第39話うさぎとうるさい車
白い石畳の上を。
黒と白の車が静かに走っていた。
草原を裂くように伸びる一本道。
風の音だけが周囲を流れていく。
そして―――
ラジオ『本日のおすすめ商品はこちら〜!』
ラジオ『緊急速報です―――えー現在、現在―――』
ラジオ『ホームラン!!(歓声)』
うさぎ「うるせぇなこの車!」
車内に響くツッコミ。
だが。
ハンドルは動いていない。
アクセルも踏んでいない。
なのに車は真っ直ぐ進み続けている。
うさぎ「怖ぇよ普通に……」
助手席ではウルシが窓に張り付いて外を見ていた。
ウルシ「草しかない……」
うさぎ「数日ずっと草原だからな」
後部座席。
マシロは極小タブレットを見ながら顔を青くしていた。
冷や汗まで出ている。
うさぎ「……おい」
マシロ「……」
うさぎ「おい」
マシロ「……」
完全に現実逃避している。
ラジオ『アップデート完了〜!』
ラジオ『皆さんお疲れ様でしたー!』
ラジオ『―――現在地を再計算―――』
うさぎ「お前絶対なんか知ってるだろ」
マシロ「し、知らない知らない」
うさぎ「目逸らすな」
ラジオ『わかりました!』
うさぎ「何が!?」
ラジオ『わかってません!』
うさぎ「どっちやねん!!」
ウルシ「たぶんわかってないんじゃない?」
うさぎ「なるほどわからん」
ラジオ『ホームラン!(歓声)』
うさぎ「会話に参加してくんな!」
車内がちょっとうるさい。
だが。
数日前の重苦しさとは違う空気が少しだけ戻っていた。
うさぎは小さく息を吐く。
うさぎ「……で?」
マシロ「……」
うさぎ「で?」
マシロ「……えっとぉ」
うさぎ「説明しろ」
マシロ「前に車の空間拡張したじゃない?」
うさぎ「したな」
思い出す。
後部座席ぶち抜いてワンルーム化したアレだ。
うさぎ「俺の右フック炸裂したやつ」
マシロ「暴力反対」
うさぎ「続けろ」
マシロ「その時ね……」
マシロは視線を逸らした。
嫌な予感しかしない。
マシロ「空間座標がちょっとズレてたみたいで……」
うさぎ「うん」
マシロ「車内部と外部で情報干渉起こして……」
うさぎ「うん?」
マシロ「なんか自己進化した」
うさぎ「意味がわからん」
マシロ「私にもわからん」
ラジオ『アップデート成功しました!』
うさぎ「お前かぁぁぁぁ!!」
ダンッ。
うさぎがダッシュボード叩く。
ラジオ『安全運転でお願いします』
うさぎ「返しだけ妙に的確なんだよ!」
ウルシがちょっと笑った。
マシロ「とにかく今この車、私の制御受け付けないのよ」
うさぎ「えぇ……」
マシロ「しかも勝手に修復した」
うさぎ「怖っ」
マシロ「自己判断で動いてる」
うさぎ「もっと怖っ」
ラジオ『目的地周辺です』
うさぎ「目的地設定した覚えねぇぞ!?」
その時だった。
ウルシ「街……!」
うさぎ「ん?」
前方。
遥か先。
白い建物群が見えてきた。
巨大な壁。
尖塔。
塔のような建築物。
そして中心には。
教会のような巨大建造物。
うさぎ「おぉ……」
遠くから見えていたものの正体。
街だった。
だが。
近付くにつれ違和感が増していく。
白い。
とにかく白い。
建物。
壁。
塔。
全部。
白で統一されていた。
しかも妙に静かだ。
うさぎ「人……居るよな?」
ウルシ「煙はある」
たしかに。
遠くで煙のようなものが上がっている。
生活感はある。
だが。
妙な静けさがあった。
マシロも真顔になっている。
マシロ「……変ね」
うさぎ「何が?」
マシロ「この辺りこんな街あったっけ……?」
うさぎ「お前把握してないの?」
マシロ「世界広いのよ!?」
ラジオ『まもなく到着です』
うさぎ「お前ほんと何なんだよ……」
車は減速することなく。
白い街へ向かって進み続けていた。
―――続く




