第38話うさぎと車
うさぎ「やっべ寝ちまった」
朝日だった。
眩しさに目を細めながら、うさぎはゆっくり顔を上げる。
携帯コンロの横。
椅子に座ったまま寝落ちしていたらしい。
首が痛い。
背中も痛い。
うさぎ「うぅ……いてぇ……」
草原には朝露。
白い石畳は朝日に照らされて淡く光っていた。
遠くには例の街。
相変わらず遠い。
そして。
うさぎの目の前には。
ボコボコの車。
うさぎ「……まぁそうだよな」
昨日の出来事を思い出す。
空から降ってきた。
車が。
しかもウルシ入りで。
意味不明すぎて途中から考えるのをやめていた。
うさぎは立ち上がる。
その時だった。
ベコッ。
うさぎ「ん?」
妙な音。
うさぎは耳をピクッと動かした。
音の方向を見る。
車だった。
ギギギギ……。
金属が軋む音。
うさぎ「……なんの音だ?」
メキメキッ!!
突然。
曲がっていたタイヤが動いた。
うさぎ「はぁ!?」
ググググ……。
無理やり捻じ曲げるように。
タイヤの向きが戻っていく。
うさぎ「ちょっ……え?」
車体が揺れる。
まるで中で誰かが暴れているようだった。
ベコベコッ!!
バキバキッ!!
車全体が痙攣みたいに動く。
うさぎ「……なんじゃあこりゃあ」
うさぎは呆然と呟く。
次の瞬間。
べコン!!
大きな音。
ボコボコだったドアの凹みが戻った。
さらに。
バキ……バキバキ……。
ひび割れていたフロントガラス。
そのヒビが。
塞がっていく。
うさぎ「いやいやいやいや」
ジジジッ―――。
車体表面へノイズのような光が走る。
塗装が。
まるで塗り直されるように綺麗になっていった。
うさぎ「怖ぇよ!?」
直後。
ザザッ。
車全体へノイズが走る。
そして。
ブォン。
ワイパー作動。
クルクル回る赤色灯。
パッパッと点滅するウインカー。
ライト点灯。
サイレン。
『ウゥゥゥゥゥゥ―――』
うさぎ「朝っぱらからうるせぇ!!」
慌てて耳を塞ぐ。
数秒後。
ピタッ。
全部止まった。
静寂。
風の音だけが戻る。
うさぎ「……」
車。
沈黙。
うさぎ。
沈黙。
数秒後。
ガチャ。
ゆっくりと。
運転席側のドアが勝手に開いた。
うさぎ「……」
怖い。
かなり怖い。
ホラー映画なら絶対近付かないやつだ。
だが。
これ。
自分の車である。
うさぎ「いやでも怖ぇよ……」
大回りしながら近づく。
警戒。
超警戒。
耳も立っている。
うさぎはそっと運転席を覗き込んだ。
誰も居ない。
やっぱり居ない。
でも。
液晶ディスプレイだけが光っていた。
ザザ……。
ノイズ。
その後。
『おはようございます。本日の天気は―――』
ラジオ?
チャンネルが勝手に切り替わる。
『皆さんおはよー!!』
『明けましておめでとうございます!』
『本日のラッキーアイテムは―――』
『打ったぁぁ!! 大きい!! 入ったぁぁぁ!! ホームラァァン!!』
歓声。
実況。
ニュース。
バラバラ。
意味不明。
うさぎ「……」
うさぎは無言だった。
ラジオはさらに続く。
『この度―――アップデート―――しちゃいましたー』
ザザッ。
『安全運転を―――』
『世界の果て―――』
『緊急速報―――』
ブツブツ途切れる。
うさぎ「……」
ラジオ『―――♪』
謎の音楽。
うさぎ「……夢か」
限界だった。
うさぎは真顔でドアを閉めた。
バタン。
数秒沈黙。
うさぎ「いや夢じゃねぇわ」
現実だった。
後ろからテントのチャックが開く音。
ウルシ「……おはよ」
寝ぼけ顔。
ぬいぐるみ抱えてる。
マシロ「んぁ……五分……」
妖精はまだ寝ていた。
うさぎは車を指差す。
うさぎ「なぁ」
ウルシ「?」
うさぎ「俺の車、生きてるかもしれん」
ウルシ「……?」
その瞬間。
ブォン!!
勝手にエンジンがかかった。
うさぎ「うわぁ!!」
ウルシ「きゃっ!?」
マシロ「うるさっ!?」
三人同時に飛び上がった。




