第23話うさぎと綺麗な国
いくつもの関所を越えた。
だが、その全てで検査らしい検査は無かった。
兵士達は車を見るなり姿勢を正し、姫の顔を確認すると即座に道を開ける。
「―――姫殿下だ!」
「通してよい!」
敬礼。
門が開く。
それだけだった。
うさぎ「荷物検査すら無しってすげぇな」
助手席で姫が少し困ったように笑う。
マオ『そういうものよ。どこに行ってもお客様扱いになるのよ』
うさぎ「なんか……歓迎ってよりは腫れ物みたいな扱いな気がする」
マオ『まぁ……似たようなものかもね』
マシロ「……」
珍しく静かだった。
マシロは車内からフロントガラスへ張り付くように外を見ている。
街並みはどこも綺麗だった。
白い石造りの建物。
磨き上げられた道路。
清潔な服を纏った人々。
だが。
なんか変だ。
うまく言葉にできない。
何かを見逃しているような。
気持ち悪い違和感。
車が大通りを進む。
表通りは綺麗だった。
だが、建物の隙間から見える裏路地は酷い。
老人。
病人。
痩せ細った子供。
白骨化しかけた死体。
腐敗臭。
元いた世界でも貧困はあった。
だが、ここまで露骨じゃなかった気がする。
マオ『これくらい日常茶飯事よ』
マオ『慣れないと後で泣くわよ?』
うさぎ「別に同情とかはねぇよ……」
うさぎ「ただ……なんか違和感が……」
不自然なのはそれだけじゃない。
姫への対応。
兵士も街の人間も、姫の前では自然に笑っていた。
だが。
少し離れた瞬間。
バックミラー越しに見えた顔は、どれも無表情だった。
機械的……とも違う。
むしろ姫へ対応していた時の方が自然に見える。
演技?
いや。
もっと別の何か。
うさぎ「なんか嫌な感じの国だな」
―――姫「前に来た時よりも、貧富の差が大きくなっているようですね」
うさぎ「!」
しまった。
見せないようにしていたつもりだった。
―――姫「それに街の人達の姿も……どこか無理をしているように思えます」
うさぎ「……何か気になることでも?」
姫は少し考え込む。
―――姫「気になる……という程でも無いのですが……」
―――姫「女性……特に若い方の姿をあまり見かけないことは、少し気になります」
……それだ。
うさぎは周囲を見る。
改めて確認する。
少ない。
いや。
いない。
カフェ風の店。
甘い匂いのするスイーツ店。
女性向けに見える店にも、女性客の姿が無い。
歩いているのは男ばかりだった。
どこにも。
いない。
その時。
裏路地の見える細い通路を通りかかった瞬間。
―――姫「……止まってください!」
うさぎ「は?」
突然だった。
姫が運転席の前を横切り、そのまま車外へ飛び出す。
すり抜けやがった。
だが、それ以上に問題だったのは。
一瞬見えてしまった服の中。
……でかい。
何がとは言わない。
ラッキーだとは思わない。
だってその直後、心臓と背骨が目の前を横切ったんだぞ?
そんな事より今は―――
うさぎ「おい!姫!」
急ブレーキ。
マシロ「ぶべぇっ!?」
フロントガラスに顔面から潰れるマシロ。
マシロ「……労災は……無理かぁ……」
うさぎは車を飛び降り、姫の後を追った。
細い裏路地。
湿った臭い。
汚水。
そして。
そこにいた。
ボロボロの布切れを纏った女性。
年齢すらわからないほど衰弱している。
見えている手足には傷。
歪に曲がった箇所。
布には赤黒い染み。
腹部からは血が滲んでいた。
―――姫「うさぎさん……!」
姫の顔は必死だった。
助けたい。
そう言っている。
だが、どうやって―――
その瞬間。
うさぎの脳内に電流が走った。
ちょうど追いついてきたマシロを掴み上げる。
うさぎ「治癒アイテムとか出せ!」
マシロ「ムリムリムリ! 個別干渉は禁止されて―――」
うさぎ「バケモンうさぎ転生させといて今更何言ってんだ?」
マシロ「うっ」
うさぎ「持ってんだろ? おら! 出せ!」
うさぎ「夜中にこっそりオヤツ食ってんの知ってんだぞ!?」
マシロ「なっ!? なんで知って―――」
うさぎ「呼び出せんだろ!? おら! 出せや!」
ぶんぶん振り回す。
マシロ「ワワワワわかったわよぉぉ!!」
マシロはポケットから極小サイズのタブレットを取り出し、慌てて操作を始めた。
空間に楕円形の転送ゲートが開く。
その中から何かが落ちてきた。
紙箱。
商品名。
どこかで見た事あるデザイン。
うさぎ「優しさ半分しか無さそう」
マシロ「違うから!?」
うさぎは箱をひっくり返した。
出てきたのは。
錠剤ではなく塗り薬。
うさぎ「痛み止めでどうすんだよ!?」
再びマシロを振り回す。
マシロ「これ違うから! 似てるけど別物! ちゃんとしたヤツだから!!」
うさぎ「本物がちゃんとしてないみたいに言うな! 怒られろ!」
そのまま簀巻きにしてゴミ箱へ放り投げる。
マシロ「ほわああああああああ!!」
ガコンッ。
まぁ物は試しだ。
うさぎは箱を開け、薬を確認する。
白い軟膏。
妙に見覚えのある色と質感。
うさぎ「……たしかに別物だったわ」
ちょっとだけ笑った。
―――続く




