第56話うさぎと友達
教会施設で一夜を過ごした翌朝。
うさぎは軽い寝不足だった。
原因は分かっている。
昨夜。
ずっと抱きつかれていた。
しかも。
ロチュスは寝言まで酷かった。
「ウヘヘ……一夜を共に過ごした……」
「これはもう……結婚しか……ウヘヘヘヘ……」
うさぎ「……」
見なかったことにした。
あれは見ちゃいけない顔だった。
◇
教会施設の食堂。
真っ白な長テーブル。
窓から差し込む朝日。
やたら神々しい空間だった。
席についているのは、 教会職員数名と側近達。
そしてうさぎだけ。
うさぎ「……あれ?」
うさぎは周囲を見回す。
うさぎ「マシロとマオは?」
ロチュス「お二人は仮設のスパ施設に」
うさぎ「スパ施設あるんかい」
ロチュスは誇らしげだった。
ロチュス「現在急ピッチで拡張中です!」
うさぎ「どこに力入れてんだこの教団……」
その時。
料理が運ばれてくる。
白いスープ。 白いパン。 白いサラダ。
相変わらず色味が終わっている。
だが。
うさぎの前に料理が置かれない。
うさぎ「……え?」
ロチュスがスッと隣に座った。
距離が近い。
近すぎる。
ロチュス「うさぎ様、こちらをどうぞ」
手には野菜スティック。
うさぎ「餌付けかよ……」
少し呆れながら受け取る。
一口齧った。
シャクッ。
うさぎ「……うんまぁ」
生野菜なのに、 苦味も青臭さも無い。
妙に美味い。
ロチュス「でしょう!」
嬉しそうだった。
その瞬間。
周囲の教会職員達が感動し始めた。
「聖女様が幸せそうだ……!」
「なんと尊い光景……!」
「うさぎ様万歳!」
うさぎ「なんで万歳始まってんだよ」
側近達は涙ぐんでいた。
もはや宗教だわ。
……宗教だったわ。
うさぎ「……ロチュスってさ」
ロチュス「はい!」
返事が早い。
ロチュス「なんでしょうかうさぎ様!」
うさぎ「友達とか居るのか?」
――ピタッ。
空気が止まった。
誰かがスプーンを落とす。
カラン。
妙に響いた。
うさぎ「……」
やっちまった。
うさぎは察した。
でももう遅い。
ロチュスは少し俯いた。
ロチュス「……前は居たのですが」
うさぎ「……そっか」
ロチュス「皆……離れていってしまいました」
静かな声だった。
うさぎは少し考え。
そして普通に言った。
うさぎ「なら俺とは友達だよな?」
再び。
空気が止まる。
ロチュス「……友達」
ロチュスは呆然としていた。
まるで知らない言葉を聞いたみたいに。
ロチュス「友達……」
側近達は狼狽えていた。
「せ、聖女様が混乱されている!」
「医者を!」
「いやもう居る!」
うるさい。
ロチュスは俯いたまま、 何かをブツブツ呟いていた。
ロチュス「友達……ということは……」
「その先も……」
「つまり……恋人宣言……」
うさぎ「どう飛躍した!?」
ガタンッ!!
ロチュスが勢いよく立ち上がる。
ロチュス「うさぎ様!!」
うさぎ「は、はい!?」
ロチュス「私はいつでも大丈夫です!!」
うさぎ「何が!?」
ロチュス「今からでも!!」
うさぎ「だから何がだよ!?」
変なスイッチが入った。
完全に。
ロチュス「うさぎ様ぁ……ウヘヘヘ……」
抱きついてくるロチュス。
うさぎ「近い近い近い!!」
その瞬間。
教会職員と側近達が一斉に立ち上がった。
「尊い!!」
「うさぎ様ばんざぁあああい!!」
「幸せそうな聖女様を見れて悔いはありませぬ!!」
泣いてるやつまでいる。
うさぎ「なんなんだこの空間……」
困惑するうさぎ。
その時。
食堂の扉が開いた。
マシロとマオだった。
マシロは髪をふわふわにしている。
マオは妙に機嫌が良さそうだった。
たぶんスパ帰りだ。
だが。
二人は食堂の光景を見て固まった。
抱きつく聖女。
歓声を上げる側近達。
万歳する教団員。
中央で死んだ目をしているうさぎ。
マシロ、マオ「……なにこれ」
うさぎ「俺にもわからん」
ロチュス「うふふふふ……」
うさぎ「聖女が壊れたぁ!!」
ロチュス「式の日取りは春頃が良いでしょうか……」
側近達「うおおおおおおおおお!!」
教会職員達「ついにこの日が……!」
うさぎ「まだ何も決まってねぇからな!?」
白い食堂のあちこちで、何故か泣き崩れる教団員達。
「聖女様が……幸せに……」
「私は今日まで生きていて良かった……!」
「うさぎ様ばんざぁああああい!!」
朝からうるせぇ。
うさぎは真顔で野菜スープを啜った。
ロチュスは隣で幸せそうに身体を揺らしている。
ロチュス「子供は三人くらい欲しいですね……」
ブフッ。
マオが飲んでいた紅茶を吹きかけた。
マオ「さ、三人!?……って違う!そうじゃない!!」
顔が真っ赤だった。
マシロはニヤニヤしている。
うさぎ「お前なんで反応してんだよ」
マオ「う、うるさいわね!」
ロチュス「妖精さんにもお願いしなければ……」
マシロ「え?私?」
うさぎ「ん?」
ロチュス「良い子にしていれば、妖精さんが赤ちゃんを運んできてくれるのでしょう?」
沈黙。
……。
…………。
マシロ「……は?」
マオ「え?」
うさぎ「……これは…うん」
ロチュスはキョトンとしていた。
純粋な目だった。
その瞬間。
教会職員達と側近達が一斉に顔を逸らした。
うさぎ「お前ら教えてなかったのかよ!?」
「聖女様は清らかなお方ですので……」
「説明の機会が……」
「その……なんとなく……」
ロチュス「?」
うわぁ。
完全に箱入りだ。
マシロは頭を抱えた。
マシロ「いやいやいやいや……待って?どこから説明すればいいのこれ?」
マオ「わ、私に振らないでよ!?」
うさぎ「俺に振るなよ!?無理だからな!?倫理的に!」
ロチュス「?」
首を傾げる聖女。
年齢相応というか。
なんというか。
うさぎ「ガキンチョかよ……」
ロチュス「ガキンチョではありません!」
頬を膨らませるロチュス。
でも知らない。
完全に子供である。
結局。
女性職員数名も巻き込み、マシロとマオによる緊急性教育講座が始まった。
◇
数十分後。
ロチュス「…………」
聖女は固まっていた。
真っ白だった顔が、今は耳まで真っ赤である。
ロチュス「つ、つまり……」
ロチュスは震える指で、
自分。
うさぎ。
を交互に指差した。
ロチュス「わ、私とうさぎ様で……」
マシロ「そう」
マオ「そういうこと……」
ロチュス「…………」
沈黙。
ロチュス「今からしましょう!!」
うさぎ「なんでそうなるんだよぉ!?」
ガタンッ!!
勢いよく立ち上がる聖女。
鼻息が荒い。
目が完全に本気だった。
ロチュス「私は大丈夫です!覚悟はできています!」
うさぎ「何の覚悟だよ!?」
ロチュス「うさぎ様との愛の結晶を――」
マオ「ダメよ!!まだ早いわよ!!」
うさぎ「なんでお前が止める側なんだよ!?」
マオ「そ、それは……!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶマオ。
マシロは腹を抱えて笑っていた。
マシロ「アハハハハ!マオめっちゃ必死じゃ――」
ドゴォッ!!
マオの拳がマシロの顔面にめり込んだ。
マシロ「ぶにゅあ!?」
椅子ごと吹き飛ぶ妖精。
教会職員達「おお……」
側近達「なんという威力……」
マオ「なにわろてんねん!!」
マシロ「いっだぁああああ!?」
ロチュス「暴力はいけませんよ!」
うさぎ「いやお前が原因だろ大体!!」
カオスだった。
白い食堂に、
悲鳴と歓声とツッコミが響き渡る。
―――続く




