第30話国王と防衛機構
ロズワール「―――王女殿下! 急ぎこちらへ!」
ロズワールは突き当たりの壁へ手を触れた。
ゴゴゴゴ……。
壁が横へ滑る。
うさぎ「隠し扉?」
ロズワール「ここから外へ!」
薄暗い通路。
湿った空気。
緊急用なのか、最低限の灯りしか無い。
―――姫「ありがとうございます、ロズワール陛下」
ロズワール「殿下……申し訳ありません」
ロズワールはその場へ膝をついた。
王が。
頭を下げる。
ロズワール「あのような者を止める事も出来ぬ……」
ロズワール「無力な男をお許しください」
うさぎ「……相談ってその事だったのか?」
ロズワール「左様でございます」
苦しそうな声だった。
傍らでは。
少女が未だ震えている。
姫はその肩を抱き寄せていた。
―――姫「話は後ほどにしましょう」
―――姫「今は脱出を」
マオ『……ヒロインの反応はわかった』
通信越し。
だが。
抑えている怒りが分かる声だった。
うさぎ「……その感じだと死んでたか?」
マオ『……壊されてたわ』
マオ『あのゲス野郎……!』
ドゴォン!!
通信越しに壁を破壊する音。
うさぎ「お前今何処に居んだよ!?」
マオ『知るか!! 今それどころじゃないのよ!!』
うさぎ「俺たちは隠し通路から外に出るから!」
マオ『隠し通路ですって!?』
マオ『そんなの知らないわよ!?』
うさぎ「隠し通路なんだから普段隠してんだろ!!」
うさぎ「何言ってんだおめぇは!?」
マオ『……』
少し間。
マオ『……なんかちょっと落ち着いたわ』
うさぎ「よかったな!!」
ロズワール「外へはその先の扉です!」
うさぎは通路を駆け抜ける。
奥。
古びた扉。
うさぎ「おらぁ!!」
蹴り飛ばした。
バン!!
扉が吹き飛ぶ。
眩しい。
急な陽光に目が眩んだ。
後ろから。
少女を抱えたロズワールと姫も続いて出てくる。
そして。
「みーつけた」
うさぎ「……!」
視界が慣れた瞬間。
囲まれていた。
兵士。
街人。
貴族。
侍女。
執事。
全員。
目が血走っている。
黒い刺青が首や手に浮かび上がっていた。
その中央。
転生者が立っている。
ニヤニヤ笑いながら。
「ち、父上……」
「逃げ……て……」
第1王子と第2王子。
二人は血だらけだった。
それでもまだ抵抗している。
身体を震わせながら。
ロズワール「……!」
ロズワール王の表情が変わる。
怒り。
殺意。
ロズワール「貴様ァ!!」
次の瞬間。
ロズワールは剣を抜いた。
ドンッ!!
地面が砕けた。
ロズワールが一瞬で十数メートルの距離を詰める。
速い。
片足を引きずっていた王とは思えない速度。
振り下ろされる剣撃。
空気が裂けた。
だが。
転生者は笑っていた。
「無駄だよ」
「ざーこ」
その瞬間。
ブシュッ!!
ロズワールの両腕、両脚から鮮血が吹き出した。
うさぎ「は!?」
斬られている。
見えなかった。
ロズワールは膝をつき、剣を地面へ突き立てる。
ロズワール「……ぐっ……」
「脇役風情が主人公に勝てると思ってんの?」
転生者は笑う。
そして振り返り。
「ほら! 皆笑えよ!」
次の瞬間。
周囲の人間達が一斉に笑い出した。
「アハハハハ!!」
「ははははは!!」
だが。
その声は震えている。
泣いている者もいた。
涙を流しながら笑っている。
「もっと笑えよ!」
転生者が後ろを向いた瞬間だった。
ロズワールの目が転生者を睨む。
ガキィン!!
うさぎ「!?」
項垂れていたロズワールが。
突き立てた剣の柄へ噛みつき。
そのまま身体ごと剣を振り抜いた。
「へ?」
宙を舞う左腕。
転生者の腕だった。
「あ……」
「あああああああああああ!!」
転生者が絶叫する。
「脇役風情があああああ!!」
ロズワール「……仮初の玉座だとしても……!」
ロズワール「貴様ごときには……国は渡さん!!」
王だった。
その瞬間だけ。
間違いなく。
「あ……腕……」
転生者は切断面を見つめる。
震えている。
だが。
次の瞬間。
「……なんてね?」
真顔だった。
ボコボコッ。
切断面の肉が盛り上がる。
ミチミチと嫌な音。
骨。
筋肉。
血管。
不気味に蠢きながら腕の形になる。
うさぎ「うわっ……」
気持ち悪い。
完全に化け物だった。
「なんか萎えたわ」
「女神様に言って新しい国作って貰お」
うさぎ「何言ってんだコイツ……」
「あ、でもその前に……」
転生者がこちらを見る。
その視線が。
姫へ向いた。
品定めするみたいに。
舐め回すように。
「新しい彼女は欲しいなぁ」
うさぎ「……ッ!」
転生者の手のひらに再び紋章が浮かぶ。
黒い触手。
速い。
うさぎ「速え!!」
一直線に姫へ向かう。
考えるより先に。
身体が動いた。
うさぎは姫の前へ飛び出す。
ズブッ。
うさぎ「痛ってぇ!!」
腹部へ突き刺さる。
強烈な異物感。
内側を何かが這い回る感覚。
毛が逆立つ。
気持ち悪い。
―――姫「うさぎさん!!」
少女「ひぃっ……!」
腹を見る。
刺された箇所の毛色が黒く変色していた。
「あんだよ邪魔すんなよ」
転生者は不機嫌そうに眉を顰める。
「まぁいいや」
「ペットにして遊んでやるよ」
ドゴッ!!
蹴り飛ばされるうさぎ。
うさぎ「がっ……!」
蹴り自体は大した事ない。
だが。
身体が動かない。
力が入らない。
頭が割れそうだった。
「続きは後でやってやるよ」
転生者は舌なめずりをする。
そして。
再び姫へ向き直った。
うさぎ「が……ぁ……」
やばい。
動け。
何とかしろ。
この前のやつ。
出るタイミングだろ!?
頭痛。
目眩。
警告音みたいな耳鳴り。
キィィィィィィ―――。
そして。
目の前へ光の画面が現れた。
――――――――――――――――――――――――
・個体の精神汚染が危険域に達しました。
・精神攻撃による精神エネルギーダメージ増大を確認。
・対象を敵性個体と認定。
・敵性個体による精神的肉体的支配と推測。
・自己防衛機構起動。
・自動反撃シーケンス開始。
・敵性個体の排除及び損傷修復の為のエネルギー補給を開始します。
――――――――――――――――――――――――
うさぎ「……は?」
転生者の手のひらへ再び紋章が浮かぶ。
先程より強い光。
「それじゃあ今度こそ―――」
その瞬間。
うさぎの視界が。
赤く染まった。
―――続く




