第36話うさぎと降ってきた物
うさぎは空を見上げていた。
眩しい。
雲一つない青空。
その中心。
太陽の近くに、小さな黒い点が見える。
うさぎ「……なんだあれ?」
目を細める。
点はゆっくり―――いや、かなりの速度で大きくなっていた。
風を裂くような音。
うさぎ「……?」
ゴォォォォォォ……。
低い唸り。
うさぎの耳がぴくりと動く。
聞き覚えがあった。
エンジン音。
うさぎ「え?」
黒い点がさらに近づく。
形が見えてきた。
四角い。
タイヤ。
ライト。
白と黒の車体。
赤色灯。
うさぎ「……車?」
さらに近づく。
うさぎの顔が引きつった。
うさぎ「あれって……俺の車じゃね?」
白黒ツートン。
無駄にゴツい前面装甲。
警備車両と呼ぶには凶悪すぎるフェイス。
間違いない。
うさぎの車だった。
しかも。
真っ逆さまに落ちてきている。
うさぎ「はぁ!?」
なんで!?
いや待て。
もっとヤバい。
運転席。
誰も居ない。
助手席。
小さい影。
うさぎ「……ウルシ!?」
車はミサイルのような速度で降ってくる。
うさぎ「やっべぇぇぇぇ!!」
全力で飛び退く。
次の瞬間。
ドゴォォォォォォン!!
地面が爆ぜた。
白い石畳が砕け飛ぶ。
芝生がめくれ上がる。
土煙。
衝撃波。
遅れて暴風。
うさぎ「ごっはぁ!?」
転がる。
耳の中でキーンと音が鳴っていた。
しばらくして。
煙が晴れていく。
そこには。
巨大なクレーター。
半分地面に突き刺さった車。
ボコボコだった。
うさぎ「俺の車がぁ……」
悲しみ。
だが今はそれどころじゃない。
うさぎ「いや違う!」
助手席!
ウルシ!
うさぎは慌ててクレーターへ飛び降りた。
近くで見ると車体はかなり凹んでいる。
だが。
助手席側の窓から覗いたうさぎは目を丸くした。
うさぎ「……え?」
車内。
無傷だった。
シート。
ダッシュボード。
内装。
全部そのまま。
外だけが潰れている。
うさぎ「どうなってんだこれ……」
半ば呆れながらドアを開ける。
ガチャ。
普通に開いた。
中には。
小さな身体を丸めるようにして眠るウルシ。
うさぎ「お、おい!」
慌てて身体を揺する。
すると。
ウルシの目がゆっくり開いた。
数秒。
ぽけーっとした顔。
そして。
うさぎと目が合った。
ウルシ「……いた」
うさぎ「怪我は!?」
ウルシ「居たぁぁぁぁ!!」
飛びつかれた。
うさぎ「ぐぇ!?」
勢いそのまま抱き着かれる。
ウルシは泣いていた。
小さな肩を震わせながら。
うさぎ「え、えぇ……?」
完全に困惑。
とりあえず怪我は無さそうだ。
よかった。
いやよくねぇ。
なんで空から降ってきた?
どうやって?
意味がわからない。
うさぎ「えっと……その……」
ウルシ「うぅ……」
離れない。
うさぎ「……まぁ生きてるならいいか」
諦めた。
その時。
車の奥からフラフラと何かが飛んできた。
マシロだった。
髪ボサボサ。
目が死んでいる。
マシロ「……世話焼かせないでよねぇ……」
うさぎ「お前も来てたのか」
マシロ「また始末書コースだわ……」
うさぎ「だから意味わかんねぇって」
マシロ「特定座標への無断転送ぉ……直接干渉ぉ……規約違反ぉ……」
うさぎ「だから知らねぇって」
マシロはふらふらしながら車を見る。
マシロ「で?」
マシロ「ここどこ?」
うさぎ「しらん」
マシロ「えぇ……」
沈黙。
風の音だけが響く。
ぐぅぅぅぅぅ……
腹の音。
うさぎ「……」
ウルシ「……」
ぐぅぅ……
マシロ「……」
三人同時だった。
うさぎ「……」
マシロ「……」
ウルシ「……お腹すいた」
うさぎ「だよなぁ……」
数秒沈黙。
うさぎは立ち上がった。
うさぎ「とりあえず飯にするか」
マシロ「賛成ぃ……」
ウルシはまだうさぎにしがみついたままだった。
うさぎ「……離れろとは言わんけど動きづらい」
ウルシ「やだ」
即答だった。
うさぎ「はいはい」
クレーター横に座り込む三人。
うさぎは車内を漁る。
奇跡的に荷物は無事だった。
うさぎ「おぉ!食料生きてる!」
マシロ「文明って素晴らしい……」
ウルシ「お菓子ある?」
うさぎ「ある」
ウルシ「やった」
数分後。
携帯コンロ。
レトルト。
干し肉。
缶詰。
異世界感ゼロの食卓が完成した。
うさぎ「……なんかもう慣れてきたなこの状況」
マシロ「異世界でコンビニ飯食ってる時点で終わってるわよ」
ウルシは黙々とスープを飲んでいる。
かなり腹が減っていたらしい。
うさぎ「で?」
うさぎ「なんでお前ら空から降ってきたの?」
マシロ「……それがねぇ」
マシロは頭を掻いた。
マシロ「ウルシが急に『探す』って言い出して」
ウルシ「だって居なくなった」
うさぎ「まぁそうだけど」
マシロ「そしたら車が反応してぇ……」
うさぎ「反応?」
マシロ「なんか勝手に動いた」
うさぎ「は?」
マシロ「私がゲート開いて転移した」
うさぎ「は?」
マシロ「そしたら空の上だったわ」
うさぎ「雑!!」
マシロ「私も意味わかんないわよぉ!」
うさぎは頭を抱えた。
この世界。
毎回説明不足すぎる。
―――続く




