第28話うさぎと奇妙な王様
マシロとマオから聞いた転生者の話。
そして。
路地の少女の怯え方。
そこから察するには十分だった。
うさぎ「……」
少女は未だ姫へしがみつくようにして震えている。
姫はそんな少女の背を優しく撫で続けていた。
―――姫「もう大丈夫ですよ」
その姿を見た瞬間。
ズキッ。
不意に頭痛が走る。
うさぎ「っ……」
脳裏に何かがよぎった。
暗い部屋。
泣き声。
誰かの怒鳴り声。
だが。
次の瞬間には霧がかかったように消えていく。
うさぎ「……なんだ今の」
マオ『どうしたの?』
うさぎ「いや……なんでもねぇ」
頭を振る。
嫌な感じだった。
思い出したくない。
そんな感覚だけが残る。
うさぎは再び人混みの奥を見る。
歓声。
笑顔。
憧れ。
だが今は全部気持ち悪かった。
うさぎ「やっぱりロクでも無いな」
車はそのまま大通りを進んでいく。
しばらくすると。
王宮が見えてきた。
巨大。
だが妙に装飾が少ない。
白を基調とした建物。
余計な派手さは無く、代わりに清潔感と気品があった。
王城というより神殿に近い印象。
うさぎ「……なんか思ったより質素だな」
マオ『この国、元々はかなり真面目な王家だったのよ』
マシロ「今はもうボロボロだけどね」
車が王宮前へ止まる。
うさぎとマシロが先に降りた。
続いて。
姫が少女に付き添うように車から降りる。
その瞬間。
ガシャン!!
王宮前に並んでいた兵士達が、一斉に直立不動になった。
さらに左右へ分かれる。
同時に王宮の巨大門が開いた。
ゴゴゴゴゴ……。
中から現れたのは。
侍女。
執事。
貴族達。
全員が一糸乱れぬ動きで左右へ分かれ、一本の道を作る。
静かだった。
人数は多い。
なのに。
足音しか聞こえない。
うさぎ「……すげぇ」
圧倒される。
異様なのに。
洗練されていた。
その奥から。
「お待ちしておりましたぞ! 王女殿下!」
五十代半ば程の男性が歩いてくる。
身体つきは大きい。
少し厳つい顔。
だが。
目の下の隈が酷かった。
足取りも少しぎこちない。
片足を庇っているようにも見える。
男は姫の前まで来ると。
片膝をついた。
うさぎ「……は?」
「本来であればこちらから出向くべき所を……申し訳ありませぬ」
深く頭を下げる。
国王が。
姫へ。
―――姫「あまり無理をなさらないでくださいね、ロズワール陛下」
ロズワール「お言葉感謝致します、ア―⬛︎―王女殿下」
うさぎ「?」
今。
何か聞こえた。
名前?
国名?
だが聞き取れなかった。
それより。
おかしい事がある。
ロズワール「初めまして騎士様」
ロズワール「私はこの国の国王を務めます、ロズワールと申します」
ロズワール「以後、お見知りおきを宜しくお願い致します」
うさぎ「え、あ、こちらこそ……」
国王なのに。
低姿勢すぎる。
それに。
騎士様?
騎士相手にも敬語?
どう見てもなんちゃって騎士だぞ俺。
うさぎ「私は見たまま通りのうさぎです……」
ロズワール「歓迎の席を用意させて頂きました」
ロズワール「お楽しみ頂けましたら幸いで御座います」
その声色は穏やかだった。
だが。
どこか疲れ切っている。
ずっと眠っていない人間みたいな目。
―――姫「ありがとうございますロズワール陛下……」
ロズワール「後ほど少々お時間を頂きたいのですが……」
ロズワール「相談したい事がありまして」
一瞬だけ。
国王の表情に影が落ちた。
―――姫「わかりました」
―――姫「私のような若輩者の意見でも、お聞き頂けるのであれば……」
ロズワール「感謝致します」
ロズワールは深く頭を下げた。
その姿を見ながら、うさぎは違和感を覚える。
王というより。
助けを求める人間。
そんな感じだった。
ロズワール「では後ほど使者を送りますので……」
そう言い残し、国王は去っていった。
片足を引きずるように。
その背中は酷く疲れて見えた。
◇
歓迎の席。
それは食事会だった。
長いテーブル。
豪華な料理。
貴族達。
王族。
そして。
中央には姫。
完全に主賓だった。
周囲の人間達は、皆どこか安心したような顔で姫へ話しかけている。
うさぎ「……なんか凄ぇな」
マオ『……この隣に居るのが攻略対象の第1王子』
マオ『反対側が第2王子よ』
うさぎは視線を向ける。
うさぎ(引くほどイケメンじゃねぇかぼけぇ……)
第1王子。
鋭い目付きの美形。
第2王子。
柔らかい雰囲気の優男。
方向性は違うが、どちらも完成度が高い。
うさぎ(で? この後どうなんの?)
マオ『本来なら第1王子と第2王子の対立イベントね』
マオ『でもあの転生者が居るから何が起きるか正直わからないわ』
うさぎ(元々はどんな感じなんだ?)
マオ『よくある感じよ』
マオ『ヒロイン取り合いで喧嘩』
かなり雑な説明だった。
だが何となく理解する。
うさぎ(主人公がどっちに付くかで展開変わるヤツか?)
マオ『そ』
マオ『しかもあの女神の事だから絶対面倒になるわよ?』
うさぎ(ヒロイン取り合いで喧嘩ってガキかよ……)
うさぎ(ロクでも無いな)
第1王子「騎士様?」
第2王子「何かご不満が?」
うさぎ「え?」
二人とも普通に話しかけてきた。
しかも。
仲が悪そうに見えない。
むしろ普通に仲良さげだ。
うさぎ「いや別に……」
マオ『……なんか変ね』
マオ『シナリオだとこの時点で既にライバル関係だったはず……』
マシロ「もう壊れ始めてたりしてね」
うさぎは視線を向ける。
マシロはテーブルの上に直接座り。
ステーキを丸かじりしていた。
貴族達がめちゃくちゃ見てる。
マシロ「ん?」
マシロ「なによ」
お前だよ。
―――続く




