第55話うさぎは動けなかった
翌朝。
白の宗教国家を出発したうさぎ達は、 白黒のスポーツカーを走らせていた。
白い石畳。
白い街路樹。
白い外壁。
どこまでも白い道。
うさぎは運転席でぼんやり前を見ていた。
ラジオ『本日のおすすめ商品は〜』
うさぎ「うるせぇな相変わらず……」
ラジオ『うさぎ様抱き枕ァ!』
うさぎ「増えてんじゃねぇか商品」
助手席ではマシロが饅頭を食っていた。
マシロ「この饅頭普通に美味しいの腹立つわね」
うさぎ「お前もう完全に懐柔されてんだろ」
その横。
マオのピンク色の近未来バイクが無音で並走している。
浮いている。
やっぱり浮いている。
うさぎ「何回見てもファンタジー世界の乗り物じゃねぇな……」
マオ「だから私物だって言ってるでしょ」
猫耳ヘルメット越しでも呆れ顔が分かった。
その時だった。
道の両脇に広がる花畑。
そこから声がした。
「うひゃひゃひゃひゃ……」
「ヒャッハアアアアアア!!」
うさぎ「……」
顔みたいな模様の花が笑っていた。
風に揺れている。
めちゃくちゃ気持ち悪い。
うさぎ「……」
見なかったことにした。
マオ「今絶対変なのいたわよね?」
うさぎ「居ない」
マシロ「いたわね」
うさぎ「居ない」
ラジオ『お花畑ですねぇ〜』
うさぎ「黙れ」
そのまま数時間。
ようやく次の街が見えてきた。
石造りの外壁。 白い門。
だが。
門の前に。
見覚えしかない人影が立っていた。
うさぎ「……は?」
ロチュス「うさぎ様ー!!」
両手を振る白い聖女。
うさぎ「なぜ居る?」
ロチュス「お待ちしておりました!」
うさぎ「だからなんで先回りできんだよ!」
ロチュスは胸を張る。
ロチュス「愛の力です!」
うさぎ「怖ぇよ!」
門をくぐる。
街の一角。
そこには既に白の教団施設が建設されていた。
しかも。
デカデカと看板。
【うさぎ様公式認定グッズ販売中】
うさぎ「公式認定した覚えねぇぞ!?」
マシロ「あ、新作」
マシロは慣れた手つきで商品棚を見る。
うさぎ様饅頭。 うさぎ様ぬいぐるみ。 うさぎ様ストラップ。
増えていた。
うさぎ「なんで分かるんだよ新作」
マシロ「色味」
うさぎ「色味で判断してんの!?」
その横で。
マオが周囲を見回していた。
マオ「……スパ施設は…無いか」
明らかに落ち込んでいる。
ロチュス「いずれ全国展開予定です!」
マオ「……!」
猫耳ヘルメット越しでも目が輝いたのが分かった。
うさぎ「天使が買収されてやがる……」
ロチュス「本日は是非こちらへお泊まりください!」
うさぎ「いや別に宿――」
ロチュス「うさぎ様専用のお部屋をご用意しました!…ウヘヘ…」
やべぇ顔してるぞ。
嫌な予感がした。
めちゃくちゃ嫌な予感がした。
◇
夕方。
教会施設内部。
真っ白な廊下を歩くうさぎ。
後ろからロチュスがぴったり付いてくる。
近い。
距離感が近い。
ロチュス「こちらになります……ウヘヘ……」
うさぎ「聖女がしていい顔じゃねぇぞ……」
側近達は何故か感動していた。
「聖女様が幸せそうだ……!」
「なんと尊い……!」
うさぎ「お前らそれでいいのか」
扉が開く。
うさぎ「……」
部屋いっぱいに。
うさぎグッズ。
壁一面の巨大絵画。
うさぎクッション。
うさぎぬいぐるみ。
うさぎキャンドル。
うさぎ型ティーカップ。
もはや狂気だった。
うさぎ「……誰の部屋だこれ」
ロチュス「私の部屋です!」
うさぎ「だろうな!!」
ロチュスは満面の笑みだった。
ロチュス「今日は…一緒に……ウヘヘ……」
一瞬で背後を取られた
うさぎ「速え!」
そのまま。
捕まった。
◇
深夜。
静かな部屋。
窓から月明かりが差し込んでいる。
うさぎはベッドの上で固まっていた。
理由。
ロチュスが抱き枕みたいに抱きついているからだ。
うさぎ「……苦しくて寝れねぇ」
ロチュス「……」
寝息。
だが。
うさぎは気づいた。
ロチュスの肩が少し震えている。
頬には涙の跡。
うさぎ「……」
抜け出そうと思えばできる。
簡単に。
でも。
ロチュスはずっと独りだったんだろうな。
聖女として。
教祖として。
誰にも弱音を吐けず。
ティアラに壊されながら。
薬に頼りながら。
ずっと。
うさぎ「……」
うさぎ「……しょうがねぇガキンチョだな」
うさぎは小さくため息を吐いた。
そのまま動かず。
静かに天井を見上げた。
窓の外。
白い月が、 やけに綺麗だった。
――続く




