第21話うさぎと顔パス姫
消えた山を背に、うさぎ達は移動を開始していた。
白と黒の警備車両。
猛獣のようなエンジン音を響かせながら、焼けた大地を走っていく。
運転席にはうさぎ。
助手席には姫。
そして―――
ボンネットには。
磔にされたマシロ。
「…………」
虚無だった。
五センチほどの身体。
ボロボロのスーツ姿。
背中にはガムテープで補強された段ボール製の羽。
風圧でぺたぺた揺れている。
両手両足を固定され、完全に荷物扱いだった。
マシロ「…どうしてこんな目に…」
うさぎ「罰だ、受け入れろ」
マシロ「…もう帰りたい…」
マシロの死んだような目は、もうブラックホールにしか見えなかった。
車内。
通信機越しにマオの声が響く。
マオ『聞こえる?』
うさぎ「おー」
マオ『今から説明するからちゃんと聞きなさい』
うさぎ「学校の先生みたいだな」
マオ『撃つわよ』
うさぎ「すみませんでした」
エンジン音。
タイヤが石畳を滑る音。
遠くでは雷鳴。
第6世界は今日も不安定だった。
マオ『まずアンタが今いる第6世界だけど』
マオ『元々は女神管轄のファンタジー系ストーリー管理世界』
うさぎ「ゲームみたいな?」
マオ『大体そんな感じ』
マオ『で、あのクソ女が気分で弄って壊れた』
うさぎ「最低だな」
マオ『最低よ』
即答だった。
マオ『気に入った国は強化』
マオ『気に入らない国は削除』
マオ『推しキャラが死んだら歴史改変』
マオ『気に入った転生者は贔屓』
うさぎ「終わってんなぁ」
マオ『終わってるわよ』
助手席の姫は静かに窓の外を眺めている。
話を聞いているのかいないのか分からない。
時折、
「綺麗なお花ですね」
とか言っていた。
お花は人の顔みたいな形をしていた。
「うひゃははははは…」
うさぎは見なかったことにした。
途中。
小さな街へ立ち寄ることになった。
石造りの建物。
露店。
市場。
西洋文化っぽい街並み。
そこへ爆音を鳴らしながら乗り込んでくる警備車両。
街人「なんだぁ!?」
街人「速っ!?」
街人「馬車じゃねぇ!?」
タイヤを鳴らしながら停止。
うさぎ「ちょっと休憩するか」
姫が車から降りる。
瞬間。
「―――王国の―――王女様!?」
「姫殿下だ!」
「遠路はるばるようこそ!」
「本物だべ!」
一瞬で人だかりができた。
うさぎ「どこ行っても歓迎されるなぁ」
領主らしき太った男まで走ってくる。
領主「これはこれは!まさかこのような辺境へお越し頂けるとは!」
姫「こんにちは」
領主「本日はぜひ我が屋敷へ―――」
姫「お気持ちだけで十分です」
領主「なんとお優しい……くっ!」
街人達が感動して泣いていた。
うさぎ「人気アイドルかよ」
その横で。
マシロがボンネットに貼り付けられたまま揺れていた。
子供「ママーあれなにー?」
母親「見ちゃいけません」
マシロ「……」
虚無だった。
再び移動。
草原地帯を走る。
空は曇天。
遠くに巨大な城壁が見えてきた。
うさぎ「ん?」
マオ『国境ね』
うさぎ「でっか……」
巨大な関所。
分厚い門。
高い城壁。
武装兵士達。
だが―――
なんかおかしい。
迷彩服の軍っぽい隊員。
西洋甲冑の騎士。
足軽。
警備員みたいな制服。
処刑人みたいな頭巾の上裸男。
全員同じ場所に立っていた。
うさぎ「統一感どこいった?」
さらに。
騎士が無線機使ってる。
足軽が誘導棒振ってる。
処刑人がスマホ見てる。
世界観が迷子だった。
「止まれェ!!」
兵士達が車を囲む。
槍。
銃。
刀。
ハリセン。
電動工具。
なんでもあり。
兵士「この車、盗難車だろ!!」
うさぎ「バレた!?」
兵士達が一斉に武器を構える。
うさぎ「やっべ」
アクセルに足を置く。
逃走準備。
だが。
兵士の一人が助手席を見る。
「―――王国の姫君だ!!」
空気が変わった。
「えっ」
「マジだ!」
「おら初めて見たぞ!」
「お姫様だべ!」
ざわつく兵士達。
隊長らしき騎士が青ざめ怒号を上げる。
「何をしている!!」
「直ちにお通ししろ!!」
「無礼者!!」
さっきまで武器を向けていた兵士が整列――
敬礼していた。
うさぎ「切り替え早ぇな」
門が開かれる。
姫「ありがとう」
兵士達「ご安全に!!」
うさぎ「ご安全にじゃねぇよ」
完全に顔パスだった。
車が再び走り出す。
うさぎ「…なぁマオ」
マオ『なによ』
うさぎ「姫って何なんだ?」
マオ『無害』
うさぎ「そこじゃねぇ」
マオ『どこ行っても存在しない王国の姫として認識される。国の名前も何もデータに残ってないのよ』
うさぎ「怖ぇよ」
マオ『怖いわよ』
少し沈黙。
うさぎ「でもまぁ」
うさぎ「今んとこ助かってるしなぁ」
マオ『アンタ図太いわね』
うさぎ「よく言われる」
マオ『褒めてない』
その時。
ボンネットから声。
マシロ「…寒い…」
うさぎ「まだ生きてたのか」
マシロ「妖精ですので」
うさぎ「便利だな妖精」
マシロ「便利なのは使う側だけです」
風に吹かれながら。
白と黒の猛獣は、第6世界を走り続けていた。
―――続く




