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『バグったうさぎを修正できません』 ――ブラック企業の天使がヤケクソで転生させた結果――  作者: 島ながぁ
第一章︰名無しの王女

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第16話●平穏という名の異常

 女神が旅行へ行って数日。


 世界管理局、第6世界担当室では―――別の意味で異変が起きていた。


 静かだった。


 異様なほどに。


 いつもなら鳴り止まない警告音。 国情勢崩壊アラート。 歴史矛盾エラー。 住民消失報告。 転生者暴走通知。 文明崩壊カウント。


 それらが―――ほぼ鳴らない。


 カタカタと響くキーボード音。


 いや、それすら少ない。


「……平和だわ」


 誰かがぽつりと呟いた。


 思ったより大きな声だったらしく、本人が一番驚いていた。


 室内の何人かが顔を上げる。


 そして静かに頷いた。


「他の神のとこってこんな感じなんかなぁ……」


 誰も答えない。


 沈黙。


 それが答えだった。


 第6世界担当室。


 そこは普段、戦場だった。


 だが今は違う。


 私服で仕事している職員。 早弁をしている職員。 堂々と酒を飲んでいる職員。


 ゲーム。 漫画。 資料を丸めてキャッチボール。


 プラモデルを組み立てている職員までいる。


 隅ではパジャマ姿の女性職員が布団に包まって熟睡していた。


「いやマジで寝れるんだな人間って……」


「女神いないだけでここまで違う?」


「むしろ今までが地獄すぎた」


 談笑。


 笑い声。


 世界管理局とは思えない光景だった。


 一瞬―――警告音が鳴る。


 ピィィィィッ!!


 室内の空気が凍りついた。


 全員が反射的にモニターを見る。


 だが次の瞬間。


「……あ、わりぃ。目覚まし」


「ビビらせんなや!」


 爆笑。


 誰かが椅子から転げ落ちた。


「寿命縮んだわ……」


「条件反射って怖ぇ……」


 そんな緩み切った空気の中。


 一人の職員が端末を片手に立ち上がった。


「これ……バグですよね……どうします?」


 端末画面には映像。


 白いうさぎ。


 無人の街を探索している。


「あー……そのうさぎか」


 別の職員がチラ見する。


「めんどくさいから放置でよくない?」


「別に暴れてないし」


 数人が映像を覗き込む。


 コンビニで缶詰を漁るうさぎ。


 カレーを作るうさぎ。


 妙に真剣な顔で炊飯器を見つめるうさぎ。


「……なんか可愛いですね」


「カレー美味そうだな」


 映像が切り替わる。


 コンビニのレジを破壊して硬貨を回収していた。


「犯罪者じゃねーか」


「このうさぎヤバ笑」


「誰か警察呼べや笑」


 さらに映像。


 例の店でカートに商品を放り込みまくるうさぎ。


 完全に略奪。


「躊躇ゼロなの草」


「異世界適応力高ぇなコイツ……」


 女性職員が小さく呟いた。


「削除……しないでおきませんか?」


 空気が少し変わる。


 皆、もう一度映像を見る。


 一人ぼっちで。 誰もいない世界を歩く白いうさぎ。


 静かな間。


 やがてリーダー風の男性職員が椅子を回した。


「なんかあった時は保護方向で行こう」


「報告は?」


「めんどくさい」


「ですよねー」


 笑い声。


 その瞬間だった。


 室内すべてのモニター。


 一斉に鳴り響く警告音。


 ギュイイイイイイイイイイイイッ!!


 赤。


 赤。


 赤。


 画面が警告色に染まる。


 空気が凍った。


 誰かが震える声で呟く。


「……あのバカ何やった?」


「「……」」


 全員同時に叫んだ。


「「あのバカ何やった!?」」




 ―――少し前。


 総合修正処理室。


 マシロのデスク。


 モニターには第6世界の映像が流れていた。


 森を爆走する白黒の車。


 運転席には白いうさぎ。


「結局接触してるじゃない」


 マオが呆れ顔で言う。


 マシロは机に突っ伏したまま答えた。


「こちらから接触する手段が無くて……」


 モニター映像。


 姫を轢きかけるうさぎ。


 村でジンギスカンを頬張るうさぎ。


「……今度ジンギスカン食べいく?」


「……行きましょ」


 疲れ切った声。


 姫を村に残し、うさぎは車で去っていく。


 マオは小さく息を吐いた。


「まぁ……何とか無事に済みそうね」


 マシロも安堵したように椅子へ沈み込む。


「……良かったぁ」


「あの姫と別行動になったのは幸いね」


「後でうさぎとの通信方法考えましょ」


「痕跡処理かぁ……めんどうだなぁ……」


「末期じゃない」


 二人はようやく少し肩の力を抜いた。


 マオが端末を閉じる。


「ランチどこ行く?」


「なんにもおもいつかない」


「末期だったわ」


 その時だった。


 モニターから。


 警告音。


 ギィィィィィィィィィィィィッ!!


 二人の動きが止まる。


 ゆっくりとモニターを見る。


 そこには。


 ノイズ混じりの映像。


 黒い巨大なきのこ雲。


 マシロの顔から血の気が引いた。


「あ……」


 喉が震える。


「う……」


 その場で吐いた。


 マオのこめかみに血管が浮かぶ。


「―――またやりやがった」


 さらに警報が鳴る。


 モニター内。


 村が。


 地形ごと消えていく。


「あのクソ女ァァァァァァ!!」


 マオの怒声が処理室に響いた。


 ―――続く

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