第43話うさぎと白い地下室
夜の街を切り裂くように、白と黒のスポーツカーが爆走していた。
赤色灯がぐるぐると回転し、サイレンがけたたましく鳴り響く。
静まり返っていた宗教国家の夜が、一台の狂った車によって台無しにされていた。
石畳をタイヤが噛み、火花を散らす。
うさぎは助手席側のドアにしがみつきながら叫んだ。
「近所迷惑だろこれぇ!」
ラジオ『音楽』
直後、スピーカーから陽気なメロディが流れ始める。
ラジオ「♪僕はスライム〜」
「だからなんやねん!」
車は速度を落とさない。
狭い路地を無理やり突き抜け、勢いそのまま石階段へ突入した。
ガガガガガガッ!!
「うわああああああ!」
うさぎの頭が上下に跳ねる。
ウルシもシートに押し付けられながら涙目になっていた。
「お、おおおおおお……!」
車は階段を“降りる”のではなく“駆け上がる”勢いで飛び跳ねながら進んでいく。
サスペンションが悲鳴を上げていた。
いや、もしかしたらもう悲鳴を通り越して悟りを開いているのかもしれない。
やがて車は街をほぼ半周し――
白い巨大教会、その裏口へと到達した。
「なんで遠回りしてんだよ!」
うさぎは液晶ディスプレイを叩く。
「絶対道間違えただろ!」
ラジオ『……続いてのニュースです』
「誤魔化すんじゃねぇ!」
白黒車は返事の代わりにさらに加速した。
直線。
真正面。
重厚な白い扉。
嫌な予感しかしない。
「ちょ、待っ――まさか!」
ウルシが目を輝かせた。
「突撃ィ!」
ラジオ「突撃インタビュー!」
「違ううううううううう!!」
ドゴォォォン!!
重厚な扉が派手に吹き飛んだ。
白い破片が夜空に舞う。
そのまま車は教会内部へ侵入する。
うさぎは遠い目をした。
「やりやがった……」
神聖な空気も何もあったものではない。
白黒車は教会内部を一直線に突き進み、奥の扉をさらに破壊。
そのまま地下へ続く階段へ突っ込んだ。
ガガガガガガッ!!
「どこまで行くんだよおおおお!」
ラジオ「間もなく目的地周辺です」
「ナビだけ妙にちゃんとしてんじゃねぇ!」
地下通路。
白い壁。
白い床。
白い照明。
病院のような消毒臭。
そして――
最後の扉をぶち破った瞬間。
ラジオ「目的地は右側です。お疲れ様でした」
車が停止した。
シン、と静まり返る地下室。
「……なんだここ?」
うさぎは車を降りる。
そこには白いベッドが何台も並んでいた。
手術台のような設備。
薬品棚。
見慣れない器具。
地下医療施設――そんな印象だった。
そしてその中央。
数人の教会職員に囲まれながら。
マシロがいた。
「マシロ!」
うさぎは駆け寄ろうとして――
途中で止まった。
「……ん?」
違和感。
なんか様子がおかしい。
マシロは白いクッションに埋もれながら、半目で蕩けていた。
「極楽だわぁ……」
「……なにやってんの?」
女性職員たちが手際よくマシロの羽を整え、肩を揉み、足をマッサージしている。
横には湯気の立つカップ。
果物。
お菓子。
完全に高級スパだった。
マシロはうっとりしていた。
「そこ……そこですわぁ……」
目に光が戻ってる。
むしろ普段より生き生きしてる。
「え!?……なんで居るの!?」
マシロは今さら気づいたように飛び起きた。
うさぎは呆れ顔で答える。
「攫われたと思って来たんだが?」
女性職員の一人が深々と頭を下げた。
「大変お疲れのご様子でしたので、聖女様より“しっかり癒すように”とのご指示がありまして……」
「……」
うさぎは黙った。
頭を抱えた。
聖女さん。
善意の方向性がだいぶ怖い。
「先に説明してくれよぉ……」
うさぎは壊れた扉を振り返る。
「ドア壊しちゃったじゃん……」
マシロはすっと再びベッドに横になった。
「続きお願いします」
女性職員「はい、では右足から……」
「戻るなぁ!!」
地下室にうさぎのツッコミが響いた。
―――続く




