第42話うさぎと袋詰め天使
教会内は静まり返っていた。
白い床。
白い柱。
白い光。
誰も大きな声を出さない。
まるで音そのものを禁じられているみたいだった。
聖女「……」
うさぎ「……」
マシロ「……」
ウルシ「……」
ラジオ『……』
ラジオまで黙っていた。
逆に怖い。
聖女は少し目を丸くしている。
どうすんだよこの空気……。
やがて。
コホン。
小さな咳払い。
聖女「……ひ、一先ずお部屋を用意させますので、そちらでお休みになられてください」
うさぎ「ありがとう聖女さん」
聖女は静かに微笑んだ。
聖女「私の名はロチュス・レイン・アステリアと申します」
「ロチュスとお呼びください」
うさぎ「ロチュス……」
微妙に言いづらい名前だな。
うさぎ「俺は見ての通りうさぎだ」
「この子はウルシ」
「こっちはマシロ」
マシロ「……」
マシロは返事をしなかった。
じっと。
ロチュスの頭上を見ている。
銀白色のティアラ。
宝石のような装飾。
うさぎ(……後で聞いてみるか)
そのまま夕食へ案内された。
食堂も白かった。
長テーブル。
白い皿。
白い椅子。
出てきたスープも白い。
うさぎ「……」
恐る恐る飲む。
うさぎ「……薄めた味噌汁?」
見た目は完全に牛乳なのに。
味だけ和風。
脳がバグる。
ウルシ「おいひい」
うさぎ「あ、テーブルマナー教えてなかった」
ウルシは普通に皿へ顔を近付けて飲んでいる。
マシロは料理を見つめたまま動かない。
一口も食べない。
うさぎ「……?」
周囲を見る。
誰も喋っていない。
食器の音だけ。
静かすぎる。
うさぎ(そういう文化か……?)
ロチュスだけは静かにこちらを見ていた。
微笑んでいる。
だが。
どこか観察されている感じがした。
夕食後。
案内された客室はかなり広かった。
だが。
必要最低限。
ベッド。
窓。
それだけ。
壁も床も白い。
うさぎ「病室みてぇだな……」
窓へ腰掛ける。
外を見る。
白い街。
白い月明かり。
静かな夜。
うさぎ「……そういやマオどうしてんだ?」
ずっと連絡がない。
うさぎ「マシロに聞くか」
部屋を出た。
その瞬間。
目の前を教団員の男性が通り過ぎる。
「失礼します」
透明な袋を抱えていた。
袋の中。
マシロ。
マシロ「ふんギギギギギ……」
うさぎ「は?」
袋の中で暴れている。
布切れみたいな服がはだけている。
うさぎ「何やってんだアイツ」
マシロ「助けてえええええええええ……」
そのまま連行されていった。
うさぎ「……」
まぁ。
天使は頑丈だろ。
その時。
別の部屋から悲鳴。
「やっ……やだぁ!」
ウルシの声。
うさぎ「!?」
即座に駆け出す。
部屋前。
白服の女性職員がウルシの手を引いていた。
ウルシは泣いている。
パニック状態だった。
うさぎ「何してんだ」
女性職員は驚いたように振り返る。
「心に傷のある少女なので、急ぎ保護するよう聖女様から指示を受けております」
うさぎ「にしたってやり方があんだろ?」
ウルシと女性の間へ割り込む。
ウルシは即座にうさぎへ抱きついた。
震えている。
うさぎ「聖女さんとは後日話を付ける」
「今日は下がってくれ」
女性職員は少し迷う。
だが。
「……わかりました」
素直に頭を下げた。
悪意は感じない。
むしろ本気で心配しているように見えた。
うさぎ「でもなぁ……」
「無理やりってのは違うよなぁ」
ウルシはうさぎへしがみついたまま離れない。
うさぎ「動きづれぇ」
背負うような形になる。
そのまま教会外へ出た。
夜風。
少し冷たい。
うさぎ「マシロのヤツどこ行ったんだ……?」
完全に見失った。
その瞬間。
ブォンッ。
車のエンジンが勝手に始動した。
うさぎ「……乗れってか?」
ラジオ『かかってこいやぁ!』
うさぎ「何言ってんだおめぇは」
ウルシを助手席へ座らせる。
カチッ。
シートベルト。
うさぎ「お前いつの間に覚えた」
ウルシ「安全だいいち!」
うさぎ「教育番組か?」
運転席へ乗り込む。
うさぎ「……で?どうすんだ?」
ラジオ『目的地を指定してください』
うさぎ「カーナビかよ」
液晶ディスプレイを前足で操作する。
ルート検索。
周辺施設。
わからん。
戻る。
名前検索。
うさぎ「……は?」
ま行。
マシロ。
うさぎ「あるんかい!」
ラジオ『設定してく……これだよこれぇ!』
うさぎ「うるせぇな」
目的地設定。
マシロ。
画面が点滅する。
――ルート検索中。
検索完了。
ラジオ『HERE WE GO!!』
うさぎ「待っ――」
ドガァン!!
車が急発進した。
うさぎ「シートベルトしてねえええええ!!」
白い街に。
猛獣みたいなエンジン音が響き渡った。
―――続く




