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『バグったうさぎを修正できません』 ――ブラック企業の天使がヤケクソで転生させた結果――  作者: 島ながぁ
第一章︰名無しの王女

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第26話うさぎと焚き火

 王都を囲む巨大な城壁へ到着した頃には、既に夜になっていた。


 夜空。


 高くそびえる白い城壁。


 壁の上では松明が揺れている。


 だが巨大な門は既に閉じられていた。


 見張りの兵士以外、人影は無い。


 うさぎ「……でっけぇなぁ」


 流石の顔パスも、門そのものが閉まっていては意味が無かった。


 門前にいた武者甲冑姿の兵士は、姫を見るなり青ざめた。


「ひ、姫殿下ぁ!?」


 兵士はその場で膝をつき、勢いよく頭を下げる。


「も、申し訳ございません!!」


「開門時刻を過ぎておりましてぇ!!」


 声が震えている。


 というか。


 刀抜いてない?


 兵士は震える手で短刀を取り出した。


 うさぎ「待て待て待て待て」


 ―――姫「だ、大丈夫ですから!?」


 慌てて姫が止める。


 兵士は泣きそうな顔だった。


「しかし姫殿下を野宿などさせる訳には……!」


 ―――姫「本当に大丈夫ですから!」


 なんとか説得され、兵士は短刀を下ろした。


 うさぎ「この国ちょいちょい命軽くない?」


 マオ『今更?』


 近くの街へ戻るには距離がある。


 今日はここで野宿する事になった。


 うさぎ「そう言えばこの世界来てから野宿するの初めてだなぁ」


 うさぎは地面へ杭を打ち込みながら呟く。


 地面の硬さを確認。


 風向きを見る。


 テントが飛ばされない位置を決め、固定していく。


 ―――姫「私も初めてです」


 姫は興味深そうに作業を見ていた。


 うさぎ「意外だな」


 ―――姫「普段は街へ泊めていただいていましたので」


 組み立て式テントが完成する。


 続いて焚き火の準備。


 枯れ枝を組み。


 着火剤へ火をつける。


 ボッ。


 小さな炎が夜の空気を照らした。


 少女は車内で眠ったままだ。


 マシロは既にクッションへ埋まっていた。


 マシロ「文明最高……」


 うさぎ「働け妖精」


 マシロ「労基行くわよ?」


 うさぎ「どこにあんだよ異世界労基」


 鍋へ水を入れ、干し肉と野菜を放り込む。


 しばらくすると良い匂いが漂い始めた。


 焚き火の音。


 湯気。


 夜風。


 静かな時間だった。


 うさぎ「普段は街に泊めてもらうの?」


 ―――姫「はい。領主さんや街長の方のお屋敷で休ませていただきます」


 うさぎ「そうなんだ……」


 どこへ行っても歓迎される。


 だが。


 姫には国が無い。


 家も。


 領地も。


 ふと疑問が浮かぶ。


 聞いてはいけない気もした。


 でも。


 うさぎ「姫の国ってどこにあるんだ?」


 焚き火が小さく爆ぜた。


 パチッ。


 ―――姫「……」


 笑顔が消える。


 困ったような。


 悲しそうな。


 そんな表情だった。


 しばらく沈黙。


 焚き火の音だけが響く。


 そして姫は、小さく口を開いた。


 ―――姫「……思い出せないのです」


 うさぎ「……」


 ―――姫「家族の事も……国の事も……街も……何も……」


 風が吹く。


 火が揺れた。


 うさぎ「……そうか」


 それ以上は聞かなかった。


 代わりに鍋の蓋を開ける。


 湯気が立ち上る。


 うさぎ「シチュー出来たよ」


 器へ盛り付け、パンと一緒に姫へ渡す。


 ―――姫「……ありがとうございます」


 うさぎ「いただきます」


 ―――姫「?」


 姫は不思議そうに首を傾げた。


 ―――姫「いただきます……とは、不思議な挨拶ですね」


 うさぎ「あー、元いた世界の国の習慣だったんだ」


 うさぎ「食べ物とか、材料になった生き物とか植物とか」


 うさぎ「作ってくれた人とか、そういう全部に感謝を伝える言葉だって教わったな」


 姫は器を見つめた。


 湯気の向こうで、小さく目を伏せる。


 ―――姫「命に感謝する言葉……」


 うさぎ「まぁそんな感じ」


 ―――姫「……素敵な言葉ですね」


 姫は静かにスプーンを口へ運んだ。


 しばらく無言で食べ続ける。


 焚き火の向こう。


 火の明かりで表情はよく見えなかった。


 だが。


 少しだけ俯いていた。


 泣いていたのかもしれない。


 ちなみに。


 姫はシチューとパンを三回おかわりした。


 うさぎ「結構食うなぁ姫」


 ―――姫「……美味しいので」


 ちょっと照れている。


 そして。


 マシロ「うんまぁ」


 マシロは茶碗五杯分食べた。


 うさぎ「どこに入ってんだその量」


 マシロ「妖精を舐めるんじゃないわよ」


 うさぎ「妖精ってそんな燃費悪いの?」


 マシロ「ストレス食いよ」


 マオ『末期ね』


 マシロ「うるさいわよ」


 その時。


 車内から小さな声が聞こえた。


「……ぁ……」


 少女だった。


 寝袋の中で小さく震えている。


 うさぎ達は同時にそちらを見た。


 焚き火の火だけが、静かに揺れていた。


 ―――続く

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