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『バグったうさぎを修正できません』 ――ブラック企業の天使がヤケクソで転生させた結果――  作者: 島ながぁ
第一章︰名無しの王女

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第17話●選手並みの豪速球

 世界管理局―――総合修正処理室。


 鳴り響く警告音。


 赤。


 赤。


 赤。


 壁一面のモニターが、異常を知らせるように明滅していた。


 ノイズ混じりの映像。


 黒い巨大なきのこ雲。


 まるで世界そのものが腐り落ちていくような黒煙が、第6世界の空を覆っている。


「……っ」


 マシロは口元を押さえた。


 次の瞬間。


「ぅぇ……」


 耐えきれず、その場で吐き出した。


「うわっ!?」


「バケツ!誰かバケツ!」


「だから朝からエナドリ五本も飲むなって言っただろ!」


 騒がしくなる職員達。


 だがその空気を切り裂くように―――


 ゴッ。


 と。


 何かが切れる音がした。


 皆が振り向く。


 マオだった。


 笑っていない。


 目も笑っていない。


 額には血管。


 拳は震えている。


 そして。


「―――あのクソ女ァァァァァァァ!!!」


 絶叫。


 総合修正処理室全体が揺れた。


「マオが切れた……」


「……またかよ」


「まぁ今回は無理もねぇ」


「どこやられた!?」


「範囲確認急げ!」


「第6世界東部農業区域!都市単位で消失!」


「地形データ破損!」


「住民データも巻き込まれてる!」


「バックアップ照合急げ!」


 口では騒ぎながらも、職員達の動きは異様に速い。


 キーボード。


 端末操作。


 資料展開。


 怒号。


 総合修正処理室は、一瞬で戦場になっていた。


 その中で。


 マオは、ゆっくりと息を吐いた。


「……もういいわ」


「へ?」


 吐いた後でぐったりしていたマシロが顔を上げる。


 マオは無言でマシロのデスクへ向かい。


―――座った。


「ま、マオ?」


 高速でキーボードを叩き始める。


 カタカタカタカタカタッ!!


 もはや打鍵音が連打ゲーの達人だった。


 複数モニターに意味不明なコードが流れる。


 エラー。


 接続失敗。


 警告。


 侵入拒否。


 マオ。


「チッ」


 舌打ち。


 さらに打ち込む。


「第6世界の管理権限までロックしてんじゃないわよクソ女神が……!」


 再びエラー。


 画面に浮かぶ。


《権限不足》


 マオの眉がピクッと動く。


「……は?」


 総合修正処理室の空気が冷えた。


 誰かが小声で呟く。


「やべぇぞ……」


「マオの第二形態だ……」


「逃げろ……」


 だがもう遅い。


 マオは立ち上がった。


「遠隔で出来ないなら―――」


 振り返る。


 その目は完全に据わっていた。


「直接介入するわよ!」


「は!?」


 マシロが飛び上がる。


 数秒。


 ぽかん。


 そして。


「その手があったねー!思いつかなかった!」


「アンタ疲れすぎて脳死してんのよ!」


 マオが壁に向かって端末を叩きつけるように操作する。


 空間が歪む。


 処理室の壁に、黒い楕円状のゲートが出現した。


 バチバチと火花のような光が散る。


 職員達がざわつく。


「マジで現地介入!?」


「始末書案件だぞ!?」


「いや今更だろ!」


 マオは振り返る。


「行くわよ!」


「へ?」


 マシロ、周囲を見回す。


「誰が?」


 沈黙。


 マオ、にっこり。


「アンタ。」


「え?」


 次の瞬間。


 ズボッ。


「はうぁっ!?」


 マオの腕が。


 マシロの頭に突っ込まれていた。


「ぎゃあああああ!?!?」


「うるさい!」


「なにこれ!?なにこれぇ!?!?」


 そして。


 ズルゥ……


 引きずり出された。


 マシロの魂が。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 半透明のマシロが、マシロ本体から引っ張り出されている。


 職員達。


「うわぁ」


「久々に見た」


「荒業すぎる」


「コンプラって知ってる?」


 マオは魂マシロの首根っこを掴む。


「アンタに決まってんでしょうがァァァァァ!!」


「やだぁぁぁぁぁ!!現場こわいぃぃぃ!!」


 魂マシロ、じたばた。


 しかしマオは無慈悲。


 片足を高く上げる。


 美しいフォーム。


 まるでプロ野球選手。


「行ってこいやああああ!!」


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ブンッ!!


 オーバースロー。


 球種マシロ、投擲。


 魂が一直線に飛んでいく。


 そして。


 吸い込まれるようにゲート中央へ―――


 ストライク。


 スポォン!!


「ぎゃあああああああああ!!!!」


 消えた。


 静寂。


 一同。


「「「ナイスピッチ」」」


 マオは肩を回した。


「……よし」


「よし、じゃねぇよ」


「人投げたぞ今」


「しかも魂だけ」


 だがマオは真顔だった。


「次、私行くから現場維持よろしく」


「え?」


「へ?」


「マジで行くの?」


 マオは端末を腰に装着しながら吐き捨てる。


「当たり前でしょ」


 モニターに映る。


 黒いきのこ雲。


 そして。


 ノイズ混じりの映像の中。


 白黒の車の前で立ち尽くす白いうさぎ。


 マオは目を細めた。


「……あのバカうさぎ」


「よりにもよって、一番最悪なタイミングで巻き込まれやがって」


―――続く

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