第51話うさぎは神になった
「神様?」
ゴゴゴゴゴ―――ッ!!
夜明け前の宗教国家。
巨大教会の塔に、 無数の亀裂が走る。
白い外壁が砕け、 崩れ、 まるで花が開くように爆散した。
街の人々が空を見上げる。
「な、なんだ……!?」
「塔が……!」
「崩れてる!?」
白煙。
粉塵。
その中心から、 何かが現れた。
最初に見えたのは―――
白。
巨大な白。
モコモコした、 山のような何か。
次の瞬間。
うさぎ「うおおおおおおおおおおおおおおお!?」
絶叫。
巨大なうさぎだった。
街の建物よりデカい。
塔を押し割るように現れた、 真っ白な毛並みの巨体。
うさぎ「やっべぇぇぇぇぇぇ!!」
「踏む!!踏んじまう!!」
巨大化したうさぎは、 必死に身体を縮こませていた。
しかし。
縮こまってなお巨大。
少し動くだけで、 周囲の建物がミシミシ鳴る。
うさぎ「動けねぇぇぇ!!」
「うわ!壁!!壁ある!!」
巨体が少し擦れただけで、 教会の外壁が崩落する。
信者達は呆然としていた。
「し、白い……」
「美しい……」
「神の使い……?」
「いや……神……?」
うさぎ「ちげぇよぉぉぉ!!」
涙目で叫ぶ。
だが小さな人間達には、 もはや鳴き声にしか聞こえない。
◇
瓦礫の下。
崩れた地下治療室。
そこに、 ロチュス達は居た。
ティアラは砕け散っている。
黒い触手は、 塵のように崩れて消えていた。
「聖女様!」
「お怪我を!」
「治癒術を急げ!」
職員達がロチュスを支える。
ロチュスの額からは、 まだ血が流れていた。
だが。
先程までの狂気は消えている。
瞳は、 いつもの優しい色へ戻っていた。
ロチュス「……皆さん……」
「怪我を……」
「我々より聖女様の方が重傷です!」
「喋らないでください!」
ロチュスは、 ぼんやりと空を見上げる。
崩れた天井の向こう。
朝焼け。
そして。
巨大な白いうさぎ。
うさぎ「やばいやばいやばい!!」
「今くしゃみしたら終わる!!」
「誰か助けろぉぉぉ!!」
縮こまったまま、 涙目で硬直している。
ロチュス「……」
反響し浮かんでくる声。
『急に置いてけぼりは不安だろ』
『別に悪いとは思わねぇよ……色々大変だろうしな』
『ズレてんなぁ……相変わらず』
『今助けてやんよ!……ガキンチョ!』
胸の奥が熱くなる。
ずっと。
ずっと怖かった。
選ばれたと言われた。
導けと言われた。
完璧でいろと言われた。
誰にも弱さを見せられなかった。
でも。
あの白いうさぎだけは。
化け物を見る目をしなかった。
壊れた自分を見ても。
薬漬けの自分を見ても。
逃げなかった。
ロチュスの瞳から、 涙が零れる。
朝日が、 巨大うさぎの白い毛並みを照らしていた。
まるで光っているようだった。
ロチュス「……神様……?」
うさぎ「違ぇよぉぉぉぉぉ!!」
泣きそうな声が響く。
その瞬間。
うさぎの目の前に、 小さな液晶画面が現れた。
――――――――――――――
・解析を完了しました
・成分の分解、無毒化に成功しました
・周囲の安全を確認
・防衛機構を終了します
・神性エネルギーを追加で獲得しました
消去しますか?
――――――――――――――
うさぎ「……」
巨大な前足で、 小さな画面をつつこうとする。
うさぎ「いや……それより……」
「これ戻れんの?」
画面。
沈黙。
数秒後。
――――――――――――――
・検討中……
――――――――――――――
うさぎ「検討すんなぁぁぁぁぁ!!」
街中に絶叫が響き渡った。
その光景を見た人々は。
さらに確信する。
「ああ……」
「神は我々を見捨てていなかった……」
うさぎ「だから違うってぇぇぇぇ!!」
ロチュスは、 瓦礫の中で少しだけ笑った。
――続く。




