第20話うさぎとブラック職場
消えた山を眺めるうさぎと天使マオ。
ぽっかりと空いた空間だけがそこにあった。
山脈だった場所。
今はただ、 丸く削り取られた空白だけが広がっている。
風だけが吹き抜けていた。
マオは無言で腰のホルスターへ銃を戻すと、 ホルスターのポケットからスマホ型端末を取り出した。
素早く操作。
数秒後、 どこかへ通信が繋がる。
マオ「……室長?」
うさぎ「上司に報告すんのか、まぁ仕事だもんな」
マオ「はい――そうです――α型でした」
うさぎ「アルファ型?」
どういう意味だ?
分類? 危険度? それともパターン分けか?
マオ「はい――第6世界担当の全員にお願いします」
うさぎ「第6世界…」
他にもあるのかよ。
絶対ロクでもねぇ世界だろ。
マオ「当然でしょ…」
マオ「あの女にバレたら余計なことするに決まってます」
うさぎ「話なげぇな」
マオ「うるさい」
怒られた。
マオはさらに数回短く会話を交わす。
その表情は険しいままだ。
マオ「確認はしてみます」
通信が切れる。
端末を腰のケースへ戻した。
うさぎ「話は終わったのか?」
マオ「まぁ一応は」
うさぎ「気になることはいくつかあるけど……俺はどうなんの?」
マオ「アンタの処分は保留、というか放置ね」
うさぎ「あれが原因か?」
うさぎは消えた山を指差す。
マオ「そ」
うさぎ「下手に死にかけたらヤバいよな」
マオ「他人事みたいに言うんじゃないわよ」
うさぎ「?」
うさぎ「向かって来ないなら他人事で済むだろ?」
マオ「…」
何か驚いたような顔をしている。
うさぎ「アルファ型って言ってたけど他にもいるんだな」
マオ「教える必要ある?」
うさぎ「無いな、正直あんまり興味無いし」
マオ「聞いといて興味無いって…」
うさぎ「どうせ聞いてもロクな話じゃなさそうだし」
マオ「まぁ、それはそうね」
遠くで雷鳴が鳴る。
黒雲の隙間を青白い光が走った。
マオ「で?他には聞きたいことは?」
うさぎ「始末書書くの?」
マオ「今回はお咎めなしね」
マオ「事故って事にする手続きがあるくらい」
うさぎ「そうか、良かったな!」
マオ「アンタのせいでもあるんだけど」
うさぎ「すまぬ!」
うさぎはごめん寝みたいな土下座をした。
マオは深いため息をついた。
呆れている。
うさぎ「でさ」
マオ「まだあるの?」
うさぎ「第6世界って言ったな、他の世界も女神の玩具扱いなのか?」
マオ「多分そんな感じって聞いたわ」
うさぎ「部署違うと情報無いんだな」
マオ「どこもそんなもんでしょ?」
うさぎ「まぁブラックってそうだよな」
うさぎは腕を組む。
長い耳がぴこりと動く。
うさぎ「うーん…情報無いと何も出来ねぇな」
マオ「聞き出すしかないわね」
うさぎ「あの天使か」
マオ「あの天使シバく」
うさぎ「承知いたしましたお嬢様」
マオ「へ?」
不意を突かれたような声。
マオはうさぎを見る。
マオ「何その返事?」
うさぎ「ん?」
うさぎ「何となく」
うさぎ「仕草がお嬢様っぽいとこあったから…」
マオ「そ、そう…」
マオは咳払いした。
マオ「…気を付けなきゃ」
小声だった。
うさぎ「?」
マオ「何でもない!」
何故か少し機嫌が悪い。
二人は姫とマシロの方へ戻っていく。
そして―――
二人は同時に足を止めた。
「「……」」
マシロは、 姫の膝の上で寝ていた。
虚ろな空洞のような目を半開きにしたまま。
口を少し開けて。
すぴー……
すぴー……
段ボール羽根が時々ぴくぴく動く。
姫はそんなマシロの頭を優しく撫でていた。
周囲には大量のお菓子の食べカス。
クッキー。
ポテチ。
チョコ。
グミ。
どこから出した?
うさぎ「何してんの?」
姫「お疲れのようでしたので」
マシロ「むにゃぁ……もぉ無理ですぅ……」
マオ「仕事中でしょうがァ!!」
マシロ「ひぎゃっ!?」
飛び起きるマシロ。
勢い余って姫の膝から転げ落ちた。
マシロ「し、死ぬかと思ったぁ」
マオ「死ぬかと思ったのはこっちよ!」
マシロ「え?」
マオは無言で消えた山を指差した。
マシロ「あっ」
固まる。
数秒沈黙。
マシロ「てへ?」
マオ「かわいく誤魔化せる規模じゃないのよ!!」
うさぎ「まぁまぁ」
マオ「何でアンタは落ち着いてんのよ!」
うさぎ「いやもうここまで来たら今更感あるし」
マシロ「それはそうかも…」
マオ「よくないわよ!」
姫は不思議そうに小首を傾げていた。
姫「皆さん仲が良いのですね」
「「「よくない!!」」」
声が揃った。
風が吹く。
焼け焦げた大地。
消えた山。
意味不明な世界。
それでも。
その場だけは、 妙に騒がしかった。
―――続く




