第4話うさぎの学園探索
門は開いていた。
巨大な鉄門。
装飾だらけの白い柵。
いかにも“名門学園”という感じの外観。
「……絶対ロクでもない」
優兎は門を見上げながら呟いた。
だが。
ここまで来て入らない選択肢もない。
「情報だけでも欲しいしな……」
ぴょん、と門を潜る。
その瞬間。
「……っ」
空気が変わった。
外とは明らかに違う。
静か過ぎる。
風すら弱い。
学園の敷地内だけ、世界が切り離されているみたいだった。
「なんだよこれ……」
優兎は周囲を見る。
宮殿のような校舎。
真っ白な外壁。
巨大な時計塔。
噴水。
花壇。
そして。
「綺麗過ぎる……」
落ち葉ひとつ落ちていなかった。
外の街は多少なりとも荒れていた。
だがここだけ違う。
道は磨かれたみたいに綺麗。
噴水は今も水を吹き上げている。
花壇の花すら枯れていない。
なのに。
「誰もいない」
人の気配だけが、完全に欠落していた。
優兎はゆっくり校舎へ近づく。
嫌な感じがした。
綺麗なのに不気味。
病院の深夜みたいな静けさ。
自分の足音だけが妙に響く。
ぴょん。
ぴょん。
「……うさぎの足音ってこんなんなんだ」
どうでもいい事を考えて恐怖を誤魔化す。
◇
校舎の扉は開いていた。
「不用心だな……」
中を覗く。
長い廊下。
赤い絨毯。
高い天井。
シャンデリア。
「学校っていうか城だろこれ……」
優兎は中へ入った。
ひんやりしている。
外より空気が冷たい。
廊下には机や花瓶が並び、どれも綺麗だった。
埃すら少ない。
「ほんと何なんだここ……」
教室らしき部屋を覗く。
「……普通だ」
机。
椅子。
黒板。
いや、黒板ではない。
魔法陣みたいな模様が描かれた板だった。
「ファンタジーなのか現代なのか統一しろよ……」
だが。
やはり誰もいない。
机の上には何もない。
鞄も教科書もない。
まるで最初から無人だったみたいに。
優兎はさらに探索を続ける。
職員室。
「……うわ」
そこには大量の机が並んでいた。
だが。
「何もない……?」
紙一枚ない。
ペンすらない。
空っぽ。
作業机だけが整列している。
異様だった。
「見た目ファンタジーなのに、日本の学校みたいだな……」
だが中身がない。
生活感だけが消されている。
「……ここなら何かあると思ったんだけどな」
優兎の耳が少し下がる。
その時。
「……食堂とかあるか?」
学校ならある。
たぶん。
優兎は案内板を見つけ、食堂へ向かった。
◇
「おぉ……」
食堂は広かった。
高級ホテルみたいな内装。
長テーブル。
シャンデリア。
やたら豪華。
「学生飯食う場所じゃないだろこれ」
だが。
ここも綺麗だった。
綺麗過ぎた。
椅子は整列。
床もピカピカ。
誰かが毎日掃除しているみたいに。
「逆に怖ぇよ……」
優兎は厨房へ向かう。
「缶詰だけじゃ限界あるしな」
扉を潜る。
そして。
「……は?」
止まった。
何もない。
本当に何もない。
食材がない。
調味料がない。
冷蔵庫の中も空。
棚も空。
「なんで……?」
なのに。
鍋。
皿。
スプーン。
全部綺麗だった。
ピカピカ。
傷ひとつない。
水垢すらない。
顔が映る。
「……気味悪」
先程の街とは逆だった。
街には生活感が残っていた。
だがここは違う。
“人の痕跡だけ”が消されている。
まるで。
最初から誰もいなかったみたいに。
「マジでなんなんだよここ……」
その時だった。
「……ん?」
壁に何か貼ってある。
ポスター。
優兎は近づく。
『◆◆◆国立高等魔法学園学園祭』
「また読めねぇ……」
文字が一部認識できない。
ノイズみたいに潰れている。
さらに別のポスター。
『第1王子主演演劇―――の―――王国物語』
「本当に何なんだこれ……」
見えている。
なのに読めない。
脳が拒否されているみたいだった。
その時。
ジジッ。
「……?」
音。
優兎の耳が立つ。
ノイズみたいな音だった。
「どこから……」
視線を動かす。
ポスター。
「……は?」
優兎は固まった。
さっきと文字が違う。
『第1王子主演―――』
「……あれ?」
減っている。
内容が変わっている。
じじっ。
ノイズ。
文字が歪む。
優兎は目を離せなかった。
『第1王子―――』
「なんだよこれ……」
じじじ。
別のポスターが変化する。
『◆◆◆国立高等魔法学園音楽祭』
「っ!?」
優兎は飛び退いた。
「変わった!?」
心臓が跳ねる。
いや、うさぎに心臓あるのか知らないけど跳ねた。
ポスターが変わっていく。
演劇。
学園祭。
音楽祭。
内容が書き換わる。
ノイズ混じりに。
まるで。
世界そのものが修正されているみたいに。
「……最早ホラーじゃねぇか」
優兎は腰を抜かしたまま、変化し続けるポスターを見つめていた。
―――続く




