第24話うさぎとゴミ箱の妖精
見覚えしかない紙箱から出てきたのは。
錠剤では無く塗り薬だった。
マシロ「ゴ、ゴ……きぃぃぃいやああああああああ!!」
ゴミ箱の中から何か叫んでいる。
暴れ出すゴミ箱。
後で出してやろう。
うさぎは塗り薬を持ち、姫の元へ駆け寄った。
倒れている女性。
近くで見ると酷い。
傷。
痣。
裂傷。
明らかに暴行を受けた痕だった。
うさぎは前足に少し薬を取る。
塗ろうとして―――止まった。
……待て。
うさぎは考えた。
俺、男なんだけど触って大丈夫なのか?
いや、今はうさぎだけどさ。
そもそも俺って今性別あんのか?
法的には?
緊急事態とはいえ、後でなんか問題になったりしない?
傷の場所的に触ったらまずいんじゃ…。
……わからん。
この間約一秒。
正直どうでもいい事に頭脳を使ううさぎだった。
結論。
うさぎ「姫、塗り薬だ……使ってくれ」
―――姫「わかりました」
怪我の場所的に姫へ任せることにした。
姫はすぐ察したようだった。
―――姫「うさぎさんは、手足をお願いします」
うさぎ「お、おう」
……気を遣われた気がする。
うさぎは前足へ薬を取り、女性の変色した腕へ塗った。
次の瞬間。
ジュワアアアアア……
沸騰するように泡立ち始めた。
白煙まで上がる。
うさぎ「えっ怖」
大丈夫なのかコレ。
一方姫は、こちらから見えないよう布を使いながら女性の身体へ丁寧に薬を塗っている。
色んな意味でありがとう。
泡立っていた部分から、壊れた皮膚が剥がれるように傷が消えていく。
痣。
裂傷。
腫れ。
全部。
まるで最初から無かったみたいに。
うさぎ「……え?」
あっという間だった。
うさぎは別の場所にも塗ってみる。
折れ曲がった足。
飛び出た骨。
爪の剥がれた指先。
擦り傷。
火傷。
切り傷。
なんかようわからん刺青みたいなやつ。
全部治る。
傷跡すら残らない。
うさぎ「なんだこれ……」
さらに気付く。
肌。
ツヤ。
妙に綺麗になってないか?
うさぎ「これ実はすごい薬なのでは?」
ふと。
視界に姫の髪が映った。
毛先。
枝毛がある。
うさぎは前足に残った薬を見る。
うさぎ「……」
魔が差した。
ほんの少しだけ。
毛先へ塗る。
べちゃ。
うさぎ「あ」
つけすぎた。
うさぎ「やっべ」
慌ててハンカチを取り出し拭く。
さらに広がった。
うさぎ「やっちまったぜ」
次の瞬間。
閃光。
うさぎ「ぎゃああああ!!」
まともに食らった。
視界が真っ白になる。
うさぎ「目がああああああ!!」
しばらくして。
ようやく視界が戻る。
そして姫を見た。
……光ってる。
毛先どころじゃない。
全体的に。
髪がほのかに発光していた。
さらさら。
つやつや。
なんか神々しい。
うさぎ「す、すげぇな……この薬」
マオ『何やってんのよバカうさぎ』
うさぎ「いや、ちょっと気になって」
―――姫「うさぎさん」
うさぎ「ほい?」
怒られるかと思った。
だが姫は全く気付いていない。
どうやら治療が終わったらしい。
女性がゆっくりと目を開ける。
姫にもたれ掛かるようにしながら。
かなり若い。
十代前半にも見える。
怯えた瞳。
だが。
少女は姫を見ると呆然と呟いた。
「あれ?」
「私…?」
「…女神様?」
声まで幼い。
子供か?
状況が分からないらしい。
姫は優しく事情を説明し始めた。
・裏路地で倒れていたこと
・怪我をしていたこと
・治療したこと
うさぎは途中から全部任せた。
代わりにゴミ箱を漁る。
ガサゴソ。
うさぎ「おーい」
マシロを引っ張り出す。
マシロ「シャバの空気は美味ぇぜぇ」
うさぎ「何言ってんだおめぇは」
その時。
「裏路地……?」
少女の顔色が変わった。
一瞬で。
「あ……」
「ひっ……!」
頭を抱える。
呼吸が荒くなる。
「私…私……あ…ああ……!!」
パニック。
その瞬間。
いつの間にかマシロが少女の隣にいた。
小さな注射器のような物を首元へ刺す。
「……っ」
少女の身体から力が抜けた。
そのまま意識を失う。
うさぎ「いや怖ぇよ!?」
マシロ「ただの鎮静剤よ」
―――姫「妖精さん、この子は…?」
マシロ「ただのパニック発作」
マシロ「直ぐに話聞くのはやめといた方がいいわ。またこうなるから」
うさぎ「なんでそんなもん持ち歩いてんだ?」
少しだけ沈黙。
マシロは視線を逸らした。
マシロ「…私も出るからよ」
うさぎ「末期じゃん」
マオ『末期よ』
マシロは少しだけ笑った。
自虐するように。
マシロ「…末期ですが何か?」
―――続く




