第35話うさぎと果なき道
うさぎが飛ばされてから数日が経過していた。
白い石畳。
どこまでも続く白い道。
風の音だけが時折通り過ぎていく。
それ以外には―――何も無かった。
うさぎ「あぁ〜しんど……」
うさぎは肩を落としながら歩く。
いや、肩は無いかもしれない。
でもそんな気分だった。
歩いても。
歩いても。
景色が変わらない。
草原。
白い石畳。
青空。
それだけ。
遠くに見える教会のような建物だけが、ほんの少しずつ大きくなっている。
だが。
本当に少しずつだった。
うさぎ「……遠すぎる」
耳がぺたんと垂れる。
腹も減っていた。
うさぎ「腹減ったぁ〜……」
食料は全部車の中。
車は消えた。
つまり。
酒も無い。
タバコも無い。
テントも無い。
文明が死んだ。
うさぎ「つら……」
しゃがみ込み、そこら辺の草を前足でむしる。
少し悩んでから口に入れた。
うさぎ「……苦い」
美味しくなかった。
草だった。
うさぎ「前はシチューとか食ってたのになぁ……」
思い出す。
焚き火。
姫。
笑い声。
マシロの食いすぎ。
ロズワール王の酒臭さ。
ウルシの無言。
全部。
急に遠く感じた。
うさぎ「……」
王都はどうなったんだろう。
姫は無事だろうか。
マシロは騒いでるだろうか。
ウルシは不安がってないだろうか。
考えないようにしても。
頭の片隅でずっと回り続けていた。
うさぎ「別の第何とか世界って事は無いよな……」
自分で言っていて嫌になる。
あり得そうなのが困る。
うさぎは再び歩き始めた。
風が吹く。
だが。
草が擦れる音がしない。
うさぎ「……?」
少し気になって立ち止まる。
静かすぎた。
鳥の声も無い。
虫の音も無い。
草原なのに。
風の音しかしない。
うさぎ「なんか怖ぇなここ……」
その時だった。
―――何か聞こえた気がした。
うさぎ「ん?」
耳を細かく動かす。
右。
左。
後ろ。
前。
だが。
何も聞こえない。
気のせいか?
そう思った瞬間。
うさぎ「……上?」
ふと思い立ち空を見上げた。
雲一つ無い青空。
そして太陽。
うさぎ「眩しっ」
目を細める。
その瞬間。
うさぎ「……なんだあれ?」
太陽の近く。
小さな黒い点のようなものが見えた。
気のせいかと思った。
だが。
点は確かに存在していた。
しかも。
少しずつ大きくなっている気がする。
うさぎ「鳥……?」
違う。
もっと。
もっと大きい何か。
うさぎは目を凝らした。
◇
少し前。
王都。
うさぎの車の中。
ウルシは後部座席で膝を抱えていた。
車内は静かだった。
ウルシ「……」
毛布を抱え込んだまま動かない。
その腕の中では。
マシロが握り潰されそうになっていた。
マシロ「……くるし……」
ぎゅうううう。
マシロ「し、締まってる締まってる……!」
ウルシ「……」
反応がない。
無意識だった。
マシロの顔色が悪くなる。
マシロ「ぉご……」
ウルシを見る。
怯えたような目。
不安そうな顔。
どこかで見た記憶。
断片的な映像が脳裏に浮かぶ。
小さい頃の自分。
人混み。
知らない場所。
泣きそうな顔。
「姉ちゃん……」
小さな手。
必死に握っていた弟の手。
マシロ「……迷子かぁ」
懐かしい記憶だった。
マシロ「……あの時は恥ずかしかったなぁ」
少し笑う。
だが直後。
マシロ「……いつの記憶だっけ?」
自分でもわからなくなった。
記憶が曖昧だった。
ウルシ「……?」
マシロ「……しょうがないなぁ」
マシロは小さくため息を吐く。
そしてポケットから極小サイズのタブレットを取り出した。
ぺしぺし操作する。
ウルシはじっと見ていた。
マシロ「探しに行くわよ」
ウルシ「……え?」
次の瞬間。
ブォン―――。
車のエンジンが始動した。
マシロ「え?」
―――続く




