第22話うさぎとえこひいきの国
国境の関所。
高く積まれた白い石壁。
磨き上げられた金属鎧。
規律正しく並ぶ兵士達。
その中央を、一台の車がゆっくりと進んでいく。
兵士達は一斉に姿勢を正した。
「姫殿下!」
敬礼。
窓を開けた姫は、優雅に微笑む。
―――姫「ご苦労様ですわ」
それだけで終わった。
荷物検査も。
身分確認も。
何もない。
道が開かれる。
うさぎ「……すげぇ顔パス」
姫は小首を傾げた。
―――姫「? 普通ではなくて?」
うさぎ「普通じゃねぇよ」
マオの通信が入る。
マオ『姫はそういう存在なのよ』
関所を抜けた瞬間だった。
景色が変わる。
うさぎ「……あ?」
道が違った。
石畳は汚れ一つなく。
建物の壁は白く。
窓ガラスは透き通り。
行き交う人間の服も、やけに綺麗だった。
笑顔。
余裕。
活気。
だが―――綺麗すぎた。
うさぎ「なぁマオ、ここはどんな国なんだ?」
マオ『依怙贔屓の国よ』
うさぎ「国が? それとも転生者の事?」
マオ『どっちもよ』
短い沈黙。
うさぎは窓の外を見続ける。
綺麗な通り。
整った街。
そして。
建物脇の細い路地。
うさぎの視線が止まった。
……子供だった。
痩せ細った子供。
店の裏に積まれたゴミを必死に漁っている。
誰も見ていない。
見えていないように。
うさぎ「……こういうことね」
マオ『そ』
車は止まらない。
綺麗な街並みを抜け。
やがて街道へ出る。
人通りも減り、静かな風だけが吹いていた。
その時。
うさぎ「あ」
街道脇。
倒れている親子。
もう動かない。
痩せ細った母親。
その腕に抱かれたままの小さな子供。
うさぎ「……」
アクセルが緩む。
―――姫「うさぎさん? どうしましたか?」
返事はなかった。
車が止まる。
うさぎは静かに車を降りた。
無言のまま土を掘る。
近くの木の下。
硬い地面を黙々と掘り返し、親子を横たえる。
マオ『……? 何してんの?』
うさぎ「いや、何となく……」
マオ『結構お人好しなのね』
うさぎ「そうかもな」
土を被せる。
簡素な墓。
最後にその辺に落ちていた石を立てた。
墓標代わりに。
すると。
姫が静かに石の前へ歩み出た。
両手を合わせ、目を閉じる。
風が髪を揺らした。
―――姫「この者達に、どうか安らかな眠りのあらんことを」
静かな祈りだった。
うさぎ「……ありがとう姫」
姫は微笑む。
―――姫「当然のことですわ」
その笑顔に、打算は無かった。
うさぎと姫は車へ戻る。
エンジン音。
再び車は走り出した。
しばらくして。
マオ『……』
うさぎ「ん? どした?」
少し間があった。
マオ『……この前の事は謝るわ』
うさぎ「?」
マオ『ごめん』
うさぎは少し考え。
うさぎ「……この前のって……撃った事か」
マオ『そう』
うさぎ「別にいいよ」
軽い返事だった。
だが通信の向こうで、マオは少し黙った。
―――姫「仲直り出来そうで良かったですね」
姫は嬉しそうに笑っている。
多分。
何も分かってない。
その頃。
車のボンネット。
磔にされたマシロは変な虫に集られていた。
マシロ「うごおおおおおおおおおお!!」
磔のまま暴れる。
虫が顔に張り付く。
マシロ「あっちぇいけぇぇぇ!!!」
べちべち叩く。
風圧でさらに虫が寄ってくる。
マシロ「増えたぁぁぁぁ!!!」
うさぎ「うるせぇな」
―――姫「あら、人気者ですわね」
マシロ「違ぇよぉぉぉぉ!!!」
―――続く




