第27話うさぎと主人公っぽいやつ
翌朝。
うさぎ達は王都の巨大門前にいた。
朝日を浴びた白い城壁は、昨日見た時よりさらに巨大に見える。
門前には既に長蛇の列が出来ていた。
商人。
旅人。
荷馬車。
眠そうな兵士達。
朝の王都らしい光景。
……のはずだった。
だが。
姫の姿を見た瞬間。
空気が変わる。
「ひ、姫殿下!?」
「開門!! 開門急げぇ!!」
ゴゴゴゴゴ……。
巨大門が動き始めた。
並んでいた人々がざわつく。
うさぎ「すげぇ……」
うさぎ「顔見せただけで開いたぞ……」
マオ『だから言ったでしょ』
門兵達は慌てた様子で整列し、深々と頭を下げる。
その中に。
昨日の武者甲冑兵士もいた。
うさぎ「……うわ」
目の下のくまが酷い。
というか顔色も悪い。
一睡もしていないようだった。
武者甲冑兵士は姫を見るなり再び膝をつく。
「昨夜は誠に申し訳ございませんでしたぁ!!」
―――姫「も、もう大丈夫ですから!」
うさぎ「この人絶対責任感じて徹夜しただろ……」
マオ『真面目すぎるのも考えものね』
そのままうさぎ達は一切止められる事なく王都へ入った。
そして。
王都へ入った瞬間。
うさぎ「……おぉ」
街並みが違う。
石畳。
巨大な噴水。
綺麗に整備された通り。
装飾された街灯。
並ぶ高級店。
窓ガラスまで綺麗だった。
王都。
そんな言葉がぴったりな景色。
だが。
うさぎは以前感じた違和感を思い出していた。
綺麗すぎる。
人々の笑顔。
建物。
服装。
全部。
“そう見せている”感じがした。
まるで舞台の上みたいな。
マシロ「……」
珍しくマシロも黙っている。
少女は車内の簡易ベッドで横になったままだ。
昨日より顔色は良い。
だが。
まだ怯えが抜け切っていない。
うさぎ「とりあえず王城?」
―――姫「はい。その前に市場通りを抜けますね」
車はゆっくり進む。
市場は賑わっていた。
露店。
音楽。
笑い声。
焼き菓子の香り。
果物を売る店員の声。
まさに王都の市場。
その時だった。
「キャアアアアア!!」
「素敵ー!!」
「こっち向いてぇ!!」
突然。
通りの向こうで黄色い歓声が上がった。
うさぎ「なんだ?」
周囲の人混みが割れていく。
女性達が我先に前へ出ようとしていた。
子供達まで目を輝かせている。
まるで英雄の行進。
そこを歩いて来たのは―――
金髪の青年だった。
整った顔立ち。
白を基調とした豪華な衣装。
爽やかな笑顔。
その周囲には数人の女性。
貴族風。
騎士風。
魔術師風。
見事なくらい属性がバラバラだった。
うさぎ「……うわぁ」
うさぎ「主人公っぽ……」
マオ『……』
マシロ「……チッ」
二人の反応だけが異常だった。
青年は笑顔で民衆へ手を振る。
女性達が歓声を上げる。
子供達は憧れの目を向ける。
まるで。
物語の主人公。
だが。
うさぎはなんとなく気持ち悪さを感じていた。
笑顔が綺麗すぎる。
視線。
仕草。
全部が“作られた主人公”みたいだった。
その瞬間。
ガタッ。
車内から音がした。
うさぎ「?」
振り返る。
少女だった。
少女「……ひっ……」
顔色が真っ青になっている。
呼吸が乱れていた。
少女「いや……やだ……!」
震えている。
全身が。
うさぎ「お、おい!?」
少女は頭を抱えながら後退ろうとする。
だが寝袋へ絡まり、そのまま小さく縮こまった。
呼吸が浅い。
目には涙。
完全に怯え切っていた。
その視線の先。
金髪の青年。
マシロ「……ビンゴね」
うさぎ「知り合いか?」
マシロ「最悪な意味で」
青年は愛想よく周囲へ手を振りながら歩いていく。
だが。
その瞬間だけ。
青年の目がこちらを向いた。
一瞬。
うさぎと視線が合う。
ニコッ。
爽やかな笑顔。
……なのに。
うさぎ「なんか胡散臭い」
本能的な嫌悪感。
品定めされるような気持ち悪さ。
マオ『……気持ち悪い』
珍しく露骨だった。
青年達はそのまま人混みの向こうへ消えていく。
だが歓声だけはまだ聞こえていた。
少女は未だ震えている。
姫がそっと肩を抱いた。
―――姫「大丈夫です……大丈夫ですよ」
少女「ぁ……ぁ……」
涙が止まらない。
うさぎ「……誰なんだよアイツ」
マシロは深くため息を吐いた。
マシロ「……転生者よ」
うさぎ「……は?」
マシロ「しかも典型的な勘違い系」
うさぎ「勘違い系?」
マシロ「自分を“主人公”だと思ってるタイプ」
マオ『最悪のタイプね』
うさぎは青年が消えた方向を見る。
まだ歓声が聞こえていた。
マシロ「この世界、女神が改変した結果乙女ゲー系世界になったのよ」
うさぎ「廃墟の国の歴史書、恋愛話ばっかだったな」
うさぎ「乙女ゲーかぁ……前にやったことあるけど……リアルで見るときっついなぁ……」
マオ『なんでやったことあんのよ……』
うさぎ「……興味本位」
マシロ「……感想は?」
うさぎ「意外と面白かった」
マオ『……後でタイトル教えなさい』
うさぎ「……忘れた」
うさぎ「なんか攻略対象、人外しかいねぇギャグみたいなやつ」
マオ『たしかにちょっと気になるわね』
マシロ「……面白そうねそれ」
間
マオ、マシロ『話戻すわよ』
うさぎ「……すまねぇなぁ」
マシロは小さく咳払いした。
マシロ「本来なら王子とか騎士とかと恋愛イベントが起きる世界だった」
マシロ「でもアイツが介入した」
うさぎ「介入?」
マシロから笑みが消える。
マシロ「魅了系能力」
マオ『洗脳ね』
うさぎ「……」
マシロ「好意、依存、服従」
マシロ「全部強制上書き」
うさぎ「は……?」
マシロ「だからあのハーレム」
マシロ「本人は“モテてる主人公”気取りだけど」
マシロ「実際は精神操作よ」
少女が小さく震える。
姫はさらに強く抱き寄せた。
少女「……こわい……」
か細い声。
それだけで十分だった。
うさぎはもう一度、人混みの奥を見る。
笑顔。
歓声。
憧れ。
だが今は。
全部が薄気味悪く見えた。
うさぎ「やっぱりロクでも無いな」
―――続く




