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『バグったうさぎを修正できません』 ――ブラック企業の天使がヤケクソで転生させた結果――  作者: 島ながぁ
第2章白き聖女

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第47話うさぎとお薬

 夜。


 教会内の小部屋。


 窓の外では雨が降り始めていた。


 静かな部屋。

 白い壁。

 白いカーテン。

 白い机。


 その中心で、ロチュスは小瓶を手にしていた。


 白濁した液体。


 それを喉へ流し込む。


 うさぎ「……」


 ロチュス「……夜更かしはいけませんよ?」


 振り返ったロチュスは、少し困ったように笑った。


 だがその笑顔は、昼間の完璧な聖女のものより、少しだけ人間らしかった。


 うさぎ「悪かったな……」


 ロチュス「……見られてしまいましたね」


 肩をすくめる。


 ロチュス「薬漬けの聖女だなんて……お恥ずかしい限りです」


 うさぎ「別に悪いとは思わねぇよ……色々大変だろうしな」


 ロチュス「本当は飲みたくはないのですが……」


 うさぎ「……だろうな」


 ロチュス「最近……量が増えてしまって」


 少しだけ視線が揺れる。


 その目の奥には、疲労が滲んでいた。


 ロチュス「……皆さんには秘密にしておいて頂けませんか?」


 人差し指を口元へ添える。


 うさぎ「なんでそこまでするんだ?」


 ロチュス「全てはこの国の為です」


 迷いのない返答。


 うさぎ「さっき飲んだ薬もか?」


 ロチュス「……」


 聖女は目を伏せた。


 ロチュス「……皆さんの……幸福を守る為に……必要な事です……」


 うさぎ「守るって……誰から……」


 沈黙。


 遠くで雷のような低い音が鳴った。


 ロチュス「……時々……私が私でなくなってしまうと感じるのです」


 その声は小さかった。


 ロチュスは、自分の両腕を抱くようにしていた。


 震えている。


 うさぎ「飲んだ薬の効果ってどんなもんなんだ?」


 ロチュス「主に精神的な抑制と安定……記憶の保護でしょうか」


 うさぎ「記憶?」


 マシロがティアラを見ていたのを思い出す。


 ……何かある。


 うさぎ「……そのティアラと関係してんのか?」


 ロチュス「!」


 ロチュスは驚いたように目を見開いた。


 ロチュス「なぜその事を……」


 うさぎ「いや、なんとなく――」


 ヒュッ。


 うさぎ「!」


 顔の横を氷の矢が掠めた。


 壁に突き刺さる。


 白い壁が凍りつく。


 うさぎ「……逸らした?」


 ロチュスは、自分の右腕を左手で必死に押さえ込んでいた。


 ロチュス「ごめんなさい……!」


 ティアラの宝石が淡く発光している。


 脈打つように。


 ロチュス「……また……私……!」


 ぐらり。


 ロチュスの身体が揺れる。


 うさぎ「お、おい」


 ロチュス「うぁ……あ……」


 ティアラが額へ食い込んでいた。


 髪の隙間から血が滲む。


 ロチュスは震える手で薬瓶を掴み、さらに飲もうとする。


 だが。


 ミシミシッ。


 動きが止まる。


 小瓶が床へ落ち、白い液体が広がった。


 ロチュス「……」


 だらん。


 腕が垂れ下がる。


 そのまま、糸で吊られた人形のように直立した。


 うさぎ「ロチュス……さん?」


 呼吸音が消えた。


 周囲の音が遠くなる。


 ティアラの宝石が、さらに強く脈動する。


 ロチュス「……うさぎ……さん……逃げ……て……」


 瞳から、一筋の涙が流れた。


 ボキリ。


 うさぎ「っ……!」


 首が。


 嫌な音を立てながら傾く。


 小刻みに痙攣する身体。


 そして。


 ピタリ。


 止まった。


 静寂。


 ロチュスはゆっくりとうさぎを見た。


 その目を見た瞬間。


 うさぎは理解した。


 ――違う。


 これはさっきまでの聖女じゃない。


 血走った瞳。

 裂けるような笑み。

 口元から流れる血。


 ティアラは生き物のように蠢いていた。


 宝石の中心に、紋章が浮かぶ。


 見覚えがあった。


 転生者の手に浮かんでいたものと、よく似ている。


 聖女?「ふ、ふふ……あははははははははッ!!」


 身の毛のよだつ笑い声。


 白い聖衣が血で赤く染まっていく。


 聖女?「うさぎさん?」


 声は同じ。


 なのに別人だった。


 うさぎ「……誰だお前」


 身体を低くする。


 耳が立つ。


 聖女?「ワタシ?」


 ぐにゃりと首を傾ける。


 聖女?「ワタシは聖女ですよ?」


 ティアラが脈打つ。


 聖女?「女神様から力を授かった……選ばれし存在」


 うさぎ「女神……!」


 嫌な汗が流れる。


 聖女?「選ばれし存在による統治……」


「選ばれなかった人々は導かれなければいけません……」


「苦痛を無くし……身体を強く……」


「今より健康に……今より健全に……」


 声がどんどん大きくなる。


「もっと平和に……もっと……!」


「もっともっともっともっとぉおおおお!!」


 部屋中の空気が震えた。


 窓ガラスにヒビが入る。


 聖女?「アナタも白くなりましょう?」


 聖女?「フフフフフ……」


 ティアラの宝石が、鼓動のように点滅する。


 うさぎ「……ズレてんなぁ、相変わらず」


 その瞬間。


 ゴォン――――


 巨大な鐘の音が響いた。


 教会全体が揺れる。


 耳が痛くなるほどの轟音。


 そして。


 廊下の奥から。


 何か大勢の足音が聞こえ始めていた。


 ――続く

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