第19話うさぎは吐いた、山が消えた
焼けた村。
黒い雷雲。
灰の舞う空気。
その中で。
マオはうさぎを鋭い目で見ていた。
マオ「……うさぎ」
うさぎ「ん?なんか用?」
軽い調子で返す。
少し空気を和ませようとした。
だが。
マオの目つきがさらに鋭くなる。
うさぎ「……あ、これダメなやつだ」
マオ「ちょっと来な」
うさぎ「お、押忍」
うさぎは素直について行く。
姫とマシロから少し離れた場所。
黒く焼けた地面。
灰が風に流れていく。
マオは振り返らずに口を開いた。
マオ「どこまで聞いてんのか知らないけど」
うさぎ「?」
マオ「アンタ危険すぎるのよ」
振り返る。
その手には。
未来的なデザインの銃。
銀色の装甲。
発光するライン。
拳銃なのに、小型砲みたいな威圧感がある。
うさぎ「……は?」
マオ「仕事なの」
次の瞬間。
ドンッ!!
重い発砲音。
稲妻のような閃光。
うさぎ「うわっ!?」
反射的に身を引く。
身体に何かが当たった感触。
だが。
痛みは無い。
うさぎ「……?」
自分の身体を見る。
穴は開いていない。
血も出ていない。
代わりに。
足元には。
拳ほどの大きさの潰れた金属塊。
うさぎ「……どゆこと?」
マオ「……」
深いため息。
マオ「……マシロのヤツ」
額に血管が浮く。
マオ「こんな面倒なやつ送り込みやがって……」
うさぎ「今……撃ったのか?」
マオ「撃ったわよ」
マオ「処分する為に」
うさぎ「物騒すぎるだろ!?」
マオ「危険性があるなら即処理」
マオ「それがあたしのやり方なの」
うさぎ「即断即決タイプかよ!」
うさぎ「危うく死ぬとこだったぞ!」
マオ「今ので死なない方が想定外よ」
マオは銃を見下ろす。
マオ「……次はちゃんと殺るわ」
うさぎ「断固拒否す―――」
その時だった。
どくん。
胸の奥で何かが脈打つ。
うさぎ「……?」
熱い。
違う。
熱いんじゃない。
“動いてる”。
身体の中で。
何かが。
蠢いていた。
うさぎ「なんだこれ?」
マオ「謝ったりはしないわよ?」
マオ「これも仕事―――」
うさぎ「いや違う!」
喉。
胸。
胃。
身体の奥。
何かがせり上がってくる。
うさぎ「なんかおかしい……!」
マオ「は?」
その瞬間。
目の前に半透明の液晶画面が現れた。
ノイズ混じりの文字。
『・ダメージが一定許容量を超えました。』
『・自己防衛機構が起動します。』
『・反撃シーケンス作動。』
『・充填開始。』
『・充填率100%。』
『・反撃を開始します。』
うさぎ「は?」
マオ「!」
うさぎは急激な吐き気に襲われる。
違う。
吐き気じゃない。
喉が焼ける。
熱い。
内側から裂けそうだ。
光。
喉の奥から。
光が漏れている。
うさぎ「……う……!」
マオ「!?」
危険を察知したマオが横へ飛ぶ。
直後。
うさぎは耐えきれずに吐き出した。
虹色に輝く球体。
それは音もなく飛び出した。
地面を削りながら一直線。
先程までマオがいた場所を通過。
焼けた地面が抉り取られる。
灰が吹き飛ぶ。
虹色の光球はそのまま遠くへ。
山脈へ向かって飛んでいく。
マオの頬を冷や汗が伝う。
マオ「……なによ今の……」
うさぎ「俺もわからねぇよ!?」
うさぎ「なんなんだ今の!?」
二人は飛んでいく光を目で追った。
流星みたいだった。
虹色の尾を引きながら。
黒い空を切り裂いていく。
マオ「……流れ星みたいね」
うさぎ「君の方が綺麗だぜ」
マオ「は?」
耳が赤くなるマオ。
うさぎ「嘘デース」
マオ「コロス」
次の瞬間。
遥か彼方。
山脈の向こうで。
強烈な閃光。
そして―――。
山が消えていた。
雷鳴が遠くで響く。
衝撃も何も無い。
ただ。
そこだけが無かった。
巨大な山脈。
その一部が。
丸く。
綺麗に。
くり抜かれたように消えていた。
風も止まる。
音も無い。
世界だけが静止したようだった。
うさぎ「……は?」
マオ「……嘘でしょ」
二人とも口が閉じない。
遠くの空だけがぽっかり抜け落ちている。
うさぎ「山、消えたよな?」
マオ「…消えたわね」
うさぎ「こうなる前に消そうとした?」
マオ「こうなる前に消そうとしたのよ」
うさぎ「ヤバいなこれ」
マオ「ヤバいわよこれ」
うさぎ「始末書とかあんの?」
マオ「あるわよ?」
マオ「てかアタシ死ぬとこだったじゃない……」
うさぎ「俺もさっき死ぬとこだったぞ」
うさぎ「これでチャラな」
マオ「別に良くないけど」
沈黙。
二人並んでくり抜かれた山を見る。
うさぎ「…俺なんなんだ?」
マオ「知るわけないでしょ」
うさぎ「だよなぁ」
マオ「…」
マオは銃を見下ろした。
処分用兵装。
対災害級。
本来なら都市一つ消し飛ばせる出力。
それが。
潰れた。
“当たっただけ”で。
マオ「…最悪」
うさぎ「なんかごめん」
マオ「アンタのせいなんだけど?」
うさぎ「俺も被害者側なんだよなぁ」
再び沈黙。
風だけが吹き抜ける。
そして。
二人はもう一度、山を見る。
二人同時に叫んだ。
うさぎ、マオ「こんなの聞いてねぇえええええええ!!」
―――続く




