第52話うさぎと武装した天使
街の中心部は、巨大化したうさぎによって一時的に“占拠”されていた。
朝日が差し込む瓦礫の街の上で、巨大うさぎはただ一人立ち尽くしている。
その表情は、どこか戸惑いと不安を含んでいた。
うさぎ「俺……戻れるのか?」
恐る恐る、足元を覗き込む。
ロチュスは?
側近達は?
踏み潰した感触は、ない。
だが――それが逆に不安だった。
巨大化しすぎた視界では、細かいものがほとんど認識できない。
白く崩れた瓦礫は、さらに視界を曖昧にしていく。
うさぎは、目を凝らす。
その足の間。
そこに見えたのは――赤。
「血だ……」
一瞬、血の気が引く。
だが次の瞬間、その中に人影があるのに気づいた。
うさぎ「……ロチュス」
血まみれではあるが、どうやら生きている。
さらにその周囲にも、側近達の姿。
うさぎ「……良かった」
安堵の息が漏れる。
その瞬間。
視界の前に、再び液晶画面が浮かび上がった。
うさぎ「……今度はなんだよ」
――――――――――――――
・準備が完了しました
・代謝強化解除
・体積増大化解除
・肉体強化解除
・次回以降、防衛機構全行程への事前要請を求む
――――――――――――――
うさぎ「は?どういう意味だ?」
うさぎは眉をひそめる。
「さっきから、意思疎通できてるような、できてないような……」
うさぎ「次回以降、事前要請って……」
うさぎ「さっきの俺の声、聞いてたのか?」
「後から言われると面倒だから先に言えってことか?」
しかし、返答はない。
液晶は、すっと消えた。
うさぎ「……一方的すぎて会話にならねぇ」
その直後だった。
身体がふっと軽くなる。
「……?」
視界が揺れる。
次の瞬間――
元の大きさに戻っていた。
だが。
「え……?」
目線が変わらない。
いや、正確には――
浮いている。
うさぎ「ちょ、ちょっと待て」
足元を見る。
そこには、はるか下の瓦礫の地面。
うさぎ「え?」
地面が、遠い。
うさぎ「待て待て待てぇぇぇぇぇ!!」
じたばたと手足を振るが、当然意味はない。
重力だけが、静かに彼を引きずり落としていく。
「なああああああああああああああ!」
風が耳元を切り裂く。
地面が近づく。
うさぎ「死ぬ……!」
ギュッと目を閉じる。
――風が、止まった。
「なにやってんのよ、バカうさぎ」
聞き慣れた声。
落下の感覚が、ふっと消える。
代わりに、誰かに抱きかかえられる感覚。
うさぎはゆっくりと目を開けた。
そこにいたのは――スーツ姿の女性。
赤い髪、鋭い目つき。
そして背中には、淡く光るピンクの天使の翼。
目の下には、うっすらと隈。
うさぎ「……マオ?」
マオは、明らかに過剰な装備を身にまとったまま、うさぎを抱えていた。
マオ「連絡くらいしなさいよ!」
マオ「こっちがどれだけ心配……いや、なんでもない!」
うさぎは、そのままマオの腕の中にすっぽり収まっている。
うさぎ「マオか!」
マオ「……何したら空から落ちるのよ」
うさぎ「いや、突然巨大化して、突然戻って……」
マオ「意味がわからないわね」
うさぎ「俺にもわからん」
視線を下に向けると、地上には既に人だかりができていた。
うさぎを見上げる視線。
マオ「ま、無事ならいいわ」
うさぎ「……ずっと探してたのか?」
マオ「それは……まぁ、急に消えたら心配するでしょ」
マオ「仕事だからよ。仕事!」
マオ「姫様からも頼まれてるし」
うさぎ「……ありがとう」
マオ「仕事のついでよ」
マオ「あんたみたいな危険物、放置できないだけ」
マオ「監視は続けるわ。何かあればすぐに助け……即処分も含めて」
うさぎ「……そっか」
その言葉を聞きながら、うさぎはふと気づく。
(柔らかい……というか、距離近すぎないか?)
(いい匂いするんだけど…これ絶対言ったら死ぬやつだ)
うさぎの肩がわずかに震える。
マオ「……ちょっと言いすぎたわかしら」
マオ「なんか、可愛いじゃない」
小声でそう漏らす。
うさぎ「?」
そのまま二人は、ゆっくりと地上へ降下していく。
そして、その姿を見上げる者がいた。
ロチュスだ。
血まみれのまま、それでも目だけはうさぎを追っていた。
ロチュス「うさぎさん……」
ロチュス「やはり……あなたは……」
うさぎ「ロチュス……生きてた……!」
うさぎ「良かった……誰も踏んでない……!」
ロチュス「……神、なのですね」
うさぎ「へ?」
その瞬間、ロチュスの瞳に、妙な熱が宿る。
うさぎ「なんか嫌な予感がするんだけど」
マオ「……ねぇ」
マオがため息混じりに言う。
マオ「いつまで抱きついてるの?」
マオ「っていうかマシロのバカはどこ?」
空気が、一瞬だけ変わる。
――続く。




