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第2話うさぎは肉食を検討する。

 森が静まり返っていた。


 さっきまで暴れていた巨大怪物は、もう動かない。


 上半身が吹き飛び、木々に肉片が引っかかっている。


 鉄臭い血の匂いが辺りに広がっていた。


「…………」


 白いうさぎ――佐伯優兎さえき ゆうとは固まっていた。


 前足を見下ろす。


 白い。


 丸い。


 ふわふわ。


 どう見ても無害。


 なのに。


「なんでああなった……?」


 目の前には惨状。


 巨大怪物だったもの。


 しかも、自分は軽く前足を振っただけだ。


「いやいやいや……」


 理解が追いつかない。


 怖い。


 普通に怖い。


「俺、化け物じゃん……」


 呟いた瞬間。


 ぐぅぅぅぅ……。


 腹が鳴った。


「…………」


 沈黙。


 優兎はゆっくり自分の腹を見る。


「腹減った……」


 そして。


 目の前の肉を見る。


 血まみれの巨大怪物。


 筋肉。


 骨。


 内臓。


「…………」


 妙に美味そうに見えた。


「いや待て」


 優兎はぶんぶん首を振る。


「俺うさぎだよな?」


 草食動物だ。


 絶対。


 たぶん。


「なんで肉が美味そうなんだ?」


 じぃぃぃ……。


 肉を見る。


 腹が鳴る。


「いやいやいやいや」


 距離を取る。


「ダメだろこれは」


 でも匂いがする。


 焼いてないのに妙に食欲を刺激する。


「……え、何?」


 嫌な予感。


「もしかして俺、“うさぎっぽい何か”なんじゃ……」


 思い出す。


 あの天使。


 途中で寝た。


 しかも端末を触りながら。


「絶対まともな設定じゃねぇ……」


 優兎は恐る恐る肉へ近づいた。


 血が滴る。


 湯気が出ている。


「……」


 ぺろ。


「……あ」


 美味い。


 信じられないほど美味かった。


「えっ」


 もう一口。


 がじ。


「美味っ!?」


 自分で引いた。


「うわぁ!?」


 でも止まらない。


 空腹が一気に暴れ始める。


 がつがつがつ!!


 白いうさぎが巨大怪物を食っていた。


 絵面が終わっている。


「なにこれ!?」


 肉が口の中で溶ける。


 噛めば噛むほど旨味が広がる。


「なんで!?」


 血まみれになりながら優兎は呟く。


「俺、何に転生したんだ?」







「後五分……」


 世界管理局。


 廃棄部屋。


 資料と端末が散乱した薄暗い部屋で、一人の天使が床に倒れていた。


 真白。


 ボサボサの白髪。


 シワだらけのスーツ。


 限界を超えた社畜。


「……すぅ」


 完全に寝ている。


 だが次の瞬間。


 カッ!!


 目だけ開いた。


「はっ!?」


 飛び起きる。


「ヤバい! ちこく!?」


 勢いよく飛び上がり。


 そのまま天井に頭をぶつけた。


 ゴッ!!


「いっだぁ……!」


 涙目で額を押さえる。


「……あれ?」


 周囲を見る。


 薄暗い部屋。


 散乱した資料。


 床に転がるタブレット端末。


「……夢?」


 ぼんやり呟く。


 だが。


「…………」


 違和感。


 記憶が引っかかる。


 真白は額に手を当てた。


「えーと……」


 昨夜……いや、さっき?


 何をしていた?


「確か……転生を……」


 そこで。


 真白は気付いた。


「あれ?」


 誰もいない。


「……あれ?」


 周囲を見回す。


 空間の裂け目。


 転生処理用ゲート。


 全部そのまま。


 なのに。


「あの人は……?」


 いない。


「…………」


 顔色が変わった。


「……まさか」


 真白は床の端末を拾い上げる。


 震える手。


 恐る恐る画面を見る。


 その瞬間。


「あ……」


 血の気が引いた。


 画面には文字が並んでいた。


 ―――


 転生完了済み


 個体名︰うさぎ


 種族︰兎型生命体


 分類︰兎型※文字化け※


 ※文字化け※


 備考・特記

・干渉不可

・修正不可

54:6騶ラ$ナ.go.jp‰✣ღЙ¿/邏�ュ秘、ィ縺ォ菴上�蜚ッ荳縺ョ莠コ髢薙〒縺ゅj縲∫エ�ュ秘、ィ縺ョ荳サ縲後Ξ繝溘Μ繧「繝サ繧ケ繧ォ繝シ繝ャ繝�ヨ縲阪↓莉輔∴縺ヲ縺�∪縺吶よ祉髯、繧�エ玲


 ※ノイズ※


 警告


 ・該当データに異常検知


 ・備考に修正不可が選択されています


 ・直ちに確認してください


 ・該当データの状態確定まで残り時間


 ―――00:00:00:00―――


 確定完了済み


 修正不可適応―――完了済み


 ※文字化け※完了済み


 確認画面を終了しますか?


▷はい


 いいえ


 ―――


「あわわわわ……」


 真白の手が震えた。


「な、何これ……」


 冷や汗が落ちる。


「修正不可……?」


 端末を何度も確認する。


 表示が乱れている。


 ノイズ。


 文字化け。


 通常ではあり得ない。


「確定済み……?」


 声が裏返る。


「表示がバグってる!?」


 真白は慌てて端末を操作した。


 高速入力。


 画面切り替え。


「設定書き換え操作なら……!」


 だが。


 ピコン。


 画面に表示。


【操作できません】


「えっ」


 真白の顔が引きつる。


「緊急操作!!」


 再入力。


 権限コード。


 修正コマンド。


 だが。


 ピピッ。


【変更できません】


「なんでぇ!?」


 真白は半泣きだった。


「パッチ追加なら!!」


 さらに操作。


 連続入力。


 エラー音。


【該当データは変更できません】


「……」


 真白は止まった。


 静かに画面を見る。


「制御不能個体……?」


 ぽつり。


 呟く。


「…………」


 終わった。


 本能がそう告げていた。


 しかも。


 修正できない。


 削除もできない。


 管理外。


 完全に事故。


「……どうしよう」


 真白は呆然とした。


 その時。


 端末の隅に時刻表示が出る。


「……あ」


 就業開始三時間前。


 沈黙。


 その瞬間だった。


 真白の表情が消えた。


 目の光が消える。


 スッ……と立ち上がる。


 ふらふら。


 まるで死者みたいな動き。


 彼女は部屋を出た。


 向かう先は、自分のオフィス。


 世界管理局。


 異常修正部門。


総合修正処理室。


 自分の職場。


 廊下には既に出勤している天使たちがいた。


 全員、死んだ目。


「おはようございます……」


「第六世界炎上中です……」


「恋愛イベントまた崩壊しました……」


「女神様が新シナリオ始めました……」


「終わった……」


 終わっていた。


 真白は何も言わない。


 ただ自分のデスクへ向かう。


 椅子に座る。


 端末起動。


 山積みの書類。


 カタカタカタカタ……。


 仕事を始める。


 その顔からは、もう何も消えていた。





 一方その頃。


 森の中では。


「意外といけるもんだな」


 白いうさぎが、巨大怪物をむしゃむしゃ食べていた。


「…うめぇ」



―――続く


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