第50話うさぎと救済
「ここなら多少は暴れられるな!」
地下治療室。
白い床。
白い壁。
白い灯り。
その中心で―――
ロチュスのティアラが、不気味に脈打っていた。
赤黒い光。
まるで生き物の鼓動のように。
ロチュスの額に食い込み、 血が頬を伝う。
聖女?「もっと……もっと皆を幸福に……」
触手が蠢く。
黒い。 禍々しい。
うさぎ「今助けてやんよ!……ガキンチョ!」
床を蹴る。
一直線。
ティアラ目掛け飛び掛かった瞬間―――
ヒュゴッ!!
横から黒い触手が叩きつけられた。
うさぎ「ぐっ!?」
壁へ吹き飛ばされる。
石壁に叩きつけられ、 床を滑った。
うさぎ「ってぇ……」
空中で体勢を立て直し、 着地。
そのままロチュスを睨む。
ティアラから、 複数の触手が伸びていた。
うさぎ「ますますゲテモノアイテムじゃねえか……」
ロチュスの呼吸は荒い。
顔色も悪い。
服も破けている。
先程より明らかに血の気が引いていた。
時折、 膝が崩れそうになっている。
それでもティアラだけが、 元気そうに脈打っていた。
気味が悪い。
その時。
「聖女様!」
地下室の扉が勢いよく開いた。
教会職員達だ。
いつもロチュスの後ろにいた、 側近達。
うさぎ「……増えたか」
面倒そうに呟く。
だが―――
次の瞬間。
バギィ!!
触手が職員の一人を殴り飛ばした。
うさぎ「は?」
吹き飛ばされた職員は、 壁に叩きつけられる。
しかし。
「聖女様!気を確かに!」
「聖女様を守れ!」
「ティアラを外せ!」
うさぎ「……あ?」
突き飛ばされた職員も、 ふらつきながら立ち上がった。
そのままロチュスへ飛びつく。
押さえ込む。
止めようとしている。
ロチュス「や、やめ……」
触手が暴れる。
魔法が乱射される。
氷の矢。
白い閃光。
床が砕ける。
壁が凍る。
それでも職員達は離れない。
「今お助けいたします!」
「聖女様!」
「必ず!」
うさぎ「……やっぱ悪いやつじゃねぇんだな」
小さく呟く。
やり方は狂ってる。
ズレてる。
でも。
この連中は、 本気でロチュスを慕っている。
ロチュスも、 本気でこの国を守ろうとしていた。
だから厄介だった。
うさぎ「しゃーねぇ!」
うさぎも飛び込む。
触手を掻い潜り、 ロチュスへ接近。
しかし。
バギィ!!
触手が床ごと薙ぎ払う。
うさぎ「ぬおっ!?」
吹き飛ばされる。
職員達も転がった。
ロチュス「ぁ……あ……」
涙を流しながら、 ロチュスが苦しそうに喘ぐ。
うさぎ「クソッ……!」
近づけない。
なら。
うさぎ「直接いく!」
再び跳躍。
ロチュスの頭へ飛びついた。
そのまま―――
ガブッ!!
ティアラへ噛み付く。
ロチュス「きゃぁぁぁぁ!!」
うさぎ「ぶっ壊してやらぁ!!」
バキバキッ!!
宝石にヒビが入った。
その瞬間。
ズブリ。
うさぎ「……?」
何かが刺さった感触。
全身に、 ドロドロしたものが流れ込んでくる。
うさぎ「っ……!?」
吐き気。
目眩。
頭痛。
視界が歪む。
うさぎ「なんだ……これ……毒!?」
職員達も次々倒れ始める。
「ぐっ……」
「頭が……」
「これは……」
うさぎ「やっべぇ……」
嫌な感覚。
思い出す。
王都。
血。
赤い視界。
暴走。
姫。
噛み付いた感触。
うさぎ「また……」
その瞬間。
目の前に、 光る液晶画面が現れた。
うさぎ「……あ?」
文字が流れていく。
―――――――――――――――
・体内に異物を検知しました
・外部からの毒物と推測
・防衛機構を起動します
・毒物の解析を開始―――
・解析完了後毒物の構成分解を行います
・毒性物質への遅効対策として代謝強化、体積増大化、肉体強化を行います
・シークエンス開始
・
・
・
・準備完了
・反撃を開始します
―――――――――――――――
うさぎ「……は?」
画面が消える。
ドクン。
鼓動。
ドクン。
全身の毛が逆立つ。
ドクン。
骨が軋む。
うさぎ「な、なんだこれ……」
身体の内側から、 何かが膨らむ。
違う。
膨らんでいるのは―――
うさぎ「お、俺ぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ロチュス「……美しい……」
ロチュスは、 もう限界だった。
意識が途切れかけている。
その時。
地下から、 轟音が響いた。
ゴゴゴゴゴゴ―――ッ!!!!
巨大な塔に、 ヒビが走る。
避けるように崩れ始める教会。
街の人々が空を見上げた。
「な、なんだ!?」
「塔が……!」
「崩れる!」
そして。
白い巨体が現れる。
山のように巨大な―――
うさぎだった。
――続く。




