」


 スパ施設の影響なのか。


 肌ツヤが妙に良い。


 なんか輝いていた。


「やっぱり美人だなぁ」


「は!?」


一気に赤くなったマオ


 うさぎは目を細める。


「港町までもう少しなんだけど……まぁいいか」


 二人は海の家へ入った。


 中は妙に懐かしい空気だった。


 冷蔵ケース。  


扇風機。  


木製カウンター。


 昭和だった。


 マオは店内の水着コーナーを眺めている。


「……結構可愛いのあるじゃない」


 完全に遊ぶ気だった。


 うさぎは別方向で感動していた。


「焼きそば……」


 鉄板の香り。


 ソースの匂い。


 鼻が死ぬほど刺激される。


 その時。


「いらっしゃい!」


 奥から男が出てきた。


 白髪混じりのオールバック。


 サングラス。


 アロハシャツ。


 どう見ても日本人だった。


 マオが一瞬で距離を取る。


「転生者!?」


「ま、待て待て!」


 男は両手を上げた。


「たしかに俺は転生者だけど――」


 うさぎは真剣な顔で近づいた。


「なぁ親父」


「う、うん?」


「焼きそばって紅しょうがついてる?」


 沈黙。


 マオが真顔になる。


「それ今聞くこと?」


 うさぎは真剣だった。


「焼きそばには紅しょうがだろ」


 店主はニヤリと笑う。


「自家製紅しょうが付きだぜ!」


 グッと親指を立てる店主。


 爽やかだった。


 うさぎは感動した。


「あんた神か……」


「そこまで!?」



 数分後。


 うさぎは焼きそばを貪っていた。


「うんまぁ……!」


 涙が出そうだった。


 ソース。  麺。  紅しょうが。


 完璧。


 懐かしさで脳が殴られる。


「紅しょうがうめぇ」


 マオはかき氷を食べながら店主を見ていた。


「……転生者が何故ここに?」


 店主は肩をすくめる。


「転生者の肩書きは捨てたんだ」


「なんか怪しいと思って逃げちまった」


 マオは端末を操作する。


「反応がないわね……」


「女神から貰った力を捨てたのは本当みたい」


 店主は苦笑した。


「俺が貰ったの、キモくてダサい首飾りだったしな」


 うさぎが顔を上げる。


「キモいってどんな?」


「……たまになんかピクピク動く」


 うさぎは即答した。


「そりゃ捨てるわ」


「だろ?」


 マオが真面目な顔になる。


「どこに捨てたか覚えてる?」


 店主は海の向こうを見た。


「海の向こうの国だ」


「ぶっ壊そうとも思ったんだが出来なかった」


 うさぎは少し考える。


 ロチュスのティアラ。


 あの黒い粘液。


 蠢く宝石。


 嫌な予感しかしない。


 店主が続ける。


「まぁ俺は逃げたよ」


「女神だの世界改変だの、関わるだけ損だ」


 うさぎは焼きそばを頬張る。


「正しい」


「だろ?」


 その時。


 うさぎはふと気になった。


「そういや、なんで海こんな綺麗なのに誰も居ねぇんだ?」


 マオも頷く。


「確かに」


 店主は外を見る。


「最近、海で魔物が出るって話でな」


「客が激減した」


「俺も何度か追っ払ったんだが、数が多くてなぁ」


 その瞬間。


「なああああああああ!?」


 外からマシロの悲鳴。


 うさぎとマオが同時に立ち上がる。


「あ」


 店主が頭を抱えた。


「また来やがったか……」


 三人は海の家から飛び出した。


 浜辺。


 波打ち際。


 そこには――。


「ちょっ!? なにこれキモぉおおおお!?」


 水着姿のマシロが逃げ回っていた。


 その後ろ。


 海から這い出てきた大量の魔物。


 ぬめぬめした魚人。


 蟹。  蛸。  クラゲ。


 全部ちょっとキモい。


 うさぎは真顔になった。


「海の魔物ってもっとこう……カッコイイの想像してたんだが」


 クラゲ型魔物が叫ぶ。


「ぬほほほほほほ!」


「鳴き声もキモ!」


 マオは既に武器を展開していた。


「数多いわね……!」


 アロハシャツの店主は剣を出し構える。


「悪いが手伝ってくれ!」


 マシロが泣きそうな顔で飛んでくる。


「うさぎぃ! アレぬるぬるするぅ!」


「知らん!」


 波が大きく揺れた。


 海の奥。


 何か巨大な影が動く。


 店主の顔色が変わる。


「……おい」


「なんか来たぞ」


 海面が盛り上がる。


 巨大な何かが近づいてくる。


 うさぎは目を細めた。


「……今度はなんだよ」


 ザバァァァァァン!!


 海が割れた。


 ――続く。

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