第25話うさぎは怒られた。
ぐったりと意識を失った少女を、姫がそっと抱き上げた。
軽い。
あまりにも。
―――姫「……このままにはしておけません」
うさぎ「とりあえず移動しないとな」
裏路地の空気は最悪だった。
人目もある。
長居は危険だ。
うさぎ、姫、マシロは少女を連れて車へ戻った。
そして。
後部座席へ寝かせようとして―――
うさぎ「あ」
―――姫「あら」
マシロ「知ってた」
忘れていた。
後部座席は。
食料品で埋まっていた。
パン。
干し肉。
保存食。
水。
ついでにトランクルームも限界だった。
組み立て式テント。
折り畳みコット。
クッション。
寝袋。
姫の着替え。
既にパンパンである。
うさぎ「マシロ」
マシロ「ダメ!」
即答だった。
マシロ「さっきのは経費で誤魔化せるけど、空間拡張なんてしないから!」
うさぎ「ほほぉ……」
うさぎ「できるんだな?」
ニヤァ。
悪い顔だった。
マシロ「しまっ―――」
―――姫「マシロ様! お願いします!」
姫は今にも泣きそうな顔だった。
マシロ「う゛っ」
なんかこっちまで罪悪感が。
……いや。
ついさっき枝毛に薬塗ったな。
普通に悪いことしてたわ。
マシロ「うぅ……」
マシロ「わかったわよぉ……」
マシロは極小サイズのタブレット端末を取り出し、何かを操作し始めた。
すると端末が変形する。
薄い板だったものが、細長く伸び―――
光る剣のような形になった。
うさぎ「おぉ……」
ちょっとかっこいい。
その直後。
マシロはそれを車へ突き刺した。
ブスッ。
うさぎ「何しとんじゃぁぼけぇ!!」
反射だった。
うさぎの右フックが炸裂する。
マシロ「ぶべぇっ!?」
風圧だけで吹き飛んだ。
後部座席へ―――
……当たらない。
うさぎ「?」
マシロはそのまま消えるように車内へ飛んでいった。
というか。
後部座席が無くなっていた。
いや。
奥へ続いていた。
車内の空間が、ぐにゃりと折れ曲がっている。
見えているのは。
ワンルーム程の広さ。
その壁へ突き刺さるマシロ。
マシロ「おごぉ!!」
うさぎ「はぁ!?」
―――姫「……マシロ様! ありがとうございます!」
姫は一瞬だけ間を置いた。
……今スルーするか迷ったよな?
な?
うさぎと姫は広がった空間へ入る。
中は妙に普通だった。
床。
壁。
天井。
だが車内特有の圧迫感が消えている。
うさぎ「あ、そうだ……」
―――姫「どうしたのですか?」
うさぎ「ちょっと待ってて」
うさぎは一度車を降り、後方のトランクルームを漁る。
アウトドア用品を抱えて戻ってきた。
折り畳みコット。
寝袋。
紐。
うさぎは慣れた手つきでコットを展開し、寝袋を上へ固定していく。
紐の締まり具合を二回確認。
さらに揺れを想定して角度も調整する。
簡易ストレッチャー。
そんな感じの物が完成した。
うさぎ「これなら多少揺れても大丈夫だな」
―――姫「うさぎさんって器用なのですね」
うさぎ「まぁ元の世界でちょっとな」
姫は感心したように目を丸くした。
二人で少女を簡易ベッドへ寝かせる。
寝袋を肩まで掛けた。
少女は小さく寝息を立てている。
うさぎは運転席へ座った。
姫はその隣へ。
うさぎ「一旦移動しよう」
エンジン音。
車がゆっくり動き出す。
その時。
―――姫「うさぎさん」
うさぎ「どうした?」
姫は少しだけ頬を膨らませた。
―――姫「今回は良いのですが……」
嫌な予感。
―――姫「あまりイタズラはいけませんよ?」
うさぎ「……」
バレてた。
―――姫「次は、め! しますからね!」
指を立てて叱る姫。
うさぎ「ごめんなさい」
素直に謝った。
―――続く




